ep.34 私は赤の国に生まれ変わる
◇◇◇
――え? ここ、どこ?
目が覚めると、真っ暗な空間にいた。
光は一切存在しない。完全な暗闇がどこまでも広がっていた。
――フェンミルは? ソウマは? クロバはどこにいるの?
私は首を振ってきょろきょろした。しかし、この空間には暗闇しかない。
怖くて、私は少し泣きそうになった。
――ここはどこ? 青の国なのかな? なんで皆いないの? まさか、どこかに閉じ込められたとか? ……私、また何かされたの?
不安に駆られたそのときだ。
暗闇の向こう、二十メートルくらい先に、オレンジ色の光が見えた。光はだんだんとこちらに近づいてくる。
近づいてくるにつれて、その光がランプの光だと分かった。
そして、ランプを持っているのが男性だと分かった。彼は、真っ赤な目をしていて、腰まで伸びた黒髪をもつ美男だった。
男は、冷ややかな表情をしていた。しかし、私は彼の表情からなぜか優しさを感じた。
――誰だろう?
彼は、私の目の前まで来た。青の王よりも背の高い男性だったので、私は彼を見上げた。
自分が小さいせいか、首が痛くなりそうだった。
男性は真剣な表情で口を開いた。
「ここは冥界だ。俺は死者の案内人だ。お前は死んだんだ」
――え? ここは冥界? 私、死んだの?
私は目を見開いた。信じられないような情報なのに、なぜか私はすとんと納得してしまった。
後から思い返すと、それはあまりにも不自然だった。
――そっか。私、死んだんだ……。もう、青の王にもソウマにも、クロバにも会えないんだ……。
私が泣きそうになって俯いたときだ。男性が、指を鳴らした。
すると、何もなかった空中に、透明な紙のようなものが現れた。そこには、映像が映っていた。
映像には、青の臣下たちが白い花を持って並んで立っていた。クロバとソウマも、悲しそうな顔で立っている。彼らの前には、黒い棺があった。
そして、青の王の姿が見えた。青の王は、棺に縋って声をあげて泣いていた。
私は言われなくても分かった。
――これは、私の葬儀だ。今、青の国では私の葬儀をしてるんだ。あれは、私の棺だ。
青の王が臣下たちの前で泣いている。みっともなく棺に縋りながら。その背中からは未練が溢れていた。
――青の王、そんなに私のことが好きだったんだ……。
私は、こんなときなのに嬉しさが込み上げて来た。気づいたら、もう皆に会えなくて悲しいのに微笑んでいた。
私が目を細めると、男性は指を鳴らした。すると、映像は消えた。
「ついてこい」
男性に言われて、私は素直に頷いた。
私は、男性の隣を歩き出した。
その男性は、私を確かめるように、何度も見ながら、真っ直ぐ歩いて行く。
私は、大人しくついて行った。
真っ暗な空間で、道もないのに、なぜか不安じゃなかった。怖くもなかった。
――この男性は安全だ。この空間は怖い場所だけど、彼と一緒にいれば、大丈夫だ。
なぜかそう思えた。
私が微笑むと、彼は優しく微笑み返してくれた。
どれほど歩いただろう。やがて、私は眠くなった。
「あの……。私、眠いな…。寝たいな……」
私がおずおずと頼むと、男性は無言で頷いた。
直後、彼は指を鳴らした。すると、私の目の前に木でできた黄色い椅子が現れた。
「ここで座って寝ろ」
私は素直に頷いた。なんだか、頭がぼんやりした。
椅子に腰掛けると、座り心地の良さに少しだけ驚いた。そして、目を閉じると、私は眠りについた。
◇◇◇
目を覚ますと、男性が私の隣に立っていた。
――おはよう。
私が笑顔を向けると、彼は口角を上げた。
彼が歩きだしたので、私は彼について行った。
そんな日々が、体感で七日続いた。私と彼は無言で並んで歩く。そして、私が眠くなると彼が椅子を用意する。目が覚めると、また暗闇の中を歩く。
私はそんな日々に、なぜか安心していた。
不自然なことに、青の国に帰りたいだなんて、一度も思わなかった。
その日も、私たちは暗闇を歩いていた。すると、突然男性が立ち止まった。
――なんだろう?
私が彼を見上げると、彼は何もない空間を指差して、私を見ながら言った。
「お前は生まれ変われ。赤の国、ジェルドイへ」
――赤の国? ジェルドイ?
私が首を傾げると、彼は私の背後にまわった。そして、私の背中を押した。
「また会おう。遠い未来でな」
――え? また?
押されて体が前に傾いた途端、目の前に青空が見えた。
澄んだ青空は美しく、雲の間を何匹もの竜が飛んでいた。
次に、美しい街並みと巨大な城が見えた。
竜たちの何匹かは、城へ向って降下していく。
――なんて綺麗な国だろう! ここが赤の国? 私、ここに生まれ変わるの?
高揚したときだった。視界が、再び真っ暗になった。
――ここ、暗いけど冥界じゃないわ……。
私は直感で理解した。そこは暗闇なのに、心臓の鼓動のような音がしたのだ。そして、なぜか分かった。私は魔力に包まれているのだと。
――これは、私の魔力なんだ……。
そう思ったとき、声が聞こえた。
「どうなりたい? どういう風に生まれ変わりたい?」
――もう、魔力を高める力はいらない……。この力は素晴らしいけど、利用されたくない!
「私、弱くなりたい! 弱くて守られて、愛される存在になりたい! 愛されたい!」
――お前の願いを叶えよう。
頭の中に、魔力の声が響いた。
その瞬間、私は、意識を失った。
――シーズン1 完




