(3) 山奥の村で何をしたらいいですか
エビソニア王国の謁見の間。王を前にして討伐隊のメンバーが跪いている。しかし、そこには「不死の勇者」の姿がない。遅れているのだろうか。メンバーが不安になった頃、側近がやってきて、王に耳打ちをした。黙って聞いていた王が頷くと立ち上がる。
「西でサイクロプスが暴れ、村に被害が出ておる。其方たちはそれを退治し、村の復旧に力を貸して参れ。良いな。」
メンバーの一人が意を決したように言う。
「アイザック様がまだ来ておりませんが……」
「アイザックは今回行かぬ。」
王の言葉にメンバーは息を呑んだ。
王に賜った宝剣エクスカリバーを掲げ、どんな魔物でも倒してしまう「不死の勇者」アイザック。彼がいるからこそ他のメンバーも討伐隊に参加したのだ。彼以外戻ってこない討伐があるのも知っている。しかし、いるのといないのでは大違いだ。
彼らの気持ちを察したのか、王はニヤリと笑った。
「そろそろ新しい勇者を迎えたいと思っておる。期待しておるぞ。」
新しい勇者を迎える。それはアイザックのように王家の一員として遇してもらえると言うことか。それとも宝剣を賜ると言うことか。
目の色が変わった討伐隊のメンバーを見て、王は満足気に頷いた。
これでいいのだ。何もかもを捨てて出ていった勇者になど用はない。
何が気に入らなかったのかは全くわからないが。
「良い働きを期待しておるぞ」
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「お客さん、起きてくださいよ」
声と強くドアが叩かれる音で、ザックは目が覚めた。外はまだ明るい。少ししか眠っていないはずなのに、ひどくスッキリしていた。
ドアを開けると、女主人がほっとした顔をして立っていた。
「ああ、良かったよ。昨日から声をかけても起きてこないからさ。死んでるんじゃないかと思っちまったよ。もう少しで扉を勝手に開けるとこだった。」
確かに女主人の手には合鍵が握られていた。それにしてもおかしなことを言っている。
「昨日?まだお昼では?」
ザックが驚いたようにいうと、女主人は呆れたように笑った。
「何言ってんだい。丸一日寝てたんだよ。お腹が空いたんじゃないのかい?」
どうやら本当に泥のように眠っていたらしい。
その声に釣られたのか、ザックの腹の虫が騒ぎ出した。思わず赤面する
ザックに背中を向けると、女主人は階段を降り始めた。
「食堂に来な。朝食を準備してあるからね。」
食堂には誰もいなかった。一人分だけポツリと机の上に食事が載せられている。パンにスープ。それに肉がついていた。
「その肉は昨日の夕食だよ。」
「他の客は……」
「もう出かけたよ。さっさと食べてくれるかい?ここの掃除もしなきゃならないからさ。」
女主人が引っ込むと、ザックは早速座ってスープを口に入れる。エビソニアで食べていたスープよりも具が多いように感じた。
ザックは慌ててその考えを頭から追い出した。私の仕事はもう終わったのだ。パンの横にはバターもついていた。それをつけて食べたパンは、味わいが深くなった。ザックは夢中でパンにかぶりついた。タレをつけて焼いてある肉は、冷えて硬くなっていたが、それでも味が染みていて美味かった。
あっという間に食べ終えたザックはふうと一息つく。それを見計らっていたように、女主人が戻ってきた。
「お客さんはもう一泊して行くのかい?」
一泊分しかお金は払っていなかった。
「いや、どこか山奥の方で仕事を探したいと思っている。どこか良い場所はないだろうか。」
女主人はすぐに答えた。
「それなら五駅先のキアンだね。山を切り開いて村を作ろうとしている連中がいるんだ。人手が足りないって言ってたよ。」
山奥の開拓村。それは自分が過ごす場所として最適なように思えた。
「ありがとう。そこに行ってみます。」
乗り放題の切符を見せて、キアンまで列車に揺られた。この辺は山が多いのか、トンネルばかりだ。いくつかトンネルを抜けたところで、列車が止まった。キアンについたのだ。
ザック以外には誰も降りない、小さな駅だ。なぜこんなところに駅を作ったのだろうと考えながら、ザックは周りをぐるりと見回した。
北の方には、山へと続く細い道がある。南の方には、少し大きめの広場があった。ひょっとすると、南には村か町があるのかもしれない。
ザックは北へと進路を定めると、細い道を歩いて行くことにした。細いと言っても、小さな馬車なら通れる道だ。所々に轍の跡が残っている。
なだらかに上って行くその道を歩きながら、ザックは額の汗をぐいと拭った。エビソニアよりもタイランの方が気温が高い。春のはずなのに、夏のように感じていた。宿の女主人が持たせてくれた水を飲んで、休憩することにした。ついでに黒い物体を取り出す。
「相棒、山奥の村で暮らそうと思う。どうしたらいいんだ?」
勇者生活が長過ぎて、ザックは村でのしきたりが全くわからなくなっていた。すぐに黒い物体は、青く光りだす。
『ザックさんの行きたい場所が見つかったのですね。素晴らしいです。村に着いたら、まずは村長さんを探して挨拶をしましょう。流しの木こりか、怪我して引退した元冒険者だと名乗りましょう。くれぐれも元勇者とバレないよう、身のこなしには気をつけてください。』
歩き方などでそんなに分かるものなのか。普通に歩いているだけのつもりだったが。ザックは歩き方を変えようとしてみたが、右足と右手が一緒に出てしまい、諦めた。なんとかなるだろう。
「木こりは嘘がバレそうだから、ランクの低い元冒険者にしておくか。」
『次に、住む場所を決めましょう。空き家があるなら借り、なければ自分で建てましょう』
家を建てる。そんなに簡単にできるのだろうか。ザックは不安に思ったが、何事もやってみなければわからないし、分からなければ、相棒が教えてくれるはずだ。
『最後に自分の仕事を探しましょう。家庭菜園を作って、自給自足ができる足掛かりを作りましょう。』
開拓村と言っていたから、おそらく畑もないに違いない。やることは多そうだとザックは思った。
「なるほど。忙しくなりそうだな。」
ザックは黒い箱をバッグにしまって立ち上がると、またさらに山の奥を目指して進み始めた。すでに日は西に傾きつつあった。しばらく歩くと、少し開けた場所にでた。
一応村を模しているのだろうか。真ん中に広場があり、その周りに、吹けば飛ぶような家が五軒建っている。煙が煙突から細くたなびいている家もあった。村の周りには柵もない。魔物に襲われたらどうするのだろうと、ザックは人ごとながら心配になった。
ザックは煙の出ている家にいくと、扉を叩いた。出てきたのはがっしりとした体つきの男だ。上半身は裸で、鍛え上げられた筋肉を惜しげもなく出している。
「なんだよ……誰だ?あんた」
知らない顔が急に出てきて、男は警戒した顔になった。
「国境の町でこの村が人手を探していると聞きました。村長に挨拶したいのですが、どこにいますか?」
「なんだ。手伝いにきてくれたのか。ありがてえ」
男は嬉しそうに顔を綻ばせると、家から出てきた。
「着いてこい。村長の家に案内するぜ。」
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