ep.31 突然意識を失った
私が首を傾げると、クロバは微笑んだ。
「彼は青の王の最側近なんですよ」
「さ……最側近!? 国王の?」
――てことは、凄く優秀で、臣下の中でも強いんじゃないかな?
「彼は研究者でもありまして。研究室に一人で籠もって過ごすこともあります。いつもじゃないですけど、青の王の命を受けて単独で行動するときも多いですね」
「そ……そうなんだ」
――凄い……。政治も研究もできちゃうってこと?
「やっぱり青の臣下ってエリート揃いなんだね……」
言いかけて、私は急にはっとした。
――そういえば、ソウマはいつ戻ってくるのかな?
出張が長引いてるらしいけど……。最後に会ってから、二十日以上経ってるよ……。
「あのさ。話は代わるんだけど……。ソウマはいつ帰ってくるの? 寂しいな……」
「ああ。あと三日くらいですね。もうすぐですよ」
「ほんと? よかったぁ」
――嬉しい……! ところで、ソウマって普段、青の国ではどんな感じなんだろう。
「ねえ、ソウマって、どんな悪魔?」
私が何気なく聞くと、クロバは困ったような顔をした。
「ああ。ソウマは私たち青の臣下とはほとんど関わらないんですよね」
「ええ!? そうなの?」
私は飛び上がらんばかりに驚いた。
――ギショウ国で過ごしてたときは、彼はミイやギショウ王とあんなに仲が良さそうだったのに? 青の臣下たちとも仲が悪そうには見えないけど……。ソウマはクロバとも普通に喋ってるし……。
「ソウマは一人で過ごすことが多いですね」
――意外すぎる……。諜報員だし優しいし、社交的に見えるけど……。
「もちろん、ソウマの本職は諜報員ですからね。潜入先では、様々な悪魔と交流しますよ」
「そうだよね……」
――もっと私たちと交流してほしい。
私の勘違いかもしれないが、そんな気持ちが、クロバの声音から伝わってきた。
――ソウマの心には、青の臣下たちに対して壁があるのかな?
よく考えたら、当然かもしれない。ソウマは男娼時代、辛い思いをしていた。心に傷を負っている。
青の臣下たちは全員、超エリートたちだ。クロバのように辛い境遇から救われた者もいるとはいえ、引け目を感じてもおかしくはないかもしれない。
――ソウマは確か、弱い悪魔だったんだっけ? 青の王から力を分けてもらったって言ってたもんね。
もしかして、コンプレックスとかがあるのかな? 青の臣下たちからは、膨大な魔力を感じるもの……。
思考がぐるぐるしていたときだった。
突然、強い眠気に襲われた。
いつもの眠気とは明らかに違う。目を開けていられない。
――何これ……。眠い……。
ふらりと、体が傾くのを感じた。
「カヤ!」
「どうしました!?」
青の王が、私の体を受け止めたのが分かった。
青の王とクロバの声が、薄れゆく意識の中で聞こえた。十五名のざわめきも聞こえた気がする。
私の意識は、ぷつりと途切れた。
◇◇◇
私は、ゆっくりと瞼を開いた。なんだか、頭がぼんやりする。
すると、ソウマの声が聞こえた。
「カヤ……! 大丈夫か? ああ! よかったぁ」
切実な声だった。
私は、顔を横に向けた。
「ソウマ……。やっと帰ってきたの? 嬉しい……」
私が微笑むと、ソウマは椅子から立ち上がり、泣きそうな顔をして、私の手を握った。
「目が覚めてよかった……。帰ってきたら、カヤが突然倒れたって聞いて……。カヤは四日も寝てたんだぞ……」
「え……? 四日?」
私が目を丸くすると、ソウマは一層、私の手を握る力を強めた。
「そうだ。俺とクロバと青の王が、交代で側についてたんだ。……医療分野の担当の臣下が、今、原因を探ってるよ」
「原因を探ってる? どうやって? なんで私はそんなに眠ってたの?」
「分からない。すまないが、寝てる間に、採血とか色々させてもらったよ。原因が分かるまで、もう少し待っていてくれ」
私は頷くと、上体を起こした。
その瞬間、部屋の扉が開き、血相を変えた青の王とクロバが入室してきた。
「カヤ! 大丈夫か?」
「大丈夫ですか?」
二人は駆け足で、ベッドのすぐ側まで歩み寄ってきた。
ソウマは気を利かせたのか、私の手を離し、三歩下がって脇によけた。
青の王は私の手を両手で包みこんだ。
「心配していたんだ……。目が覚めて本当によかった……。気分は悪くないか?」
こんなに心配そうな顔をした青の王を見たのは、初めてのことだった。
「うん。大丈夫だよ。寝起きでちょっとぼんやりしてるけど……。気分も悪くないし」
私が微笑むと、青の王は私を抱き寄せた。
「ほんとに大丈夫か? 安静にしておけよ。そうだ! お前が好きそうな画集を買ったんだ。一緒に読もう」
「うん。ありがとう!」
私は青の王に微笑むと、クロバを見上げた。
「心配してくれてありがとう」
クロバは申し訳なさそうな顔をした。
「いえ……。まだ原因が分かっていないので、もう少々お待ち下さい。とにかく、目が覚めて本当に良かったです」
「うん……。体調はひとまず大丈夫だよ。不調は感じないかな」
――なんでそんなに寝ちゃったんだろ? 変だな?
「私とソウマは、ひとまず仕事に戻ります。付き添いは青の王にバトンタッチです。夜にはソウマが付き添いますから、安心してくださいね」
「うん。分かった。お仕事、頑張ってね」
ソウマとクロバが退出すると、部屋には私と青の王の二人きりになった。
「カヤ。部屋から画集を持ってくるよ。ちょっと待ってて」
そう言った青の王の袖を、私は掴んだ。
「ちょっと待って。私ね、したいことがあるの」
「したいこと? どうした? もしかして、散歩でもしたいのか?」
「ううん。あのね……。よかったら、魔力を高める力を受け取ってくれない?」
「魔力を高める力を? 俺にか?」
青の王は柔らかく笑った。
――もしかして、嬉しいのかな?
「私ね、青の国で凄くお世話になってるし。私、好きなことして過ごしてるけど、仕事とかしてないし……。お礼に、受け取ってくれない? 右手を差し出してほしい」




