ep.35 家族はエリート王族
◇◇◇
私は瞼を開いた。
――なんか、体が軽いな……。
そう思った瞬間、ぎょっとした。私は見たこともないような美しい女性に抱かれていたのだ。
――え? 誰?
女性は私と目が合うと、微笑んだ。それは、妖艶な笑みだった。
――なにこの超美人……。色気が凄いな……。
女性は、腰まで伸びた真っ直ぐなストロベリーブロンドの髪をしていた。瞳は、蜂蜜色だ。
「シェルリは私と同じで、ストロベリーブロンドの髪と蜂蜜色の瞳だな。兄と姉は父親に似てるのにな。お前は私にそっくりだ」
女性は面白そうに呟くと、私の体の向きを変えた。
私はぎょっとした。
目の前には、大きな鏡があり、私は女性の腕に抱かれた赤子の姿になっていたからだ。
女性は、ベッドで上体を起こした状態で私を抱いていた。
なんとなく私には、今が出産直後なのだと分かった。
――私、赤子になってるー! 本当に生まれ変わったの?
驚愕していると、女性は私を抱きしめ直して言った。
「シェルリは大人化しないんだな。闇の悪魔は生まれればすぐに光に包まれて大人の姿になるんだが……。ふむ。興味深い……」
――え? 大人化? 闇の悪魔ってなんですか?
「あー」
「可愛い声してるな」
――あれ? 赤ちゃんボイスしか出せない……。当然か……。
がっくりしたときだ。
部屋の扉が開いて、一人の背の高い男性が入室してきた。
「その子が私の娘か」
男性は口角を上げた。
――何この超かっこいい男性ー!
私は目を見開いた。
男性は、腰まで伸びた深紅の髪と瞳を持っていた。ミステリアスな雰囲気を纏っていて、全身からは圧倒的な魔力を感じる。
男性は私に近づくと、私を見下ろした。
――この男性が私のお父さん……? かっこよすぎる……。嬉しい……。何この超美形な両親……。
美貌に思わず見惚れていると、男性が口を開いた。
「大人の姿になれないんだって? 病弱なせいじゃないか?」
「まあ、そういう特殊体質なんじゃないか? その内大人化するだろ?」
女性は淡々と答えた。男性は頷いた。
「それもそうだな。ああ。医者はハクをつける。シェルリが寝てる間は、ハクが来てくれるぞ」
「はあ? ハク? あいつは赤の国一番の医者だがな。薬は激まずで、注射は激痛だぞ?」
女性が片眉を跳ね上げると、男性は笑い飛ばした。
「寝てる間に、色々処置をしてくれるから大丈夫らしい。その子は病弱だからな。定期的に診てもらえ」
「そうか。寝てれば薬の不味さも分からんか」
「睡眠の暗示も魔法でかけるからな。注射で起きることもないぞ」
「そうか。ならいいじゃないか。シェルリ。良かったな」
――えっと……。良かったのかな? ハクって誰だろ?
「試しに抱っこしてみようかな。その子を渡してくれ」
男性が面白そうに口角を上げると、女性は頷き、私を男性に手渡した。
私は男性に抱かれた。男性はじっと私を見つめてきた。
――かっこいい……。余裕に溢れた男性って感じ……。私、この両親に愛されたいな。可愛がってもらいたい……。
男性が私の頬を撫でたので、私は小さな手で、彼の指をぎゅっと握った。
――可愛いって思ってもらいたい!
私は、にっこりと笑った。
「へえ。可愛いじゃないか」
男性は少しだけ笑った。
――よっしゃ! 成功!
「また来るよ。政務があるからな」
「そうか」
男性は私を女性に渡すと、部屋から出て行ってしまった。
――もうちょっと一緒にいたかったな。
私はしょんぼりした。すると、女性が私の頭を撫でた。
「何を寂しそうな顔してるんだ? 父親が好きなのか?」
女性はクスリと笑った。
「あいつはな。赤の王、ヴィティス=ジェルドイだ。お前の父親だよ。この軍事国家の国王さ。ここは赤の国。お前は姫さ」
――まじですか……! 私は今世も姫ですか……。お父さん、国王なんだ……。赤の王っていうんだ! かっこいい!
私は、女性の指をぎゅっと握ると、向日葵のような笑顔を作って女性に笑いかけた。
「お前可愛いな。何にこにこしてるんだ?」
――よっしゃ! お母さんに可愛いって思ってもらえたみたい!
「私はな、ヴァルブライカの女王、クミン=ヴァルブライカさ。これからよろしくなシェルリ」
――お母さん、女王なの!? かっこいい!
「なにせ、出産で体に負担がかかったらしくてな。三カ月はベッド生活だ。やれやれ。しばらくお前と一緒に過ごすか。この赤の城は快適だし」
――ここは赤の城?
「回復したら、ヴァルブライカに帰るよ。政務をユミンに任せっきりにできんしな」
――ユミン? 誰だろ?
◇◇◇
その日から、私とお母さんのベッド生活が始まった。
お母さんはよく本を読んでいた。私は、彼女の枕の隣で寝たり、ベッドでもぞもぞしたりして過ごしていた。
私は、燃えていた。
――両親に愛されたい! 可愛いって思ってもらいたい!
起きている時間は、私はできる限りお母さんに甘えた。
指をぎゅっと握ったり、可愛らしい笑顔や仕草で甘えた。頻繁に抱きついたりもした。
「可愛いな」
そう言って、お母さんはだんだん私を可愛がるようになった。頻繁に抱っこしてくれるようになったのだ。
私は、もちろんお父さんにも甘えた。可愛らしい笑顔と仕草で、全力で愛嬌を振りまいた。
次第に、お父さんは私の元を訪れる時間が増えた。会う度に、頭を撫でたり、抱っこしてくれるようになった。
――やったぁ! 成功だ! 前世は家族に愛されてなかったけど……。今世は愛してくれるかもしれない!
私は歓喜した。
そんな日々を過ごしていたある日、母が私を抱っこしながら言った。
「今日はな、お前の兄と姉が来てくれるぞ。といっても、二人はジェルドイ王族を百年くらい前に抜けてるけどな」
――え? 王族を抜けてる? ジェルドイって、私とお父さんの姓だよね?
お母さんはクスリと笑った。
「何不思議そうな顔してるんだ? 私の言葉が分かるのか? なわけないか。といっても、闇の悪魔は生まれたときに最低三言語は話せる脳になってるからな。分かるのかな? ……いや、赤子に言葉が分かるわけないか」
――お母さん! 私、分かるよ! アンタイ語で喋ってるじゃん!
「お前の兄のミカヅキはな、十五王国の一つ、マイララワの国王だ。姉のラデンはな。三百五十王国の一つ、カイの女王だ」
――ええ? 私の兄と姉は、国王と女王なの?
「ミカヅキとラデンはな、クーデターを起こしてマイララワとカイの王座を奪取したのさ。だから、ジェルドイ王族を抜けたんだ」
――ええ!? クーデター? どうやってそんなことしたの!?
「まあ、よかったよな。我々闇の悪魔には寿命がない。子どもが生まれたら赤の王と永遠に王座争いさ。野心があるなら他国の君主になって正解だったな。……シェルリは病弱だし、全然驚異じゃないな」
――は? 寿命がない? それ、人口爆発しない?
不思議に思ったときだった。急に、お母さんの声が冷たくなった。
「もしお前が強かったらな。私と赤の王にとって、敵対関係になる。そしたらお前を愛さなかったよ」
「……」
――なら、弱く生まれてよかったかも……。魔力がほんとに私の願いを叶えてくれたのかな?
「ミカヅキとラデンはな、お互いに敵対関係だ。マイララワとカイはな、赤の国とヴァルブライカとも、敵対国だ。家族関係なんてこんなものだ。私はミカヅキもラデンも好きじゃない。お前はレアだな」
そう言うと、お母さんはクスリと可笑しそうに笑った。
――……怖いな。この王家、冷え切ってるじゃん……。
そう思ったときだった。部屋に扉をノックする音が響いた。
「入れ」




