私の味方の臣下たち
◇◇◇
それから三日間、私は私室に籠もって過ごした。
面談が終わるまでは、部屋からは出ないと決めていた。
クロバは私を心配して、頻繁に様子を見に来てくれた。
青の王は臣下七十名とじっくり時間をかけて面談をしているらしい。彼は、二日間は私の部屋を訪れなかった。
――臣下一人とは、平均何時間面談してるんだろ? 魔界の一日は四十時間だし……。一人二時間以上面談したら、三日以上かかるんじゃないかな?
そんなことを考えている内に、三日目の夜になった。
深夜、青の王は私に会いに来た。
「フェンミル! 三日ぶりだね! 会いたかった! ……それで、どうなった? 臣下は納得してくれたの?」
私が尋ねると、青の王は安心させるように笑った。
「一人一人と話合ったよ。もう大丈夫さ」
――よかったぁ! 納得してもらえたんだ!
私が胸を撫で下ろすと、青の王は私を優しく抱きしめた。
「俺はこれから政務があるけどな。一時間だけならお前の側にいられるよ」
「ほんと!? 嬉しい!」
「それはよかった。ところで、カヤはこの三日間、何して過ごしてたんだ? 読書か?」
「えっとね。沢山絵を描いてたの。あと、なんだか眠くなって、昼寝を長時間してた」
青の王はクスリと笑った。
「そうか。もう何も心配しなくていいから。明日からはまた歓談室に行こう」
「うん!」
私は笑顔で頷いた。
◇◇◇
翌日、私はフェンミルと歓談室で読書をして過ごした。
――もしかしたら、臣下たちから何か言われるかな?
私の不安とは裏腹に、彼らは何も言ってこなかった。彼らはいつも通り、カードゲームをしたり、読書をしたり、複雑な図形が描かれた紙を机に広げて議論をしたりしていた。
フェンミルはもはや、全くと言っていいほど、臣下たちを気にしていなかった。躊躇いなく、私を抱きしめたり、キスをしてきた。
私はその度に、臣下たちの視線を感じた。しかし、特に何も言われないし、彼らはすぐに視線を外す。
――なんかもう、気にしなくていいかも……。解決したみたいだし。また不満が出たら、フェンミルが面談をしてくれるんじゃないかな?
私はだんだんと、彼らが気にならなくなってきた。そもそも、気にしたところで、私にはどうしようもないのだ。
私は読書に没頭していた。
しかし、昼過ぎになると、突然、私は強い眠気に襲われた。
――あれ? なんだか眠いな……。
私が瞼を閉じたり開いていることに、青の王はすぐに気づいた。
「どうした? 眠いのか?」
「うん……。私、部屋に戻って寝ていいかな?」
「もちろんだよ。この本は文字が細かいからな。疲れたんじゃないか?」
「うん。そうかも」
その日から、私は頻繁に昼寝をするようになった。昼になると、猛烈に眠くなってしまうのだ。
――なんで最近、眠いのかな? 環境の変化? 今になって緊張が切れて、疲れがきちゃったのかな?
毎日昼寝をしているとはいえ、昼寝の時間はせいぜい一時間から二時間だ。そもそも私は、青の臣下や青の王とは違い、睡眠が必要な悪魔なのだ。
私が急に昼寝をするようになったことを、私もクロバも青の王も、特に心配することはなかった。
◇◇◇
その日、私はクロバと青の王と、歓談室で読書をしていた。
歓談室には、私たち三人の他に十六名の臣下たちがいた。
彼らは全員でカードゲームを楽しんでいた。
かなり盛り上がっているようで、楽しそうな笑い声が歓談室には響いている。
対照的に、私が読んでいるのは悲しい物語だった。
舞台は後宮、主人公は寵姫。しかし、彼女の三人の皇子は病で亡くなってしまう。それと同時に、皇帝の寵愛も薄れていき、主人公は打ちひしがれていた。
――悲しすぎる……。皇帝ってば、始めから主人公を愛してなかったのかな?
読み進めていく内に、私はだんだん不安に駆られてきた。
――もし、青の王が私に飽きたらどうしよう……。今は愛してくれてるけど……。
私は、右隣に座っているクロバを見上げた。
「どうしました?」
クロバは私の視線にすぐに気づき、穏やかな微笑を浮かべた。
私の左隣には青の王が座っている。しかし、私は直球でクロバに聞いた。
「あのさ……。もし、フェンミルが私に飽きたら、私はどうなるの? 青の国を出ていかなくちゃ行けないのかな?」
当然、私の声は青の王に聞こえている。彼はページをめくるのを止め、本から顔を上げた。表情は冷静なのに、彼の瞳は驚きに満ちていた。
対照的に、クロバは好戦的な笑みを浮かべた。そして、私に言った。
「そんなことになったら、私たち青の国民全員で、青の国を出ていきますよ」
私が言葉を失うと、クロバはカードゲームをしている十六名に顔を向けた。
「あなたたちもそうでしょう?」
クロバがそう言うと、十六名は手に持っていたカードを机に置き、拍手をしながら口々に言った。
「その通りだ!」
「俺たちも出ていく!」
「出ていきますよ」
十六名は、挑戦的な笑みや、爽やかな笑みを浮かべていた。逆に、青の王は苦い顔で言った。
「まったく……。とんでもない臣下たちだ」
私は、胸がいっぱいになってしまい、何も言えなくなった。彼らにお礼を言うことすら忘れていた。もしかしたら、瞳が潤んでいたかもしれない。
そんな私に、クロバは優しく微笑んでくれた。
――私、ここにいていいんだ……。青の臣下って、優しいのかな。
「彼らは前に話した臣下たちですよ。ほら。あなたに不満を持っていなくて、むしろ心配している臣下たちです」
――そういえば、クロバとソウマを含む十八名は、私を心配してるって言ってたっけ……。
私はちらりと青の王を見た。彼はすでに読書を再開していた。しかし、その表情はどこか苦々しい。
――臣下にこんなこと言われたら、私のことを大事にするしかないかも……。私、安心していいのかも。
感謝で胸がいっぱいになり、私は十六名の方を見た。
彼らはカードゲームを再開していた。
――こんなに優しい臣下もいるんだ……。嬉しいな。
そう思っていると、彼らの一人と目が合った。
彼は、水色の髪と琥珀色の目を持つ悪魔だった。
なんとくどぎまぎしていると、彼は私に、優しく微笑んでくれた。
あまりにも優しい微笑みだったので、私はなんだかびっくりしてしまい、固まってしまった。
すると彼はカードを伏せ、仲間に一声かけると、立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。
――あれ? もうカードゲームは終わったのかな?
「ねぇ、クロバ」
「なんですか?」
「さっき退出した、水色の髪の悪魔は誰? えっと、肩まで髪がある男性だよ。綺麗な琥珀色の目をしてた」
「ああ。彼はケイトですね」
「ケイト? どんな臣下なの?」




