第8章晴れ渡る空
その時、階段からホワイトドラゴンさんが飛び込んできた。全身に擦り傷を負いながらも、その目は死んでいない。
「どけぇええええっ!!」
彼は銃を構え、弾丸を氷魔竜の頭部へ連射する。
怯んだ竜は、塔の最上部――鋭い氷柱が並ぶ天井近くへと逃げ込んだ。
「ホワイトドラゴンさん!! 天井を! 氷柱を撃ってください! 奴の翼を封じるんだ!!」
「承知したッ!!」
ホワイトドラゴンさんの銃口が上を向く。放たれた弾丸が天井の氷柱を根元から砕き、巨大な氷の杭となって落下。逃げ場を失った氷魔竜の翼を無慈悲に貫いた。
「ウヴァァアアアアア!!」
氷魔竜が悲鳴を上げ、墜落する。
「今だ――!!」
僕は地面を蹴った。残された全魔能を刀に集約し、落下する竜の懐へ飛び込む。
「――これで終わりだ!! 魔能・黒炎斬ッ!!」
黒き炎が、極寒の世界を切り裂く。
炎の刃は竜の腹部から胴体を一刀両断に引き裂き――。
「ウヴァアアアァァァァァ!!!!!」
断末魔と共に、氷魔竜は粉々に砕け散った。
― 氷魔の塔・1F ―
里見さんは、膝をつきながらも顔を上げていた。
全身から流れる鮮血が、ドレスを赤く染めている。
目の前の氷の姫が、最後の一撃を放とうと腕を上げた。
だが里見さんは、その腕に宿る「震え」を見逃さなかった。
(今よ――!)
彼女は残された力を振り絞り、跳躍した。
自身の肉体を極限まで強化する魔能ジャンプルピモネ。
「助けてあげる……!! あんたが、誰よりも自分を責めてるのが分かるから!」
里見さんの声が、塔の静寂を貫く。
彼女の蹴りは、氷の姫が作った防護壁を、その呪いごと粉砕した。
氷の姫の瞳に、一筋の涙が浮かぶ。
その涙が凍って落ちる前に、里見さんはその体を優しく抱きしめた。
「もういいのよ。……あなたは、十分守り抜いたわ」
その言葉が届いた瞬間、女性の体は温かな光に包まれ――一つのティアラを残して、雪解けのように消えていった。
「……やった、倒せたんだ……」
ホワイトドラゴンさんが立ち尽くす僕の隣で、静かに呟いた。
塔の外では、あれほど猛威を振るっていた吹雪が嘘のように止んでいる。
僕たちは無言で頷き合い、里見さんの待つ1階へと急いだ。
そこには、血まみれでありながら、どこか清々しい顔をした里見さんが、ティアラを拾い上げている姿があった。
「里見さん!! 大丈夫ですか!?」
「……ええ。死ぬかと思ったけど、この通りよ。かすり傷ね」
強がる彼女を見て、僕は少しだけ笑ってしまった。そして、ホワイトドラゴンさんを見る。
「ホワイトドラゴンさん、ありがとうございました。あなたが来なければ、僕は今頃氷像でした」
すると、彼はあからさまに顔を背け、耳を赤くして呟いた。
「……別に。俺はただ、俺のケジメをつけただけだ。……勘違いするな」
「ふふ、本当に素直じゃないんだから」
里見さんの笑い声が、ようやく静寂を取り戻した塔の中に響いた。
「……行こう。スッケオへ。温かい食事と、ベッドが必要だ」
ホワイトドラゴンさんの提案に、僕たちは深く頷いた。
空は晴れ渡る。




