(27) 草むしりをしてくれる魔物をテイムできますか
しばらく週一投稿になります。ご了承ください。
ザックが畑で水やりをしていると、山からキラービーが戻ってきた。ザックの近くをブブッと羽を振るわせながら飛んでいる。黒い箱に何かを話しているのかもしれない。ザックは周りを注意深く見渡した。キラービーがいると大騒ぎされても困るのだ。近くに人はいない。水に濡れた畑の野菜はキラキラと光って見える。去年よりも大きい。
『残ったキラービーたちが巣をまた作り始めたそうです。虫の魔物たちもキラービーを恐れてこの辺から遠ざかっているそうですよ。』
キラービーからの伝言を相棒が伝えてくれた。虫の魔物はそれほど脅威ではないが、畑の作物を荒らされるのは困る。黒い箱がテイムしたキラービーはその辺も警戒してくれているようで、虫食いも最低限になっていた。
『誰かきたようです。』
黒い箱の声と同時に、キラービーは山へと飛んでいく。暗くなるまで山の中で魔物の偵察をするのが、キラービーの毎日の仕事である。
ザックのところに来たのは、行商人の男だった。以前村に店を作ってはどうかと提案したところ、本当に店を建てたのだ。今日から開店だったか。
「ザックさん。今日から開店です。これからもどうぞご贔屓に」
渡されたのは、丸い容器に入った軟膏だ。
「これは?」
ザックの質問に行商人は笑み崩れる。
「キラービーの巣蜜と傷薬を混ぜた軟膏です。ちょっとした切り傷ならこれで治りますよ。香りもいいと評判なんです。お近づきの印に。」
「この村で作ってるものじゃないか。」
シルクとアルマルドが開発しているのをザックは知っていた。
「まあまあ。他の村ではすごい人気なんです。おかげでうちの店にも仕入れに来る商人が来るようになりました。後で店に来てください。紹介しますので」
ザックはちょっと興味が湧いた。この村にも人が増えてきたが、商人はまだまだ少ないのだ。何か変わったものを持っているかもしれない。
「後で行くよ」
行商人からもらった軟膏をポケットにねじ込むと、ザックは水やりの続きに精をだすことにした。畝の間かぴょこぴょこと生えてきた雑草がザックの目に入った。早めに取らないと大変なことになる。
「なあ、相棒。草むしりをやってくれる魔物をテイムできないか?」
『ワーカーアントでしたら、雑草を強い顎で噛み切ってくれるかもしれませんね。キラービーに魔法陣が描けるのかも試せるので、夜にでもやってみましょう。』
「頼むよ」
意外と魔物との共存もいいものだ。ザックはうんと腰を伸ばして空を見上げた。今日も快晴だ。
「フリッツ商店」と書いた看板がデカデカと店に飾ってある。とすれば、あの行商人の名前はフリッツなのだろう。削ったばかりの木の匂いが漂ってくる店内には、村で使えるような道具が所狭しと置いてあった。
店の奥にはと若い女性が話し込んでいた。ザックは近づこうとして躊躇した。
王女の件以来、正直言って女性とあまり関わりたくなくなっていた。この村には男ばかりで、ザックには過ごしやすかったのだが、これから女性が増えて来るのかもしれない。
(厄介ごとに巻き込まれなければいいが)
とりあえず出直そうとザックが背中を向けたところで、フリッツから声がかかった。
「ザックさん!来てくださったのですね。ありがとうございます。」
仕方なくザックは振り向いた。
「ああ。フリッツって名前だったんだな。」
「そういえば名乗っていませんでしたか。申し訳ありません。今後ともフリッツの店をよろしくお願いいたします。」
フリッツは丁寧にお辞儀をすると、若い女性を手招きした。たんぽぽのような色の髪を結い上げ、紺色のワンピースを着ている。好奇心に満ち溢れた茶色の瞳は、誰かに似ているような気もするが、思い出せなかった。
「こちらが魔物素材を色々と卸してくれるザックさんです。」
いつの間にか魔物素材卸業をしていることになっているらしい。女性は目を丸くすると、深々とお辞儀をした。
「サリーと申します。いつも祖父がお世話になっているとシルクさんから聞いています。」
「祖父?」
祖父とは誰のことだ。
「サリー!こんなところで何をしておる!」
店の外から怒ったような声が聞こえてきた。アルマルドだ。
「あ、おじいちゃん。」
サリーが手を振った。それで思い出した。目がアルマルドにそっくりだったのだ。ザックがサリーをしげしげと眺めると、サリーはかすかに赤くなって笑った。
「なるほど。商会の仕入れ担当。」
アスガルトの店の奥は、商談できるように応接スペースが作ってあった。アスガルトの横にザック。目の前にはサリーとアルマルドが座っている。
「はい。こちらの村で新商品ができたと聞きました。しかも祖父が関わっているということなので、私がこちらの担当に。」
「魔物が出る村になんか来るんじゃない!せっかく王都の仕事に就いたって言うのに」
どうやらアルマルドは孫に対しては過保護らしい。顔を赤くして怒るアルマルドをサリーはじっと睨んだ。
「おじいちゃんが人に迷惑をかけているって聞いたから来たって言うのもあるのよ。」
「迷惑なんてかけておらん!」
「と言っていますけど、ザックさんどうなんですか?」
サリーがザックに視線を向けてきた。そういえばシルクが最終手段がどうこう言っていたな、と思い出す。ザックは重々しく頷いた。
「私の家に勝手に押しかけてくるので迷惑しています」
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