ep.33 これが私の前世
「お前は、六日間眠っていたんだ。全然目を覚まさなくて……」
青の王が言いかけたときだった。突然、勢いよく部屋の扉が開いた。
青い顔をして駆け込んで来たのは、赤い髪と黄色い瞳をもつ悪魔だった。
彼は私に一瞥すら向けず、青の王に話しかけた。
「大変です! 原因が分かりました!」
青の王は私の頬から手を放すと、瞳に冷たく鋭い光を宿した。
「原因はなんなんだ?」
青の王が低い声で問うと、彼は青い顔のまま続けた。
「彼女は特殊な体質だったんです! 血縁者から魔力を貰わないと、死んでしまいます!」
青の王の顔色が、さっと変わった。
――血縁者から? つまり、家族から魔力を貰わないと、私は死ぬ……?
「前にクロバが、彼女の先天性疾患を調べたでしょう? 専用の薬剤で、身長が低すぎる理由は先天性疾患だと突き止めましたよね?」
「確かあのときは、薬剤が水色に変色したな。普通は疾患があるなら青色に変色するから、クロバも不思議がっていたが……」
「ええ。紛らわしかったですけどね。身長が伸びない理由は、特殊体質のせいだったんですよ。先天性の身長の病ではなくて!」
「なんだって!?」
青の王はぎょっとした顔をした。
赤髪の彼は、言い辛そうに顔をしかめた。
「彼女の血縁者のサイリン王族は、滅亡しました。私たちが戦争を仕掛けて、彼らを捕虜にして始末しましたから……。しかも、サイリン王族は近親婚しかしません。彼女の母親だけは外国人ですが、母方の王族は滅ぼされています。つまり、どこにも血縁者はいません」
――私、死ぬしかないってこと?
「絶対に、血縁者じゃないと駄目か? 俺たちの魔力じゃ駄目なのか?」
「はい。規格外です。血縁者じゃないとはまらないのです。一から説明しますから……」
青の王と彼は、私には分からない言語で会話を始めた。
私はただ、横になったまま呆然としていた。
――私はいつ、家族から魔力を分けてもらってたのかな? そんなことされた記憶はないし……。もしかして、寝てる間にしてたとか? 理由を説明したら、私が怯えるからってこと?
そんな疑問が湧き上がってきた。
しかし、答えを教えてくれる家族は、もうこの世にいない。
◇◇◇
その日から、症状は悪化の一途を辿った。
毎日の昼寝に加えて、数日に一回、意識を失うようになった。
倒れてしまうと、何日も目が覚めなかった。
初めは、四日間目覚めなかった。次は六日間だった。その次は八日間、さらに次は十一日と間隔も延びていった。
私は寝ている時間の方が多くなった。目覚めて一日、二日経つと、突然眠ってしまうのだから当然だ。
気づいたら眠っていて、気づいたらベッドの上。そんな歪な生活が当たり前になっていた。
私が寝ている間に、医療担当の赤髪の悪魔が色々と処置は施してくれているらしい。
目覚めたら、彼が側にいることも多かった。
しかし、彼の纏う雰囲気はピリピリしていて、常に薬の調合やノートに書き込みをしているので、私が彼と話すことはなかった。
むしろ、目が覚めると、フェンミルが毎回側にいた。
――心配で、ずっとついててくれたのかな?
私は胸が温かくなった。
クロバもソウマも、私をとても心配してくれた。
けれど、症状が改善することはなかった。
◇◇◇
「フェンミル……今回は何日眠ってたの?」
目を覚ますと、ベッドの上だった。
「三十日だ」
青の王は、暗い表情で答えた。まるで、怯えているみたいだった。
「あのね……。私、目覚めたばかりなのに、また眠くなってきちゃった……。起きたら、花畑に連れていってくれない? 散歩してみたいな。久しぶりに、外に行きたいの」
「分かったよ。起きたら必ず行こう」
青の王の表情は、少しだけ泣きそうだった。
私は微笑んだ。
――楽しみだな。また、ソウマに花冠をつくってもらいたいな……。
ゆっくりと、瞼が落ちていった。
――起きたら、みんなと沢山おしゃべりしたいな。
起きたら、話そう。散歩しよう。そう、思っていた。
もう自分が目覚めないなんて、知らなかったから。




