ep.12 俺のものだ
その瞬間だった。王の瞳に、何か鋭い光が宿った気がした。
胸の奥が、ひやりと冷える。
――この力の素晴らしさを知ったら、また利用されるんじゃないかな……。
けれど私は、小さく首を振った。
(いや、そんなわけないか)
ギショウ王も、オウカも、ミイも。この七日間、みんな私に優しくしてくれた。
部屋も、本も、画材も、服も。安心して眠れる場所まで与えてくれた。
あんな家族とは違う。同じであるはずがない。
すると急に、申し訳なさが私の中に湧き上がってきた。
私はこの城に、親切で滞在させてもらっている。滞在費は一切払っていない。
ちらりと机の上に視線を向ける。
私は、遊び道具まで用意してもらい、オウカやミイに毎日面倒を見てもらっている。今後もずっと厄介になるのは申し訳ない。
――だったら、お礼に……ギショウ王の魔力を高めてもいいんじゃないかな? むしろ、そうするべきなんじゃ……。
私は部屋をゆっくり見回した。
ここまで手厚い待遇を受けて、私はサイリンから守ってもらっているのだ。
――一回だけだもの。別にいいよね。きっと、喜んでもらえるはずよ。
「あの……。では、片手を出してもらえますか?」
ギショウ王は、左手を差し出してきた。私は、そっと、自分の右手を彼の手に重ね、目を閉じた。
(王の魔力を高めたい。もっと、彼を強くして!)
胸の奥でそう願い続ける。
静かな時間が流れた。
三十秒ほど経った頃だった。ふいに、重ねた手の向こうから息を呑む気配が伝わる。
私はゆっくり目を開いた。
ギショウ王は大きく目を見開き、自分の手を凝視していた。
「……なんだ、この力は」
低く漏れた声は、驚きに震えている。
「これは素晴らしい! なんて力だ!?」
興奮した声を出すと、彼は勢いよく立ち上がった。
彼はゆっくりと拳を握り、何度も開閉した。その瞳は、見る間に熱を帯びていく。両手は、小刻みにぶるぶると震えていた。
あまりの気迫に、私はびくりと震えてしまった。
「俺のものだ……! 俺だけのものだ!!」
ギショウ王の口角がゆっくりと吊り上がる。理知的だった表情は消え、瞳の奥には獣のような激しい光が宿っていた。
(突然、どうしちゃったの……)
嫌な予感が、ゆっくりと全身を這い上がった。
ギショウ王は勢いよく扉へ向き直る。
「オウカ!来い!今すぐだ!」
怒号にも似た声が部屋へ響く。
扉がすぐに開き、オウカが姿を現した。
「いかがされました?」
オウカの冷静な声とは対照的に、王は興奮を隠そうともしない。
「本物だ……!」
荒く息をつきながら、王は笑う。
「この力は本物だった!」
そして、その瞳に狂気にも似た光を宿したまま告げた。
「これから計画を開始する」
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