↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/37

ep.7 もしかして、あなたが連れ出してくれるの?

◇◇◇


その日、最初に部屋を訪れたのは母だった。

「カヤ。おはよう」


――おはよう?もう朝なんだ。


閉じ込められて、何日目だろう。半月は経っていない気がする。いや、もっと短いのかもしれない。


私は毛布にくるまったまま、ぼんやりと母を見上げた。


「お母さん……。私の力って何なの?」

ずっと気になっていた。 目には見えない、この力の正体が。


母は穏やかに微笑んだ。

「あなたには、他者の魔力を高める力があるのよ」

「魔力を高める……? それって、私以外の悪魔もできることなの?」

「無理よ。あなただけの力よ」


私だけ。その言葉が胸の奥へ重く沈んでいく。


魔力は魔法の根幹だ。悪魔の強さは、魔力量に大きく左右される。


もし母の言葉が本当なら、私は、一族にとって計り知れない価値を持つ存在だ。私は巨大な資産ではないか。サイリン一族の。そして、この国家の。


だから外へ出してもらえなかった。来客に会わせてもらえなかった。歴史も教えられなかった。ずっと隠されていた。閉じ込められた。


つまりこの状況は、貴重な力が生み出した、私にとっての地獄だ。


この地獄を作り出したのは、魔力を高める力なのか。利用しようとする欲望か。


「力も開花して、結婚式の準備も始まってめでたいわ」

母は明るく笑った。だが私は、意味が飲み込めなかった。


「……結婚式って、何?」


「何言ってるの?もちろん、兄たちとカヤの結婚式よ」

「え……?」


(兄たちとの、結婚式?)


「何それ? 私は、ゼアキと結婚するんじゃないの?」


聞いておいて、決められた未来に吐き気がしてきた。ゼアキと結婚なんてしたくない。


「あら? 言ってなかったわね。悪魔は沢山夫をもつのが普通なのよ。私はお父さんを愛してるから、夫はひとりだけど」

「夫を沢山もつ……?」

「そうよ。衣装も宝飾品も、もう準備を始めたのよ。あなたが十九歳になったら兄たちと結婚しなさい。それで、子を産むのよ。ああ。ゼアキの子だけでいいわ」


「ゼアキの子"だけでいい"?」


私は息を呑んだ。だが、母は穏やかに笑ったまま付け加える。


「だって、ゼアキが一番強いもの。王妃は跡継ぎを産むのが務めじゃないの」


当然のように、母は語る。


気持ち悪い内容だ。何より、私に権利や拒否権がないではないか。


――王妃って、こんなに苦しいものだったの? 周囲の言いなり? あんな男と結婚するのが義務? いやだ! 絶対にいやだ!


「それじゃあ、いつも通り、私を強くしてね」

母は、楽しそうに笑った。


今日も、地獄が続く。


◇◇◇


母が部屋を出ていった途端、私は泣きたくなった。

私は毛布を抱き締め、唇を噛む。


(もう嫌だ。辛い……)


搾取される日々。打ち砕かれた穏やかな日常。ここにいたら、私は間違いなく壊れる。おかしくなるだろう。


――嫌だ! 嫌だこんなところは嫌だ! 逃げたい! 出たい! ここから出たい!


強く願った、そのときだった。


「あれ……?」


私の両手から、小さなオレンジ色の炎が生まれた。

音もなく、炎が爆ぜる。


揺らめく炎は、指先ほどの大きさしかなかったが、呆気にとられる間もなく大きくなり、天井近くまで一気に燃え上がった。


部屋全体が、柔らかな橙色に染め上がる。


――この炎は、一体……何?


怯えることもなく、私は呆然と、その美しく温かい輝きに見入っていた。


その炎はまるで、キャンプファイヤーみたいだった。指先から、音を立てて燃え上がる滝のようだ。

不思議と熱くない。怖くもない。


むしろ、冬の焚き火のような優しい温もりが、凍えていた心をゆっくりと溶かしていく。


――お願い! 私をここから出して!


私はその炎に願った。炎が、私の願いを叶えてくれるような気がしたから。


炎へ向かって願うと、それは静かに形を変え始めた。


ゆらり。ゆらり。炎は翼となり、尾となり、長い首へと姿を変えていく。


十秒ほどかけて姿を変えたそれは、巨大な鳥だった。空を翔ける古代竜を思わせる、美しく神々しい炎の鳥。鬼灯色の翼は燃え盛っているのに、少しも熱を感じない。


私は、その燃える瞳をじっと見つめた。

炎の瞳は、無言で私を見つめ返してきた。


〈ここから出たいか?私なら、出してやれる〉


そう、鳥に呼びかけられた気がした。


「出して! 私を助けて! 連れ出して! 私、逃げたいの!!」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。