ep.29 青の王との恋愛に反対する臣下と、心配する臣下
臣下たちの反応が気になったが、私は青の王と読書を再開した。
――後で、フェンミルが自分で臣下たちに事情を説明するのかな? よく考えたら、私は青の王に保護されて間もない養女なんだよね……。もし臣下たちが、私とフェンミルが恋人になったことを知らないなら……。突然キスしててびっくりするのは当然?
気になったが、私は聞かなかった。それに、私はクロバとソウマ以外の臣下とは関わっていない。私の口から、青の王と恋人になったなどと説明するのは変かもしれない。
――臣下のことは、フェンミルに任せよう。彼は国王だし。
◇◇◇
それから七日間、私はフェンミルと楽しく過ごしていた。
その間、ソウマは仕事で、外国へ行っていた。十日ほどは帰ってこられないらしい。
クロバも外交官の仕事が立て込んでいた。七日間は夜の付き添いが不可になってしまったのだ。さらに、日中もほとんど話せなかった。しかし、クロバは一日に三十分ほどは様子を見るために会いに来てくれた。
青の王は夜は政務がある。しかし日中は、私のために時間を空けてくれている。だから、夜は一人寝で心細かったけれど、私が日中に寂しさを感じることはなかった。
私と青の王は、歓談室で読書をしたり、絵を描いて過ごした。
青の王はときどき、私を抱きしめたりキスをしてきた。
彼は周囲にいる臣下たちのことを、全く気にしていなかった。けれど私は、ときどき臣下たちが向けてくる意味深な視線が気になっていた。
――フェンミルは多分、臣下に説明したんだよね? 臣下たちから聞かれないわけないし……。それに、彼らは私とフェンミルがキスしても、前みたいにざわついてないもの。
私は比較的、楽観的に考えていた。
◇◇◇
八日目になった。
朝起きて着替えを済ますと、私は部屋で一人で読書を楽しんでいた。
半分ほど読み進めたとき、部屋にノックの音が響いた。
「はい! どうぞ!」
私が扉に向かって声をかけると、扉が開き、クロバが姿を現した。
「クロバ! おはよう! お仕事お疲れ様! もう、激務の七日間は終わったんだよね!」
私は笑顔で彼に駆け寄った。そして、気づいた。
クロバの顔が少し強張っていることに。
「クロバ、どうしたの?」
私が首を傾げると、クロバは言いづらそうに口を開いた。
「実は、青の臣下たちから不満が出てるんです。あなたが青の王を惑わしていると」
「……は?」
私の思考が、一瞬フリーズした。
――私が青の王を惑わしてる? 惑わしてないんですけど。なんでそんな発想になった? もしかして、フェンミルが日中は私とずっと一緒にいるから? でも、フェンミルは新しく国民になった悪魔とは、長期間、密に過ごすらしいし……。別に、変じゃなくない?
「ひとまず、私と一緒に会議室に来てくれませんか?」
そう言うと、クロバは私に右手を差し出した。
私はその手をとった。
クロバはすぐに瞬間移動魔法を発動した。視界が歪み、浮遊感を感じた直後、足元が安定する。
私とクロバは、広い会議室の壁際に立っていた。
私たちが現れると、長卓に座っていた臣下たちが、一斉に私とクロバを見た。
彼らは、私には分からない言語で、私を見ながらざわざわと話し出した。
クロバは無言で私の手をひいた。そして、誕生日席の椅子を引いた。
私がそこに腰掛けると、クロバは隣の席に腰を下ろした。
始めから、広めの誕生日席には二つの椅子が置かれていた。まるで、クロバと私のために用意されていたかのようだ。
――皆、何を話してるんだろ? じろじろ見られて居心地悪いな。
しかも、私には彼らが何を話しているか分からない。それがさらに、居心地の悪さに拍車をかけていた。
(この会議室には、何人の臣下がいるんだろ?)
彼らと目を合わせないように、恐る恐る人数を数えてみる。そして、私は青くなった。
(嘘でしょ……。七十人!? ところどころ空席があるから全員じゃないと思ったのに……)
青の国民――つまり、青の臣下の総数は七十一名だ。
――てことは、外国に出張中のソウマ以外、全員が勢ぞろい……? 私、そんなに恋愛に反対されてるの?
私はそろそろとクロバを見上げた。
クロバは厳しい表情で、じっと臣下たちを眺めていた。誰とも話すことなく、無言だ。
「ねぇ、クロバ。全員から不満が出てるの……?」
私が小声で尋ねると、クロバは首を振った。
「いいえ。私が確認した限り、ソウマと私を含めて、十八名はあなたに不満はありません。これは確実です。むしろ十八名は、あなたが虐待のトラウマで鬱状態ではないか、大丈夫だろうかと心配してます」
「……そうなんだ」
私はほっと胸をなで下ろした。
――よかったぁ。優しい臣下もいるんだ。でも、裏を返せば……五十三名には嫌われてるのかな……。
「むしろ私たちは、青の王の方に問題があるのではないかと思ってます」
「え? 問題……?」
「ええ。青の王があなたを見つめる目つきが気がかりといいますか……それに、あなたは成人しているとはいえ、青の王とはかなり年齢差がありますし……」
クロバが言いかけたそのときだった。
会議室の扉が開き、青の王が姿を現した。
臣下たちは、青の王と私を交互に見ながら、まだ何かを話し合っている。
しかし、私は青の王の顔を見て、はっとした。
いつもの優しい顔じゃない。
国王――その一言がしっくりくる表情をしていた。
青の王は、私とクロバの反対側の誕生日席に立つと、全員を見渡して口を開いた。
「全員、起立」
青の王がそう言い放った瞬間、臣下たちは全員、話すのを止めた。そして、引き締まった表情で一斉に立ち上がった。
その動きには、一糸の乱れもなかった。まるで、軍隊の精鋭のようだ。
――たった一言で……。青の王は視線を動かしただけなのに……。かっこいい……。
青の王の統率力やカリスマ性を、初めて目の前で実感した。
「お前たちから不満が出ていることは知っている。一人ずつ、面談室に来い」
青の王が命じると、臣下たちは目配せをし合った。
その様子を見ると、青の王は扉に向かって歩きだした。すぐに、臣下の一人が青の王に続いた。
青の王とその臣下が退出すると、再び室内がざわつきだした。皆は席に座り、私をちらちら見ながらお互いに意見を交わし合っている。
クロバが席に座ると、私はすぐに彼に聞いた。
「ねぇ、面談室って何?」
「青の王と臣下が面談する部屋ですよ。必要であれば、青の王は臣下と一対一で話し合います。長時間話すこともありますよ」
――なるほど。国民が七十一名しかいない国家だから可能なのね。他国なら、国王が臣下一人一人と話し合うなんて無理だよ……。青の王の意思が曲がって解釈されることもないし……。忠誠心が異常に高い理由はこういうところにもあるのかな。
私は居心地の悪さも忘れ、感心してしまった。
しかし、すぐに我に返った。
「あのさ……。私、部屋に戻ってもいいかな?」
――私、ここにいる意味なくない? じろじろ見られて嫌だし、部屋に逃げたい……。
「はい。そうしましょう。部屋まで送りますよ」
クロバの表情はまだ固かったが、それでも彼は、柔らかな微笑みを私に向けてくれた。




