27 目まぐるしく事態は動く
こんにちは。こんばんは。
今回のお話は、前回からの続きとなっております。
最後までお楽しみいただければ、幸いです。
予想外の事態が発生した。
先日、警察署の刑事さんがやってきたと思ったら・・・今日、唐突に警視庁の刑事さんがやってきたらしい。
これに、私たちは支社長に指示を貰おうと連絡し・・・しかし、支社長である『紅葉朱雀』さんは仕事で外出しているということで大騒ぎに・・・。
けれど、秘書課から安納さんと弁護士のドラグナーレさん・・・人間時は『竜宮恵子』さんが駆けつけてくれた。
「先日は、なんやかんやで自己紹介をし損ねちゃったからね」ということで、連絡を受けて駆けつけてくれた際に改めて自己紹介をしてくれた。
そうして、前回同様の準備を進めてくれた。
変身を解いた後に傷が開かないようにする薬の準備。
人前に出るための着替え。
私の付き添いとして同行してくれるメンバーの選抜。
安納さんがスマホを片手に竜宮さんに指示を出しつつ、慌ただしく医師や看護師さんが病室を出入りする。
また、私に取り付けられているセンサー類の取り外しも行われ、準備は進んでいく・・・と。
「お待たせしましたユキトさんッ!!」
ラナタスカさん・・・いや、玉谷筒美さんがスーツケースを抱えて病室へ転がり込んでくる。
・・・って、いつの間に病室から出ていたんだろうか?
そういえば、キャジーさんも姿が無くなっている・・・どうしたんだろうか?
「間に合いましたぁ・・・ふぅ! 夜乃ユキトさん。着替えであればこちらをどうぞっ! あなたのために作った力作になりますッ!!」
え? 私のために?
「私ッ! こう見えて服飾部門の衣装制作メンバーの一人でしてね! 前の警察署から来た刑事の時にも、私の作った服を着てくださったとお聞きしています! ですので、今回も私の作った服を着ていただきたくッ!! 超特急で取って来ましたッ!!」
スーツケースを病室に備え付けてある棚の上に横倒しで置き、手早く開いて中に入っている服を取り出した。
それは、黒の下着と・・・薄地のブラウスに清涼感のある色合いをしたスカート。
「・・・前の服も、玉谷さんが作ったのですか?」
「はい! イデスバリー・ナイトメアさんを一目見た時から、私の制作意欲が刺激され続けておりまして! 夏本番に向けた服も鋭意制作中なのですよッ!」
鼻息が荒い・・・全身から「今が楽しくて仕方ない!」というオーラが出ている。気がする。
大変ステキな服ではあるけれど、なんとなく着るのを躊躇ってしまう。
しかし、時間も無いのでこの服へ着替えることに・・・薬が届くの待つ方がいいらしいけれど、変身を解いたからとすぐに傷が開くわけではない。と、説明を受ける。
そして前の時もそうだったけれど、玉谷さん制作の服は私の身体にピッタリ合致する。
「・・・あの、私の採寸はいつやったのでしょうか?」
治療のために看護師さんたちがやってくれたのだろうか?
けれど、それを服飾部門・・・それも、玉谷筒美さん個人に教えるだろうか?
「はじめてお会いした時より、目測で採寸し続けたのですよッ!」
・・・。
・・・・・・。
・・・も。
「目測ッ!?」
目測・・・目分量で長さを測ること。だったよね?
「最初の出会い。憑依霊たちによる襲撃時に、イデスバリー・キャノンを堪能させてもらっていた際、同時進行であなたの身体測定もしていたのですッ!」
え? ぇ?
「前回の服は、マントのせいで推測の部分もありましたが、おおむね予想通りの寸法だったようでッ!」
目測で、アレだけ私の身体にピッタリな服を・・・。
あの時は、警察への対応などで余裕が無かったけれど・・・こうして考えてみると、とんでもない事が起こっていることに気づいた。
「さらに先日のプールで水着姿を見せていただけたことで、すでに私の目測による採寸は修正済み! この次の服は、より完璧な服をご用意できるでしょう!!」
・・・えぇ。
「あ、服にリクエストがあれば言ってください! 私の全力を注いで応えましょうッ!」
「あ、はい」
とんでもない能力を持っている人だ・・・で、済ませてもいいのかな?
と、不意に周囲へと視線を向けると・・・。
病室にいる一同は口を半開きにしてドン引きしていた・・・身を隠している人までいる。
そんな病室に、薬を持ってきたアリアネルさんが駆け込んでくる。
「お待たせしましたね! 薬・・・を? どうしました?」
室内の雰囲気に気づき、戸惑うアリアネルさんだったけれど・・・今の状況を思い出して、みんな大急ぎで動き出す。
「今回はこちらの薬を用意しました。変身を解いた状態でも、数時間は身体の強度を変身時と同等にしてくれるものです」
そんなスゴイ薬があったなんて・・・。
「ただ、人間には強すぎる薬なので一回使った場合は数か月は再使用できません」
相応のリスクがある薬なんですね・・・。
アリアネルさんから薬を手渡され、コレを服用する。
呑み込んで一息・・・眩暈がすると、全身から熱が噴き上がるような感覚と共に身体中に広がっていく。
まるで、変身した時のような・・・と、あの時よりも熱すぎる気がする。
どんどんと汗が噴き出て来る。
「あーッ! 汗で服が濡れてしまいますッ!!」
玉谷さんが顔を青ざめさせながら大慌てて私の服を脱がせようとしてくる。
これに思わず抵抗したものの・・・。
「夜乃さん! 替えの服を新たに用意している時間もありませんから!」
「ここには女性しかいないから! すぐ脱いで!!」
安納さんと竜宮さんに促されたので、私は玉谷さんに手伝ってもらいながら服を一度脱ぐ。
そうして、噴き出る汗をタオルなどで拭いつつ・・・水などを飲んで水分補給をする。その傍らで、汗で濡れた服や下着を乾かしてくれる。
数分して、私の状態が安定してきたので脱いだ服を着直し、ベッドから車椅子へと移される。
「相手をだいぶ待たせてしまっています。すぐに移動を!」
安納さんの号令で、私たちは病室を出る。
「ユキトさんの車椅子は私が押しましょうッ!」
絶対に譲らない。という勢いで、私が座る車椅子の取っ手を誰よりも早く掴んだ玉谷さん・・・。
こうして、安納さんを先頭に私、玉谷さん、竜宮さんの順で廊下を移動する。
エレベーターに乗り、表側の会社へと出る。と、前回同様に一般社員の方々に興味を向けられつつ小会議室前に到着する。
「では竜宮さん。私は支社長との連絡を継続しますので・・・それまでは、夜乃さんをお願いします」
「わかりました。可能な限りで、対応しておきます」
神妙な面持ちで安納さんへ頷き返す竜宮さん・・・そこに―――。
「はいッ! 私は何をしましょうかッ!?」
玉谷さんが手を上げて言うと・・・二人は声を合わせて答えた。
「「黙っていることッ!」」
「はーぃ」
・・・こうして、私たちは小会議室へと乗り込んだ。
▽
「はぅあッ! ひ、『光』だッ!! 俺のひかッ―――」
小会議室へと入った途端に、年若い刑事さんが私を見て飛び掛かってくる。
目が血走っていて、どう見ても正気を失っている様子に既視感を覚えると・・・その足を引っかけて床へ転がす人が居た。
この小会議室に並ぶテーブルと椅子。それら席の一つに腰かけてスマホで動画を見ている男性だった。
歳の程は40代くらい・・・無精髭を生やしていて清潔感は無い上に、仕事への情熱も感じさせないダラケ具合。
今も、私に襲い掛かろうとした年若い刑事さんに足を引っかけて転がした後、助けに入ろうともせずに気だるげな様子で椅子に身体を預ける。
「ったく。気をしっかり保てっていっただろうがぁ・・・」
あー、怠い。という声が聞こえてきそうな「ため息」を吐いて、スマホをしまう。
すると、おもむろに立ち上がって転がったままの年若い刑事に歩み寄り・・・その顔を小突くように蹴った。
「いっだ!」
「おら、目は覚めたか?」
非常に乱暴な起こし方をするベテラン?刑事の男性は、呆れた様子でその場にしゃがみ込む。
「つつつって、いきなりなにするんすかッ!?」
「おまえさぁ・・・『光』は直視するな。って言っただろうが」
小突くようだったとは言え、顔を蹴られた男性は痛みがする部位に手を当てつつ、文句を言いながら体を起こした。
それに対して、ベテラン刑事は右手でペシペシッと年若い刑事を何度も叩き始める。
「ぅ・・・いや、俺は直視してないすよッ! 視界の端に『光』がチラッと差した瞬間に自我が飛んだんす!」
「え、なにそれ・・・こわ」
その時の状況を思い出すように、そして私を指差しながら「原因はあっち」と言わんばかりに叫ぶ年若い刑事。
で、私へ顔を向けたベテラン刑事が、ボソッと呟いた。
・・・って、私を見て言う必要あるッ!?
小会議室に、静寂が降りた。
「あー。どうも、お忙しいところを申し訳ない」
ベテラン?刑事が、竜宮さんと玉谷さんの敵意を感じ取った・・・かは分からないけれど、私たちをそっちのけにしている状況を理解したようで、スッと立ち上がって挨拶をし始めた。
「俺は、警視庁捜査一課に所属しています。擦鳴と申します」
ドラマなどでもよく見る刑事手帳を手に、名乗る刑事さんだけれども・・・。
「で、なにをしに来たのでしょうか?」
「刑事ってのが厄介ですよね! 下手すると公務執行妨害とか、そういうので逆に捕まったりしますし」
竜宮さんは、言葉とは裏腹に殺気を飛ばしている。
一方で、玉谷さんはシャドーボクシングをするようにステップを踏みながら左右の拳を交互に突き出して威嚇している。
両者共に、臨戦態勢で二人の刑事と対峙していた。
「・・・はぁ、うやむやには出来そうにないな」
「す、すみません。スルメイさん」
二人の刑事・・・年若い刑事の方は身体を起こしてからは、こちらに背を向けたまま椅子に腰かけている。
そして、ベテラン?刑事の方はこちらへ顔を向けているけれど、どことなく眩しそうに眼を細めていた。
・・・原因は、私か。
「なぁ、光量調整とかできないか?」
それは私も切実に望んでいる機能ですけれど・・・「むりです」と、素直に答えた。
「そうか・・・最近のイデスバリー戦士は眩しくなくていい感じだったんだがなぁ・・・」
こちらに向けていた顔を地面へと逸らして、ため息を一つ・・・スーツの上着、内ポケットから煙草・・・じゃなくてドロップ缶を取り出すと、ドロップを一つ取り出して口に含んだ。
ガリガリという飴を砕いた音が聞こえる。
「まぁー、アレだ。今日は刑事としての仕事で来た。だから、一時休戦。ってことにはできないか?」
ドロップ缶を懐へしまいつつ、休戦を提示してくるスルメイと呼ばれた擂鳴刑事。
「こちらとしても、会社内で戦闘したいとは思わないわ」
竜宮さんも休戦という考えには同意のようだけれど・・・それを無条件で信じることはできない。
一時休戦と言いながら、不意打ちしてくる可能性があるのだから・・・身構えておかないと。
「なら話は早い。とりあえず、先日の水死体発見による殺人事件の捜査で、夜乃ユキトさんに用があって訪ねることとなったわけだ」
えぇ・・・警察署の刑事さんと先日にお話ししたばかりだっていうのに・・・と、確かドラマでも何度も刑事が訪ねてきて。って演出があったから、実際の警察もそういうものなのだろうか?
「それで? 警察署の刑事二人にした話をもう一度しろと?」
同じ話を繰り返し聞くことで、矛盾点を引き出そう。って魂胆だったり?
作り話だったりすると、繰り返し話している内に話しが変わってくることもある。って、ドラマの主人公がしつこく聞いて、矛盾した点を突いてトリックの真相を解いたりするシーンがあった気がする。
「いや、それよりも夜乃ユキトさんに捜査本部が置かれている〇〇警察署まで来ていただきたい」
ッ!?
わ、私が警察署に!?
「今、彼女を外へ出すのは無理よッ」
竜宮さんが一歩前に踏み込みつつ、大声にならない程度で刑事の要求を断る。
「それは分っている。そんな『光』を放ちながら外になんぞ出られたら、怪異が殺到するし、ダンジョン・フィールドも発生するだろう。俺とて、できることなら連れ出したくはない」
スルメイと呼ばれたベテラン刑事も、竜宮さんに同意するものの・・・刑事としての仕事であるがゆえに、やらないわけにはいかない様子だ。
と、年若い刑事がこちらに振り向かずに手を上げて、事情を説明する。
「えーっとっすね・・・犯人の手掛かりになりそうなモノが発見されたので、コレを被害者の関係者に見てもらい、その反応から犯人を絞ろう。って話しになってるんすよ」
犯人の手掛かりになりそうな『モノ』?
「いや、夜乃さんは関係者じゃないわ」
竜宮さんが冷や汗をかきながらも否定してくれるけれど・・・。
「しかし、ドライブレコーダーの映像は確認したんだろう? 警察はまだ、無関係とは考えていないんだよ。刑事の仕事柄、疑ってかかるので不愉快だろうが・・・断るってなると、余計に疑われるぞ?」
ドラマでもよくある展開だ・・・。
私に関して、さらなる警察の調査が入った場合、何かしらの矛盾点が出て来る可能性がある。
どうにかして、それは避けたいところだけれど・・・。
≪なるほど、あの程度で疑いが晴れたとは思っていなかったが・・・警察署へ出向かねばならないのは想定していなかったね≫
紅葉朱雀支社長の声が響いたことで、全員がそちらへと顔を向ける。
そこには、スマホを翳した秘書の安納さんが立っていた。
「つい先ほど、支社長と連絡がつきましたので」
≪ああ。話は途中からだが聞かせてもらったよ。竜宮くん・・・残念だが、警察の要請を断ることは難しそうだ・・・頑なに断った場合の面倒事を考慮すると、得策ではないからね≫
これに、竜宮さんは頷いて一歩身を引く。
玉谷さんも、素早く私の後ろに戻って車椅子の取っ手を掴み、素知らぬ顔で頷いていた。
「すると、警察署まで御同行いただける。ってことでいいのかな?」
スルメイと呼ばれた刑事が、少しばかり緊張した様子で聞いて来る。
≪ああ。彼女が外に出た場合のリスクを承知していながら、連れ出そうとしていることを考えれば・・・憑依霊としてではなく、刑事としての仕事を優先しているのは察することができるとも≫
「それはどうも・・・なにか、対策などはあるのか?」
≪一応ね。開発部の方で試作中だったものを、いくつか完成させてくれたので・・・実験も兼ねて試用してみよう≫
試作されていた私の『光』対策・・・え、そのような物が?
「それは期待してしまうな・・・頼むぜ。マジで・・・」
なんだか、顔色が悪くなっているような?
≪・・・敵である我々に期待してしまうほどに、リスクが高いようだね≫
「まぁな」
≪その上で、刑事としての仕事を全うするわけだ?≫
「そこは仕方ないことだ。体を借りている以上、コイツの生活を滅茶苦茶にするわけにもいかねぇからな」
≪分かった。安納くん。すまないが、夜乃ユキトさんを警察署へ連れて行くための準備を早急に実行してくれ≫
「はいッ」
安納さんは、スマホを竜宮さんに預けて小会議室から飛び出した。
≪竜宮くんは、このまま夜乃さんに同行して警察署へ。車椅子を押しているのは・・・≫
「玉谷筒美です!」
≪よし。では、玉谷くんも同行して彼女を守ってやってくれ≫
「お任せくださいッ!」
「・・・一応、俺たちも車椅子が乗せられるワンボックスカーで来ているんだが?」
「所轄の報告で、夜乃さんが車椅子を使っていたと聞いてるんで、署までお連れするのに借りてきているっす」
≪それには及ばない。彼女の『イデスバリー光』を遮断する措置がされていない車では、警察署に行き着くことは無いだろう。こちらでカスタムした車を用意するので、準備を待ってもらいたい≫
そんな車があるんですかッ!?
「分かった。なら、しばらくここで待たせてもらうぞ」
スルメイと呼ばれた刑事は、そして椅子に座り直すとスマホを取り出して何かを見始めた。
≪さて、急なことであるが私も仕事があるので通信はここまでになる。可能な限り、早急に社へ戻れるようにするので、二人には頑張ってもらいたい≫
「「了解ですッ!」」
こうして、皆は慌ただしく動き始める。
〇
表側の会社・・・その地下駐車場に準備された社用車は、田舎町でも度々見かけるワンボックスカー。
会社の名前がしっかりとプリントされているものの、一見すると特に改造されている様子もないけれど・・・。
「この車には、イデスバリー光を遮断するパネル材を加工して内装に貼り付けてありますが、さすがに窓を塞ぐわけには行かないので・・・新たに開発された遮光カーテンなどを取り付けてあります。しかし、まだ実験段階の物となりますので、どこまでイデスバリー光を遮断してくれるかは、分かりません」
安納さんが、用意された車の説明をしてくれると・・・車を運んできた運転手の方が車から降りて来る。
上はTシャツ、下はスラックスにスニーカー。
とても楽な恰好をしている30代後半くらいの女性が「ヘニャ~」っとした笑みを浮かべながら私の前まで来てくれる。
「はじめまして~。今日の運送を担いますは、当支社配送部隊所属のこのわたし~。人呼んで『運びマスカット』さんが担当しま~す。よろしく~」
運び・・・マスカット?さん?
「あ、えっと・・・今日はよろしくお願いします」
「なはは~。え? それ本名?とか思ったっしょ~。芸名みたいなもんだから気にしないで~。ちなみに、本名は『運尾真澄』っていうの~。変身時の名前は『イデスバリー・マスカット』ね~。前世の好物だったみたいなんだけど、今の私は海ブドウのが好きかな~ってね~。ポン酢が個人的には好きだね~」
・・・え、えーっと。
「はじめまして。夜乃ユキトです。改めまして、今日はよろしくお願いします」
「うんうんよろしくね~。君の歓迎会ん時は、大阪まで荷物運んでいたから参加できなかったんだ~。こうして会えて感激~。やったぜ~♪」
なんだか、すごい間延びする喋り方をしている人だ・・・。
「あ、あとね~。今度、大阪で開かれる新人懇親会に、君を運ぶ役を仰せつかってるから~。よろしくね~♪」
「あ、はい・・・よろ、しんじこんしんかい?」
今、聞き逃してはいけない重要な言葉を聞いたような気がするんですが!?
「さて、時間もありませんので、さっそくとこの重大事を乗り越えるための作戦をお伝えしましょう」
私が、先ほどの『しんじんこんしんかい』について聞こうと口を開いた矢先・・・安納さんに現在進行形で最重要な話が始められたので、静かに閉ざした。
邪魔をしてはいけない。
「んで? その重大事を乗り越えるための作戦とやらは?」
スルメイと呼ばれた刑事が、いつの間にか私たちの傍に立っており、安納さんに「居る」ことを伝えるようにして聞き返している。
また、安納さんもスルメイと呼ばれた刑事が「居る」ことを確認するように頷き返して、続けた。
「これより、夜乃さんを警察署までお連れするわけですが・・・その道中は、当社の方で用意した車を使う事で、怪異の襲撃をある程度遅らせることができる。と、試算しております。が・・・もっとも重大なのは、警察署に到着して車を降りてからになります」
確かに、イデスバリー光を遮断するパネル材や、新開発された実験段階の遮光カーテンなどで車を改造してあるなら、東京支社から警察署までの道中はある程度とはいえ大丈夫かもしれない。
けれど、警察署の駐車場からが問題になる。
車の扉を開けば、私の身体から発しているイデスバリー光は怪異に察知されてしまうから。
「なんの措置も施されていない警察署内で、何かしらの事情聴取などを受けていれば、否が応でも怪異は殺到してくるでしょう。それこそ、前回のように怪獣怪異が先を競うように集まって、ダンジョン・フィールドが展開されるのは明らかです」
「まぁ・・・マツドの奴は、それを狙ってんだろうがな・・・」
マツド。
その名前は、先の廃工場内に居た憑依霊たちも口にしていたのを覚えている。
誰かが「あのマッドーッ」と怒鳴ってもいたから、夢毒のニャランさんが言っていた『マッドサイエンティスト』なのだと、私は推測している。
「そこで、警察署の駐車場に車を停めたところで、会社より『リバーシブル・フィールド』を人工展開してもらいます」
この時、竜宮さんと玉谷さんが「そういう事かッ!」という顔になって、ニヤッと笑みを浮かべる。
一方で、私は「?」な状態になっていた。
「異世界式タイム・パラドックスを使うのですねッ!」
玉谷さんが、安納さんの説明に割り込むようにして言う。
「はい、その通りです。フィールドの人工展開するタイミングに合わせて、我々は車から降ります。理想的なタイミングは、夜乃さんを除く我々が車を降りた直後に『リバーシブル・フィールド』へ切り替わることでしょう」
「確かに、異世界式タイム・パラドックスを利用するなら、警察署の駐車場で車から降りたタイミングが望ましいでしょうね。そうすれば、辻褄合わせがしやすくなりますし」
安納さんの説明に、竜宮さんが同意して頷く。
「って、ちょっと待ってくれ。俺にはよく分からんのだが?」
スルメイという刑事が、少々焦った様子で詳しい説明を求める。
私も、もう少し詳しい説明が欲しい。
「要するに、車を降りた。という結果を残しておけば、フィールドが消失した後の辻褄合わせで『車を降りたのは、警察署での用事を済ませるため』という誘導がしやすくなり・・・最終的に『私たちは無事に警察署での用事を済ませて、会社へ帰った』という結果を得やすくなる。はずです」
・・・それって、つまり?
「そうか。つまりあんたら、リバーシブル・フィールドを展開したら全力でココに逃げ帰るって作戦なんだな?」
あッ!
「その通りです。彼女の『イデスバリー光』を見れば、周辺の怪異が殺到するのは想像に難くない。であれば、人工リバーシブル・フィールドは間もなくリバーシブル・フィールドに置き換わり、ウィアード・フィールドとなるでしょう。あとは、社の方で殺到する怪獣怪異の足止めなどを行い、夜乃さんを我々が全力で会社まで運べば、作戦完了。となります」
「そのための運び屋が~。このわたしって~ことだね~ん」
そういう作戦なんだッ!?
「僭越ながら、戦闘能力は高くない私も索敵能力には自信がありますので、夜乃ユキトさんをマスカットに運んでもらい、ドラグナーレとラナタスカが護衛を担当する。そして私がナビゲーターとして会社までのルートを案内するわけです」
つまり安納さんて、情報処理能力系のイデスバリー戦士ってことなのかな?
「はぁ・・・なるほどね。つーことは、俺らもリバーシブル・フィールドが展開されたら全力で逃げていいってわけか?」
「はい。構いませんよ・・・無事に逃げ延びて、次に会う時はその魂を回収させていただきます」
若干、両者に殺気のようなモノが飛び交ったけれど、スルメイさんは「フッ」と笑みを浮かべながら作戦を了承して自分たちが乗ってきた車へと戻っていく。
殺気のようなモノを感じた時は、ここで戦いになるかも・・・と、緊張した。
「では、出発しましょう」
そうして、私たちは警察署へ出発する。
ワンボックスカーの後部・・・荷台となるスペースに私が乗る車椅子を固定し、念のためにと遮光カーテンと同じ素材で作った毛布のようなモノを頭から被ることに。
カーテンの隙間から漏れる光をより最小にするための措置だけど・・・あ、暑い。
車が駐車場を出て道路に合流すると、安納さん、竜宮さん、玉谷さんが周囲を世話しなく確認し始めた。
「・・・よし、怪異の気配はないわね」
「・・・リバーシブル・フィールドの自然発生もないみたいですッ」
「・・・怪獣怪異にも、目立った動きは確認されていないようです。イデスバリー光は上手く隠せているようですね」
「ふぅ~・・・すっごい、緊張した~」
緊迫した様子から、車内の空気が少しだけ和やかになったのを感じ・・・私は、先ほど確認できなかった事柄について、尋ねてみることにした。
「あの・・・さっきの、新人懇親会。というモノについて、質問してもいいでしょうか?」
気の抜けない状況で、聞いてもいいモノか悩んだけれど・・・ここで聞いておかないとダメな気がする。
「ああ、そういえば・・・まだ夜乃さんにはご説明していませんでしたね」
安納さんが思い出したように言うと、ちょっとだけ申し訳ない顔になって説明を始めてくれた。
「毎年、夏前に行われる日本支社同士の催しでしてね。去年の懇親会後から今年の懇親会前までにリバースデイを迎えた新人をひと所に集めて、イデスバリー戦士として共に働く上で同期同士の交友を得てもらうのですよ」
安納さんの説明によれば、日本にある支社は全部四社。東京。大阪。九州。北海道。
必然的に、結構広い範囲が秘密結社メシアの管理管轄になる。
東京支社の場合は東北地方も管理範囲であり、大阪支社は四国地方や中国地方まで管理範囲に入っているらしい。
九州支社は当然、沖縄も含まれているから飛行系や水上・水中移動が可能な戦士が重要らしい。
なので、有事の際は各支社への人員派遣なども行われる。
ちょうど、憑依霊たちの襲撃を受けた際に各支社へ援軍を要請したことからも、支社同士での交友は重要なのだそうな。
「毎年一回、行われる催しでね。日本の各支社が持ち回りで会場を用意するのよ」
「去年は東京支社で行ったので、今年は大阪支社なんですッ!で、九州支社、北海道支社、という順になっているんですよッ」
なるほど・・・。
竜宮さんと玉谷さんも、新人時代に参加したらしく・・・この時に知り合った各支社の同期とは、表の仕事でも協力し合ったりしているらしい。
「本来であれば、夜乃さんは来年の参加になるはずでした」
来年?
「先ほども申しましたが、基本的には『去年の懇親会後から今年の懇親会までにリバースデイを迎えた方』となっていますけれど、基礎訓練などの『三か月の新人研修』を終えた方が参加対象なのです」
・・・私、基礎訓練などの『三か月の新人研修』は、まだ受けてないですね。
シェルさんから多少の知識は教えてもらいましたが・・・。
「しかし、バース・パーソン・・・つまりは異世界人たちが、あなたの参加を強く希望し・・・不参加にした場合の行動予想が難しいことから、急遽、夜乃さんの参加が決まったのです」
私は、ほぼ反射的に玉谷さんを見る。
そして、玉谷さんは私から顔だけじゃなくて全身を逸らした。
「・・・あの、玉谷さんのバース・パーソン。キャジーさんから聞いたのですが、私って、今注目の新キャラクター扱いされているらしいですが」
「まさにそれです。我々にとっては遺憾な話ですが、異世界調査隊の人員不足解消を図った苦肉の策は、多くのバース・パーソンをゲーム・プレイヤー感覚で参加されているため、夜乃さんの現状をゲーム・イベントとして捉えている方が大多数なのです」
安納さんは、さらに詳しい説明をしてくれるものの・・・その内容はキャジーさんがしてくれた話とほぼ同じ。
一言で『お祭り騒ぎ』になっているということ。
・・・リザドラルさんのように、バース・パーソンから「ハズレ」と呼ばれたりするのも・・・ゲーム感覚から来る感想だったんだろうな。
ただ、彼らはゲーム感覚で参加しているのかもしれないが・・・異世界調査隊はそういう目的で地球に干渉しているわけではないので、ルールに従えない者は厳正に処理しているらしい。
現状、バース・パーソンとしての活動を停止、または休止する申請をしなかった者達に対しては、復帰させるつもりもないらしい。
というか、すでにアバターへログインするための筐体は順次回収しており・・・参加者が多過ぎるので回収作業は難航しているそう。
「複雑なところではあるけれどね・・・特に、ゲームキャラみたいな扱われ方をするっていうのは」
「そういう話も込みで、前世の時から話し合いを行い、受け入れて、リバースデイを迎えるわけですので、ある程度は呑み込めた状態で今を迎えるわけですが・・・」
「その辺を転生後に納得できないで荒れるケースもあるんだよね~。支社長がそうだったって聞いた事ある~」
「ええ、現支社長である紅葉朱雀支社長は当時、相当に荒れていたようです。まぁ、憑依霊にボロ負けしてから、落ち着いたそうですが・・・」
そういえば、前にそういう話を聞いた気がする・・・いろいろとあり過ぎて、今一つ思い出せないけれど。
「そういう経緯もあって、シェルさんは各バース・パーソンに夜乃さんへコミュニケーションを取るのを原則禁止していたのです」
え?
「我々と違い、偶発的にイデスバリーしてリバースデイを迎えたあなたは、多くの危険に晒されている。という状況で、異世界人による『ゲームの新キャラ』扱いされるようなことがあれば、異世界人への印象と、秘密結社メシアへの信用に関わって来る。ということで、今の状況が落ち着くまでは『イデスバリー・ナイトメア』へのアバターによるコミュニケーションを原則禁止としていました。まぁ、復帰したばかりでその辺を知らなかったバース・パーソンがやらかしてくれましたがぁ?」
安納さんが、それはもう刃物のような視線を玉谷さんに向ける。
これに玉谷さんは、身を小さくするように膝を抱え込んで、震えながら「や、ヤバいですよキャジー」と呟いていた。
・・・そっか。
あまり、異世界人のアバターと会わないな・・・って思っていたけれど、シェルさん達が私に配慮してくれていたんだ。
・・・ありがとうございます。
「安納さ~ん。そろそろ警察署に着くよ~」
瞬間、全員が身構える。
安納さんは、スマホで会社に合図を送る準備を始め、竜宮さんと玉谷さんは扉の取っ手に手を駆けつつカーテンの隙間から外を覗く。
車が警察署の門を潜り・・・駐車場に車を停めるまでのわずかな時間は、みんなの動悸が聞こえて来るような緊迫感で満ちた。
そして、車が停止し・・・サイドブレーキなどの操作で駐車が完了したことを確認すると、安納さんは会社に合図を送る。
「では、我々がまず車を降ります。リバーシブル・フィールドに切り替わったら、即時変身を」
「「了解ッ」」
コレを合図として、安納さん、竜宮さん、玉谷さんが車の扉を開いて外へ出た。
ずがぁぁああんんんん
三人が車を降りたのとほぼ同時に、リバーシブル・フィールドの展開と共に駐車場へ突き立った柱があった。
開いた扉から覗き見えたのは、嘴。
巨大な鳥の嘴と・・・私を見つめる大きな瞳・・・それは一羽だけではなく、複数個体が車を取り囲むように駐車場に突き立っている
「なっ」
誰の声だったのか?
―――緊急警報。緊急警報。怪獣怪異です。怪獣怪異です。――――――
安納さんのスマホが、遅れて警報を出した時・・・。
車を囲む鳥の怪獣怪異からウィアード・フィールドが一斉に展開されて・・・。
まるで鈍器で全身を殴られたような衝撃と共に、意識が飛んだ。
次回は『妖魔封師』を予定しています。
ちなみに、『警察署まで行ったらリバーシブル・フィールドを利用して会社へ逃げ帰る』作戦は、シェルさんと夜乃次蔵さんで立てた作戦。という設定です。
また、最後の怪獣怪異による強襲は、次回登場予定の妖怪人が東京上空に使役している怪鳥を隠しており、車の扉が開いたことで漏れ出た『光』を見つけると同時に射出した。という感じです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




