(4) 疑われたらどうしたらいいですか?
村長はザックが思ったよりも若い男だった。
「俺はコーエンだ。よろしくな。」
差し出された手を握ると、日に焼けた顔でニカっと笑った。受け入れてもらえるようだ。ザックは肩の力が抜けた気がして、へらりと笑った。
村の男たちは畑を作っている最中のようだ。
「ここは開拓村だと聞いたのですが。」
村を歩きながらザックが尋ねると、コーエンが頷いた。
「ああ。南の村が手狭にになってな。領主様の許しをもらってここに村を作ることになったんだ。まだ家を建てただけだから、生活するにはまだまだやらなきゃならないことが多い……。ここなんてどうだ。」
コーエンが立ち止まったのは、ザックが来た方とは逆側の奥まったところだった。まだ何もない空き地だ。後ろには森が広がっている。ここに家を建てろと言うことか。
「元冒険者なんだから、多少の獣は大丈夫なんだろう?獣の警備もしてくれると助かる。」
自分の肩書きを考えれば、その仕事が一番あっているのだろう。ザックは頷いた。
「魔物は出ないのですか?」
ザックの質問にコーエンは苦笑した。
「タイランじゃほとんど出ない。時々エビソニアからふらふら迷い込んでくるやつがいるくらいだな。だから、タイランの冒険者はあまり強くねえんだよ。」
そう言いながら、コーエンはザックをまじまじと見る。
「おまえさんの方がよっぽど強そうに見えるんだがな。」
ザックの頭を相棒の言葉がよぎった。
『もし、元勇者だとバレそうになった時は、こう言って誤魔化しましょう。
まずは、魔物が怖くて冒険者をやめたと村長にだけ打ち明けましょう。自分の恥ずかしい秘密を打ち明けてくれたことで、村長はあなたを受け入れやすくなります。
次に、実際に魔物を怖がって見せましょう。そうすればあなたを魔物に近づかせようとはしなくなるはずです。くれぐれも魔物を倒すところを見られてはいけません。』
「じ、実は……」
ザックは嘘をつくのが下手である。自分でもそれはよくわかっていた。視線はうろうろと彷徨い、言葉がうまく出ない。それを言いにくいことを言おうとしていると思ったのか、コーエンは身を乗り出してきた。
「実は?」
ザックの喉仏がごくりと動いた。
「魔物が怖いんです。それで冒険者を辞めました。」
コーエンはザックをまじまじと見ている。これでなんとか誤魔化せるだろうか。
「ガハハハッ。ならタイランに来て正解だ!」
しばらくの沈黙の後、大笑いしながら、コーエンはザックの背中をバンバン叩いた。地味に痛い。
「来な。斧を貸してやる。家を作るにしてもまずは木を切らないとな。」
コーエン村長とザックは森の中にいた。一本の木の前に立つと、コーエンはうんと頷いた。
「俺が見本を見せるから、よく見とけ。この後お前にも木を切ってもらうからな。」
「分かりました。」
ザックはコーエンの後ろに下がった。コーエンが斧を振り下ろすと、木に斧が食い込んでいく。
カーン、カーン、という音が、森に響いていった。
それを眺めていると、ザックの感覚に何かが引っかかった。魔物が近くにいる。
そっと気配を探ると、少し離れた藪の中に、一匹の一角ウサギがいた。コーエンの様子を探っている。小さくて可愛い姿をしているが、あれでも魔物である。人に飛びかかり、あの角で人間を刺すくらいのことはしてのけるのだ。
今のザックは丸腰だ。あの角とやり合っては怪我をするかもしれない。そう思ったザックは、さりげなく近くの石を拾った。コーエンは汗を飛び散らせながら一心不乱に木を切っている。
斧が木に食い込んだ時、ザックは石を一角ウサギに向けて指で弾き飛ばした。
カーン!
斧が食い込む音と同時に、一角うさぎはその場に倒れた。
「倒れるぞ!」
コーエンの声と共に、ドスンと音がして、木が倒れた。その衝撃で、一角ウサギの体が、藪から転げ出た。
コーエンが振り向けば、それに気づいてしまう。
「うわあああ!」
ザックは怖がっている声をあげ、コーエンの近くに走り寄った。
「な、なんだあ?」
「あ、あそこに魔物が!」
ザックが指を振るわせながらウサギを指さすと、コーエンはちょっと驚いた顔をした。
「一角ウサギだな。しかもあれ、もう生きていないんじゃねえか?」
コーエンは一角ウサギに近寄ると、ひょいと耳を持ち上げる。体はぶらんと力を失っていた。ちょうどウサギの頭のところに、小さな傷があった。
「そ、村長さんが木を倒した時に、石が飛んだんです。そしたらウサギが出てきて。もう驚いたのなんのって。」
穴があったら入りたい。ザックは喋りながらそう思った。どう聞いても嘘にしか聞こえない。ところがコーエンはそうかと頷いた。
「へえ。そりゃついてたな。」
コーエンはあまり深く物事を考えない性質らしい。ザックがむしろ申し訳なくなってしまうほどだ。
「今日はこれで、宴会と行くか!」
その日は結局、そのまま村へ帰って宴会になった。
村の男の一人は料理ができた。一角ウサギは肉汁したたる料理へと姿を変えた。エールと一緒に食べたそれは、今まで食べたどのご馳走よりも美味かった。
ザックの家が建つのは、それから一週間後のことだった。
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その頃、エビソニアの王宮には、討伐隊からの知らせが届いていた。
「討伐失敗!村は壊滅状態だそうです。討伐隊のメンバーも負傷しており、これ以上戦えないため、帰還するとのこと。」
「なんだと?」
胸の奥から嫌な予感が湧き上がってくる。王は知らせをグッと握りつぶした。
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