(28) ワーカーアントは草むしり以外もやってくれますか
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サリーのお説教は長いことかかった。終わる頃にはアルマルドは横を向いて口を尖らせていた。子どもみたいなことをする。ザックは内心苦笑した。
「おじいちゃんが勝手なことをしないよう、良く見張っておきますね。」
「ああ。頼む。」
サリーは良い子のようだ。これならばアルマルドをしっかり見張っておいてくれるだろう。シルクだとどうしても師匠ということで立場が弱くなってしまうのだ。
「孫はやらんぞ」
なぜかアルマルドにものすごく睨まれた。サリーが赤くなっている。
「何言ってるの!そういうことを言うからザックさんも困ってるんじゃないの?ほら、帰るよ!お祖父ちゃんの大好物のパイを作ってあげるから」
サリーに手を掴まれると、アルマルドは途端に大人しくなった。
「そうだ。手に入らなくて困っている商品があったら、声をかけてくださいね。迷惑をかけたお詫びにお安くしますので!」
サリーは眩しい笑顔を残して、夕暮れの中、研究所へとアルマルドと一緒に戻っていった。
「……しっかりしていて、良い娘さんですね。息子がいたら嫁に欲しいくらいです。」
フリックが二人の後ろ姿を眺めながら言った。その後チラリとザックを見る。
「ザックさんは結婚は……」
「その話題はしたくない。」
ザックはフリッツの言葉に被せるように言った。話せるわけがない。あまりの勢いに、フリッツがたじろいでいる。
「あ、ああ、すみません。失礼しました」
これでは過去に何かあったと言っているのと同じだ。ザックは少し後悔したが、今更出した言葉は取り戻せない。気まずい雰囲気が漂う。
「……帰る。」
「またいらしてくださいね。」
ザックは買い物は諦め、帰ることにした。外はすでに夕方だ。朱色の空の色はどこまでも……エビソニアにも繋がっているのだろう。ふと昔の暮らしが頭をよぎって、ザックは首を振った。
もう昔の話だ。こういう日はエールでも飲んで寝てしまうに限る。ザックはそう考えながら、家路についた。
その頃、エビソニアの王宮では王が頭を抱えていた。王の前にはエレナ付きの侍女が平伏している。
「『夫を探しにいく』だと……しかも、王子も連れて?」
「はい。朝起こしに参りましたら、部屋にはいらっしゃらず……申し訳ございません!」
「警備は誰も気づかなかったのか!」
「王子が夜泣きをするので、外であやしてくると庭園に出られたところまでは確認していたのですが。」
王は口をへの字に曲げた。庭園には王族しか知らない隠し通路があるのだ。それを使ったのだろう。
「探せ!赤ん坊を連れているのだ、すぐに見つかるはずだ」
「ただちに!」
近衛兵たちが扉から出ていく様子を、王はじっと睨みつけていた。
家に帰ると、ザックは窓を開けた。そろそろキラービーが戻ってくる時間だ。窓を開けていても家の中がひんやりすることもなくなってきた。
羽を震わせる音をさせて、キラービーが戻ってきた。足で捕まえているのは、ワーカーアントだ。相棒のテイムしたキラービーは有能である。
『ザックさん、机の上を片付けてください。ワーカーアントのテイムをしますので』
「はいはい。」
最近いいように使われている気がしなくもない。が、手のない相棒に片付けは無理だ。ザックはざっと机の上にあったものを脇に寄せた。ついでにエールの入った瓶を持ってくる。
『冷たい方が美味しいそうです』
AIの教わった通りに保冷庫を買い求め、そこにエールを入れている。農作業の後は喉にくる美味しさだ。
『片付けに対する認識の違いがあるようですが、隙間はできました。ありがとうございます。』
「嫌味か?それは」
思わずザックは呟いてしまった。そのままテイムの様子を見ようと椅子に座る。
キラービーはワーカーアントを机の上に置いた。
『ザックさん、紙とインクを机の上に準備してください。』
「はいはい。」
ザックは瓶を置くと、言われるままに紙とインクを机の上に置く。インク瓶の蓋は開けてやった。キラービーはインク壺に器用に捕まると、針の部分をインクに浸している。やがて飛び上がると、紙の上に魔法陣を描き始めた。
『さすがキラービー。私が想像していたよりも器用です。』
「どうやって描いているんだ?」
見本もないのに次々と描かれていく魔法陣が不思議でたまらない。
『私がイメージを送っています。うまく円が描けるかが不安だったのですが、ダンスで円の感覚を掴んでいたようですね。』
魔法陣が描き上がると、キラービーはワーカーアントを真ん中に置いて部屋の端へと飛んでいった。
『では、うまくいくかやってみましょう』
魔法陣が青白く光った。糸のようなものがワーカーアントに絡み付いたと思うとすうっと消えていく。ワーカーアントはゆっくりと身を起こした。
『成功しました。私のテイム技術も向上しているようです。』
「ワーカーアントは一匹でいいのか?」
畑は広い。蟻一匹では草むしりを終えるのは難しいのではないだろうか。
『ワーカーアントには、仲間を手伝おうとする本能があります。このアントが草を食べていれば、手伝おうとする仲間が寄ってきます。」
「へえ……」
ザックは蟻の行列を思い浮かべて、そう言うものかと納得した。
「他にできることはあるのか?」
『そうですね。土に埋まっている珍しいものを見つけることもできますよ。頼んでおきましょうか』
「そうだな。どんなものがあるかちょっと興味がある。」
ザックはふわっとあくびをした。残りは明日でいいだろう。布団に潜り込むザックを、キラービーとワーカーアントがじっと見守っていた。
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