ep.32 眠り続ける猫神
青の王は、ソウマが座っていた椅子に腰掛けると、
右手を差し出した。
私は彼の右手に、自分の左手を重ねた。
――フェンミルの魔力を高めたい。
心の中で、強く願う。
一分ほどすると、私は手を離した。
「どうだった?」
――喜んでもらえたかな? 魔力が高まったら、嬉しいよね……。
「ありがとう。嬉しいよ」
青の王は、柔らかく微笑んだ。しかし、私には、彼があまり喜んでいるようには見えなかった。
――あれ? おかしいな……。この力を使ったら、家族もギショウ王も狂喜してたのに……。あんまり嬉しくないのかな?
つまり青の王は、私の希少な力に対して、打算や利用する気はないのだろうか。
――青の王は強国の国王だもんね……。魔力が有り余ってるのかな? 私の力、いらないくらい強い悪魔?
「もういいか? 一緒に読書をしよう」
「う……うん!」
「とってくるから、ちょっと待っててくれ。瞬間移動魔法を使うから、一瞬で戻るよ」
そう言うと、青の王は優しく微笑んだ。
◇◇◇
その日は、青の王と一日中読書をして過ごした。
夜はソウマが付き添ってくれた。
――ソウマが帰ってきてくれて、嬉しい!
ソウマが側にいてくれるだけで、私は嬉しくてたまらなかった。
夜は、ぐっすりと眠ることができた。
◇◇◇
それから五日間は、何事もなく穏やかな日常が流れた。
日中は、青の王やクロバやソウマと過ごす。夜になると、クロバかソウマが付き添ってくれた。
昼になると猛烈に眠くなり、一時間から二時間ほど昼寝をして過ごした。
この前のように、倒れてしまうことはなかった。
さらに、私は青の王に喜んでほしくて、何回か魔力を高める力を使った。しかし、青の王の表情は嬉しそうには見えなかった。優しく微笑んで、私にお礼を言うだけだ。
――この力を使われても、あんまり嬉しくないのかな?
そう思った私は、五日目になると、力を使うのを止めてしまった。
そして、六日目になった。
◇◇◇
私は早朝から、歓談室で、絵を描くことに没頭していた。
昼寝を挟み、夕方になると、ようやく絵が完成した。
「クロバ! 見てみて! 猫の女神が完成したの! 背中の蝶の羽が綺麗でしょ? よく見るとね、羽の中に肉球の模様が隠れてるんだよ」
クロバは隣で書類仕事をしていたが、顔を上げると絵をじっくりと眺めてくれた。
「瞳の紅色が印象的ですね。豹柄や虎柄を組み合わせたドレスもデザインが見事です」
「ほんと!? 嬉しい! 猫の女神様ってね、沢山寝るんだって。だから、人間が神殿にお参りして願い事をしても、寝てて聞いてないことも多いらしいよ」
クロバはクスリと笑った。
「起きててほしいですね。しかし、猫は沢山寝る生き物なので、猫神なら仕方ありません」
「それもそうだね!」
クロバと楽しくおしゃべりをしていると、ふと疑問が湧き上がってきた。
――そういえば、私がこの前、四日も寝ちゃった原因は分かったのかな?
「ねえ、クロバ。私の長時間睡眠の原因は分かった?」
クロバは申し訳なさそうに首を振った。
「いいえ。まだ分かっていません」
「そっかぁ。でも、私はもう元気だよ? ちょっと不安だけど、大丈夫なんじゃない?」
「いえ。ちゃんと原因を突き止めるので、お待ち下さい」
――心配してくれてるのかな? 四日も眠るなんて妙だもんね。そういえばお母さんが、妊娠したら眠くてたまらなくなったって言ってたな。でも、私が妊娠してるわけないし。原因は一体なんなんだろう?
不思議に思ったときだった。
突然、抗えないほどの強烈な眠気に襲われた。
瞼が、私の意思に関係なく閉じてしまい、体がぐらりと傾いた。
直後、私は、逞しい腕に包まれた。クロバが私を抱きとめてくれたのだ。
「カヤ! 大丈夫ですか? どうしました? おい、今すぐ担当を呼べ!」
クロバの声と、歓談室のざわめきが、薄れゆく意識の中でかすかに聞こえた。
◇◇◇
私は夢を見た。それは、怖い目つきの悪魔たちから、逃げる夢だった。逃げた先には、ソウマがいた。
「ソウマ! 助けて!」
私が泣くと、ソウマは私を怖い場所から連れ出してくれた。
逃げた先は、マリーゴールドの花畑だった。
ソウマはマリーゴールドを編み、私に花冠を作ってくれた。
「ソウマ! ありがとう! とっても可愛いね!」
私がはしゃぐと、ソウマは嬉しそうに笑い、私を優しく抱きしめてくれた。
――もう、安心していいんだ。
そこで、目が覚めた。
◇◇◇
ゆっくりと瞼を開くと、自分の部屋の天井が見えた。
――私、寝てた?
「カヤ! 目が覚めたのか? ああ! 良かった……」
フェンミルの声がして、私は顔を横に向けた。
彼は、心から心配そうな顔をしていた。
フェンミルは私の存在を確かめるように、包み込むように私の頬に触れた。
「お前は、六日間眠っていたんだ。全然目を覚まさなくて……」




