(8)コカトリスを倒してしまいました。どうしたらいいですか?
「やらかした……」
ザックの足元にはコカトリスが横たわっている。ちょっと離れた場所には、コカトリスの毒に侵された新人冒険者が四人。動けなくなってはいるが、意識があるかどうかまでは分からない。
ザックはこっそり懐から黒い四角を取り出した。
「おい、相棒。うっかりコカトリスを退治してしまったんだけど、これからどうしたらいい?」
話は少しさかのぼる。
ゴブリン騒動も一段落し、ザックは冬支度に追われていた。
この辺はあまり雪は降らない。それでも農作物はとれなくなるし、普段よりも薪の量は増えるのだ。コーエン村長に聞きながら、少しずつ家の中に備蓄を増やしていった。
それでも嬉しかったことがある。村長がこの前のゴブリン騒動の褒美として、家を改築してくれたのだ。
「おお、北風が入ってこない……!」
今までの家はあちこち隙間だらけで、夜は何枚も重ね着していないと眠れなかったのだ。
「今日からはぐっすりと眠れそうだ。」
感動に打ち震えているザックの家を訪れる者がいた。
今なら誰でも笑顔で受け入れられそうだ。そう思っていたが、相手の顔を見て扉を閉めたくなった。
なぜ『夕闇の星』のリーダーがここにいる?その後ろには、頼りなげな冒険者たちが、おしゃべりしながら立っている。新人か?
「こんにちは、ザックさん。今日はお願いがあって来ました。」
「私は今冬支度で忙しいのです。」
念の為話を聞く前に断ってみるが、笑顔でかわされた。
「村長さんがザックさんにに頼めというんですよ。」
ザックは無言で天を仰いだ。道理で家の改築が早いと思った。
「改築してやっただろう?」
断ろうとしたら絶対そう言われる。うまい話には裏があると言うのは本当だ。
今さら後悔しても仕方ないので、ザックは話を聞くことにした。
「何をすればいいんです?」
「この山の歩き方を、新人冒険者達に教えてやってください。」
確かにこの山のことはよく知っているが、冒険者に頼まれたのは初めてだ。最近の冒険者ギルドはそんなことも教えないのか?
ザックの言いたいことは顔に出ていたようで、男はすまなそうな顔になった。
「実は国境あたりで、魔物の群れが出たんですよ。そこそこ使える冒険者たちはそっちに行ってしまいまして。ですが、なるべく新人も早く育てたいんです。私たちもこの後依頼が入っていて、どうにもこうにも……」
どうやらかなり人手不足のようだ。
仕方なく請け負ったが、またこの新人冒険者たちが、元気すぎた。まさかと思って聞いてみたら、今回の山歩きが冒険者としての最初の研修だと言う。
「この前ゴブリンが出たんですってね!他にも魔物はいますか?」
「今回は俺が偵察をするから、お前たちは後ろから歩いてこいよ。」
「お前、そんなこと言って、薬草を見つけたら一人じめするつもりだろう!」
とにもかくにも騒がしい。うるさいと一喝してやろうかとも思ったが、ザックはそもそもただの村人だ。
「あまりうるさいと、魔物が出るかもしれませんよ?」
そう言って、やんわりと忠告するだけにしておいた。これは事実だ。音や匂いに誘われる魔物はいるのだ。
「大丈夫大丈夫!」
そう言いながら一人先にいった冒険者が、急に悲鳴を上げた。
「くぁあああ!」
「どうした!」
慌てて近づいた冒険者たちを待ち受けていたのは、紫色の霧。
「吸い込むな、毒霧だ!」
ザックは慌てて下がり、自分の袖で口元を覆った。おそらくそれほど長くは留まらないはず。しかし、慌てた冒険者たちは次々吸い込み、その場に倒れていった。
毒霧の中から現れたのは、一匹のコカトリス。ザックも、この山でコカトリスとでくわしたのは初めてだ。コカトリスはザックがまだ動けるのを見ると、羽を広げ、威嚇してきた。次の動きをザックは知っている。突進してくるのだ。
(くそっ)
ザックは全力で走り出した。走りながら、戦えそうな場所を目で探す。
「コケー!」
あっという間に追いつかれた。冒険者を辞めて半年。体力には自信があったが、逃げ足は衰えていたらしい。明日から、毎日走り込みをしようとザックは決意した。ザックを突こうとコカトリスが伸ばしてきた嘴をかわすと、ザックは尻尾の蛇の部分を持っていた短剣でまず切り落とす。噛まれたらそれこそ即死だ。
「コケケー!」
痛かったのか、コカトリスが体を捩ったところを、ザックの短剣が走った。コカトリスの首がポトリと落ちる。
荒い息のまま、しばらく立ち尽くして、気がついた。コカトリスはD級ランク相当の魔物である。村人が倒していい魔物じゃないのだ。
かくして最初の場面に戻る。
さて。黒い箱はいつものように光り輝くと話し始めた。
『コカトリス討伐、お疲れ様です。しかし、大変なことになりました。せっかく正体を隠していたのにこのままだとバレてしまいます。あなたのしたことを見ていた人はいますか?』
「新人冒険者が四人ほど。毒霧に巻かれて死にかけてるがな。」
しばらくの沈黙。
『あなたには二つの選択肢があります。
その一、何も見なかったふりをしてその場を立ち去り、後で見つけた風を装う。
その二、全てを偶然で片づけ、全力でシラを切り通す。
どちらの提案がよろしいですか?』
バカな冒険者たちだとは思うが、流石にザックには見捨てることはできなかった。
「全力でシラを切り通す方法を教えてください……」
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