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(7)ゴブリンが逃げようとしていますが、どうしたらいいですか

「まずは私が。」


魔法使いの男が静かに村に近づいていった。ゴブリンたちは魔法使いの男に気付いていない。見張りもいないようだ。


男が口の中で何かを呟き、杖を掲げると、杖の上に灰色の雲が現れた。雲は静かに広がって、ゴブリンの村全体を覆った。灰色の靄で村の様子は見えない。ザックは密かに気配を探ったが、ゴブリンが動く気配はなかった。やがて靄が晴れると、魔法使いの男が合図をした。討伐開始だ。


二人はザックを連れてゴブリン村の近くまで来た。大きな木の根元で座るよう言われる。


「ザックさんはここで隠れていてください。何かあったら大声で叫んでください。いいですね?」


「は、はい。」


三人は短剣を片手にゴブリンの村へと突っ込んでいった。眠ったゴブリンに次々とトドメを刺していく。相手は眠っているから問題はなさそうだ。


ザックの視界の端に、うごめくものがあった。ゴブリンだ。村から逃げようとしている。


「ゴブリンが逃げます!」

ザックが大声を出したが、三人は討伐に夢中で聞こえていない。


(ちっ)

ザックは隠れていた場所から走り出ると、いくつか石を拾った。それをゴブリンに向けて投げつける。ザックはもう一度大きな声を出した。


「こ、こっちにくるなあ!」

「グギャ!」


ほとんどの石は目眩しだ。ただ一つの石だけが、ゴブリンの頭に当たった。その衝撃でゴブリンはひっくり返る。ザックはその場にへたり込むように座った。やっと気づいたのか、リーダー格の男が慌てて近寄ってきた。


「ザックさん!大丈夫ですか?気づかなくてすみません!」

「あ、ああ。こっちに近寄ってくるもんで、石を投げたらたまたま……」

「怖かったですよね。もう大丈夫ですから。」


やがて掃討が終わると、魔法使いと弓使いが戻ってきた。手には袋を持っている。討伐の証拠のため、ゴブリンの右耳を持ち帰るのだ。


「村を全て解体して、ゴブリンの死体も片付けないといけませんね」


「危険がないなら、村の連中も連れてきますが……」


四人でやるには手間がかかる。ザックがそう提案をすると、リーダー格の男がにっこり笑った。


「ザックさんは気がききますね。ではお願いします。」


冒険者と村人全員で片付けをした。終わった時にはすでに日が暮れていた。



「いやあ、凄腕の冒険者さんたちが来てくれて助かりましたよ!」


冒険者のもつジョッキに、ザックはエールを注いだ。ゴブリンを倒してくれた礼に、ささやかな宴が行われていた。


「ありがとうございます。ザックさんの石の威力も凄かったですよ。」

「畑仕事やら木こりやらしてると、力は強くなるんでさ。」


ザックは力こぶを作って見せると、さりげなく冒険者のそばを離れた。ボロが出たら大変だ。石が当たったのは偶然。そう三人とも思っているはずだ。


「それにしても、ゴブリンの群れなんて、今まで見たこともなかったのになあ。」

「魔王の力が強くなっているのかも知れませんね。」


魔王は魔王城にいて、魔物たちからエネルギーを補給している。魔物が満ち、そのエネルギーが満タンになると、魔王は活動を始める。この大陸に伝わるおとぎ話だ。それを防ぐために冒険者たちが魔物を退治しているのだから、案外嘘ではないのかも知れない。


この平穏な暮らしが長く続いてほしい。星空を見上げながら、ザックは祈るのだった。





「アイザックの居場所は分かったのか?」


国王は執務室で暗部の男と向かいあっていた。


「タイランに出国したことは分かりました。」


男は淡々と答えた。

魔導列車に乗り、単身タイランへ向かったことは確認が取れている。


「ただこれ以上の詮索を行うと、勇者がタイランにいることがあちらにも知られてしまう可能性があります。」


相次ぐ討伐の失敗で、エビソニアでは魔物の数が増えていた。その一部が隣国へと流れはじめている。何やってんだという趣旨の外交文書がちらほら送られてくるようになっていた。


もしアイザックの存在を知れば、タイランはアイザックを国に留めようとするだろう。それだけの価値がアイザックにはあった。


だからこそ娘とわざわざ結婚までさせたというのに、何が不満だというのか。アイザックは全てを捨てて逃亡した。簡単になど許してはやれぬ。


国王はあることを思いつく。


「そうか。いっそのこと、炙り出せば良いのか」


国王は暗部の男に告げた。


「魔物がタイランへと向かうように誘導せよ。」


それで責任を感じてアイザックが戻ってくるならよし。戻ってこないにしても、代わりに魔物を倒してくれればそれで良し。


王の意図を察し、暗部の男が去ると、国王は一人、暗く笑った。


「我々だけが倒れて終わりになどさせるものか」


読んでくださり、ありがとうございます。

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