(6)冒険者たちが村と逆方向に行こうとするのですが、どうしたらいいですか
『夕闇の星』のメンバーとザックは村を出発した。
「そういえばお名前を聞いていませんでしたね」
「……ザックです」
名前も変えておくんだったと後悔したが、後の祭りだ。
「ザックさんですか。そういえば、似た名前の冒険者がいましたね。」
「ええ。竜を倒した冒険者です。国王に認められて、王女と結婚したとか。羨ましいですね。」
「待望のお子も生まれて、次代の勇者と期待されているとか。」
こんなところに本人がいるとは思っていない冒険者たちは、ザックの噂話をし始めた。
ザックは耳を塞ぎたくなった。
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ザックはゴブリンを最初に見た場所に、冒険者たちを案内した。
「こ、ここでゴブリンを見たんです。本当です……」
ザックはオドオドと周りを見回すふりをしながら、ゴブリンがいた形跡が残っていないか素早く確認をした。村を襲うつもりなら、あれからまたここまできているかも知れない。
「わかった。まずは形跡が残っていないか確認する。」
冒険者たちも手分けをして探してみたが、ゴブリンがいたことが分かる形跡は見当たらなかった。
「どうする?」
「少し範囲を広げて探してみるか。」
「どっちにいく?」
三人が相談しているのをザックは待った。これでゴブリンの村の方へ向かうなら、それでいい。
三人の話がまとまり、リーダー格の男がザックのところにやってきた。
「少し範囲を広げて探してみます。山で迷わないよう、ザックさんにもついてきてもらってもいいですか?」
「ど、どっちに行くんですか?」
リーダーが指さしたのは、ゴブリンの村と反対方向だった。
仕方ない。
「そ、そっちにゴブリンがいるんですね!うわああああ!」
ザックは回れ右をすると、ゴブリンの村の方向へ走り出した。
「え?ザックさん?」
「バカ!追いかけないと!」
「落ち着いてください!ザックさん!」
後ろで冒険者たちが慌てる声がする。
ザックの背中が必ず見えるよう距離を保ちながら、ザックは走った。
もう少しでゴブリンの村、というところで、スピードを落とす。後ろから追いついてきたリーダー格の男が、ザックの肩を叩いた。ザックは走るのをやめて、後ろを振り向いた。荒い息を吐きながら、リーダー格の男はザックに話しかけてきた。
「ザックさん。落ち着いてください。大丈夫です。ゴブリンと戦うのは私たちですから。」
「ザ、ザックさん、体力ある……」
「慣れない山の中とはいえ、キツイ……」
あとの二人も、よろよろとしながら追いついてきた。ちょっとやりすぎたかも知れないとザックは反省した。
「少し休憩をして、それからさっきの場所に戻りましょう。」
「は、はい。すみません……」
ザックは落ち込むふりをしながら持っていた水を飲む。冒険者たちも木にもたれかかりながら、それぞれ自分の水筒から水を飲んだ。
その中の一人が何かに気づいたように警戒姿勢になった。
「静かに。何か聞こえた気がする。」
「ザックさんはここで動かないでください」
残りの二人も音を立てないよう、周りをうかがい始めた。
一人が息を呑んで、少し遠くを指差した。
「ね、ねえ。あそこ……」
「……村?まさか、ゴブリンの?」
「本当にいたのか……」
やっぱり信じてもらえてなかったのか。ザックは心の中でそう思ったが口には出さなかった。
「ど、どうする?」
「まずは偵察だな。何匹いるのか確認しないと。村で戦っているときに背後を襲われるのも嫌だ。」
「じゃあ、私が行ってくる。」
弓使いの女は、そっとゴブリンの村へと近づいていった。
「やっぱりゴブリンがいたんですね。」
「ええ。どのくらいいるのかを確認して、行けそうでしたら私たちで突入します。ザックさんはその間ここで待っていてください。」
ここでは冒険者たちに何かあったとしても対応できない。もう少し近くに行きたいザックはリーダー格の男に懇願した。
「ひ、一人は怖いです。どこかからゴブリンが出てきたらと思うと……。なるべく近くにいて欲しいです。」
リーダー格の男は真剣な顔になった。
「先ほどのように恐怖で走り回られると、私たちもあなたを守れなくなります。私たちがいいと言うまで静かに待つことができますか?」
「も、もちろんです」
「こいつは魔法使いです。ゴブリンに睡眠魔法をかけ、その間に討伐を行うつもりです。危険が迫った時は大声で叫んでください。いいですね?」
ザックは魔法使いだという男をチラリと見た。広範囲に睡眠魔法を使えるのは貴重な人材だ。エビソニアであれば、王宮からスカウトが来る。
「いやー大変だわ。」
そこに偵察に行っていた弓使いの女が帰ってきた。
「どうだった?」
「三十体はいるね。」
やはりか。ザックはそう思ったが、リーダー格の男と魔法使いは驚いている。
「そ、そんなにか。」
「魔法がうまくかかるといいけど……」
魔物の集団に会うことが今まであまりなかったのだろう。魔法使いの男も不安げだ。
「ギルドから応援を呼ぶか?いや、その間に増えても困る。」
ゴブリンの困るところは、集団が大きくなると突然変異で強い個体が生まれることだ。ザックとしても今のうちに叩いて欲しかった。
「あなたたちだけが頼りなんです……。なんとかしてください」
ザックの一言で、三人は心を決めた。
「よし。やれるだけやってみよう。」
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