↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/37

ep.23 あなたが好きだと告白する

――いやいや! 自分から引き留めておいて何だけど、真面目な会議でそんなことしちゃっていいの!?


「それじゃあ、行こうか」

青の王は何事もないように微笑むと、私をそっと抱き上げた。


突然のことに小さく息を呑む。こんなふうに抱きかかえられるのは初めてだった。


広い胸に身を預けると、景色がふわりと揺らぐ。青の王が瞬間移動魔法を発動したのだ。


視界が落ち着くと、そこは広い会議室だった。

長い机を囲むように、七十一名の臣下たちが席についている。


私たちの姿を認めた瞬間、室内がざわめいた。


皆、目を見開き、驚きを隠せない様子でこちらを見つめている。私には分からない言葉で何かを話し合う声が、あちこちから聞こえてきた。


青の王はそんな視線を意に介さない。


落ち着いた足取りで会議室の奥へ進み、中央の席へ腰を下ろす。そして私を膝の上へそっと座らせると、左腕で優しく抱き寄せた。その腕の温もりに、張り詰めていた心が少しだけ和らぐ。


青の王は室内を見渡した。

「会議を開始する」


青の王がそう言っただけで、臣下たちの会話はぴたりと止んだ。誰一人として異を唱えない。臣下たちは一斉に表情を引き締め、すぐに議論を始めた。


私は内容を理解できなかった。歓談室でもそうだったけれど、青の国の悪魔たちは、私の知らない言語で会話をすることが多い。


青の王は右手で書類へ目を通し、ときおり何かを書き込みながら、空いた左手で私の背中や頭を優しく撫でてくれた。


仕事をしながらでも、私を安心させようとしてくれている。その優しさが嬉しかった。


それでも、ときどき臣下たちの視線がこちらへ向く。

興味なのか、心配なのか、それとも驚きなのか。

私には分からない。


ただ、その視線が少し怖くて、私は青の王の胸へ顔を埋めた。

青の王は何も言わず、背中をゆっくり撫で続けてくれる。

安心すると同時に、涙がぽろぽろと零れた。


小さくすすり泣く声が漏れてしまっても、誰一人として咎める者はいなかった。


クロバやソウマは、ときおり心配そうにこちらへ視線を向けていた。


長い会議が終わる頃には、私の心も少しだけ落ち着いていた。


青の王は私の頭を優しく撫でる。

「カヤ。終わったよ。帰ろうか」


私は頷くと、ぎゅっと青の王へ抱きついた。


――お父さんは、会議があっても、私を大事にしてくれるんだ!


今日のことは、私の青の王に対する信頼を一層深めた。


◇◇◇

私はその日も、青の王に朝から抱っこしてもらっていた。


暗い表情を浮かべる私に、青の王は面白い話を聞かせてくれた。それだけで、私の気持ちは少し明るくなった。


――お父さんと離れたくないな……。どうしよう。私、青の王に依存気味かも……。でも、それでも構わない。ずっと一緒にいたい……。


私は彼を見上げた。群青色の瞳を見ているだけで、心が凪ぐ。私の口元は気づいたら綻んでいた。


だがその穏やかな空気は、突然途切れた。

急に、青の王は眉間に皺を寄せると、今まで見たこともないほど真剣な顔になった。

「カヤ。実は、戦争に行くことになった」

「え……?」


私は目を見開いた。すぐには意味が理解できなかった。


(戦争……? どういうこと?)


「サイリンとギショウに戦争を仕掛ける。お前を苦しめる者は、俺が倒してやるからな」


青の王は優しく微笑んだ。だがその笑みは、優しく見えるだけだった。やると決めた、国王の笑みだった。


青の王は、私を励ますように、私の両手を自身の両手で包み込んだ。しかし私は、混乱したままだった。


「なんで……戦争するの?」

「俺の養女を虐待して苦しめたんだぞ? 理由としては充分だろ」


――そ……そうなのかな? 確かに強国の姫を虐げたら、国際問題かも……。傍から見たら娘を守る正義の王だよね……。


しかし、青の王の不敵な笑みを見て、私は直感した。

(いや、三割は本当で、残りは建前かも……)


私は、政治経験皆無の頭で必死に考えた。


サイリンは芸術大国。ギショウは、ソウマによると、魔法の組み合わせ技術で有名な国らしい。

戦争をすると、敗戦国には何でも要求できると聞いた。もしも戦争で勝利して、両国の技術を自分のものにできたら……? 青の国はより強国になる。

それに、サイリンとギショウは、突然いなくなった私を血眼で探しているはずだ。


特にギショウでは、ギショウ王の側近だったソウマ――当時はオウカと私が一緒に消えたのだ。大騒ぎになっているに違いない。


それだけじゃない。もし、魔力を高める力のことが漏れたら、魔界中の悪魔が私を欲しがるかもしれない。

そうなったら、私の身が危険だ。物騒だが、戦争をすれば秘密を知る者を一掃できる。


――もしかして……青の王はここまで考えて、私を養子にした?


背筋がひやりと冷える。だが、それ以上に重大なことへ思い至り、その寒気さえ吹き飛んだ。


「ちょっと待って……! 戦争ってことは、お父さんと国民七十一名で戦うってこと?? 二国を相手に!? どうやって戦うの! 勝てるの!?」

「勝てるよ」

青の王は一切迷うことなく言い切ると、楽しそうに笑った。まるで、戦うことそのものが楽しいみたいに。

「特別な魔法を使うんだ。戦争は一方的な蹂躙になる。だって抵抗できないからな」


――そんなばかな……。七十二名対二国の軍隊なんて、勝てるわけがないよ……。


家族は言っていた。サイリンは魔界最強の国家だと。そんな国家と戦って、青の国は本当に大丈夫なのだろうか。


(お父さんが死んじゃったらどうしよう……)


そしたら、もう抱きしめてもらえない。優しくしてもらえない。この安心できる腕の中へ、二度と戻れなくなる。


「ソウマやクロバも死んじゃったら……。私、耐えられない」

私が涙目になると、青の王は少しだけ目を細めて穏やかに笑った。

「死ぬわけないだろ。安心して待ってろ」

その声には、揺るぎない確信があった。


大きな手が、いつものように私の頭を優しく撫でる。


――お父さん……。私は本でしか戦争を知らないけど、戦争って国民が死ぬんだよ……。


私がぽろぽろと涙を流すと、青の王は困ったように眉尻を下げた。

「実はな……。お前がパニックになりそうだから、直前まで黙ってたんだが、明日全員で戦争に行くだ」

「明日!?」


「だから、今日はこれから戦争の準備をしなくちゃならない。……戦争が終わるまで、この部屋で待っててくれるか? 帰ってきたら、お前に私室を贈るよ。素敵な部屋にしたからきっと気に入る。心細いだろうが、この部屋からは出るなよ」

「そんな……! 私室なんて今はどうでもいい! 戦争に行ったらお父さんが死んじゃうよ……!」

「安心しろ。国民全員と無事に帰ってくるから」


青の王は静かに笑った。

そのときだった。こんこん、と控えめなノックが響く。


「失礼します」

扉が開き、表情を引き締めたクロバが静かに部屋へ入ってきた。

青の王へ一礼し、クロバは落ち着いた声で告げる。

「青の王、お時間です」

「ああ。今行くよ」


青の王は名残を惜しむように私を抱きしめる腕をほどき、そっとソファへ座らせた。そして静かに立ち上がる。


「五日あれば戦争なんて終わる。それじゃあ、行ってくるよ」

青の王は私の頭を安心させるように撫でると、立ち去ろうとした。

彼の背中を見て、私は耐えられなくなって立ち上がった。

「待って!」

青の王は振り返った。私は、背の高い彼を見上げた。


「行かないでほしい。あなたが好きって気づいたの」



青の王は驚いて目を見開いた。クロバも小さく息を呑んだのが分かった。


「私……あなたが好き。養父じゃなくて、男性としていつの間にか好きになってたの……」


私は顔を赤らめながら、それでも真っ直ぐに、驚愕に満ちた彼の瞳を見つめた。


(好きなの……)


自分で自分の気持ちに驚いた。


――片時も離れたくない。側にいて欲しい。離れるのが怖い……。


彼に抱きしめられて、群青色の瞳に見つめられている内に、いつの間にか離れられなくなっていた。最近はずっと彼の腕の中にいた。ずっと、腕の中にいたいと思っていた。養父だから甘えていいと思っていた。


今、気づいた。それがいつの間にか恋心に代わっていると。彼を失うことがこんなに怖いと。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。