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(28)男と女の違いが分からない時はどうしたらいいですか

 次の日の夕方。ザックは目の前にできている小さな山を見て頭を抱えていた。


相棒の指令で、ワーカーアント達は土中にある珍しいものを持ってきた訳なのだが、色々なものがごちゃ混ぜになっている。これを分類するのは一苦労だ。


「どうすりゃいいんだこれは。」


 ザックが困って呟いた言葉に、相棒が反応する。


『申し訳ありません。種類別に分類するよう指令を出すべきでした。ワーカーアントに任せますか?』


「そうだな。頼む。」


 家の隅にいたワーカーアントが山の前にやってくる。山から一粒持ち上げたあと、しばらく動きが止まった。


『仲間を連れてきてもいいかと聞いていますが、許可しますか?」


 ザックには実は怖いものが一つだけあった。


それは、小さいものがびっしりと集まって蠢いているところだ。背中がゾワゾワとするのをどうにも止められない。


うっかりワーカーアントが家の床を埋め尽くしているところをザックは想像してしまった。ザックは立ち上がる。


「連れてきてもいいが、その間家から離れていてもいいか?」


『もちろんです。終わったら私に連絡が入るようにします。』


 黒い箱はそう言うとザックのポケットに入り込んだ。一緒にいくつもりらしい。


ザックはそそくさと家を出た。家の扉は開けたままにしておいた。



 ザックは研究所に来ていた。シルクからそろそろ蜂蜜酒の味見をして欲しいと頼まれていたのだ。


「シルク。蜂蜜酒の味見をしたいんだが……」


「あ、ザックさん」


 振り向いたシルクを見て、ザックは絶句した。


 ほとんど白に見える金色の髪が伸び、肩にかかるくらいになっている。髪に縁取られた顔は、ふっくらとして血色もいい。


 いや、違う。ザックが驚いたのはそこではない。


「シルク、お前……女だったのか?」


 ザックの言葉を聞いて、シルクはもじもじと俯いた。


「ほらね。ザックさんは気づいてなかったでしょう?」


 からかうようにサリーがシルクの肩に手を置いて、ザックを見る。


「わしは最初から気づいておったからな!情けないのう」


 マウントを取ろうと言い募るアルマルドは無視をする。


「冒険者になる時、女だとバレると危険だからと、男の格好をしていました。多分エンリヒ達も気づいていなかったと思います。平気で一緒に雑魚寝していましたから。」


 バレていたらどうするつもりだったんだと言う言葉を、ザックは飲み込んだ。その程度の覚悟はして冒険者になったのだろう。違う道に行ったのも、そのせいかも知れない。


「そんなことより、蜂蜜酒の味見にいらしたんですよね!ザックさんにはぜひ飲んでいただきたくて。」


 シルクは蜂蜜酒の入ったガラス瓶のところにザックを連れて行った。


黄金の色をした液体がどれにもたっぷりと入っており、下の方にはレーズンが沈んでいる。時折下の方からゆらゆらと泡が上がっていくのが見えた。


シルクはその中の一つの瓶を取り出すと、布を外した。


「味が良ければ、このまま冷暗所で熟成させます。」


「どのくらいだ?」


「そうですね……。夏にはできあがるかと。」


「なかなか良い出来じゃぞ!」


 アルマルドが威張っている。シルクがそれを見て目を細めた。


「お師匠様?まさか勝手に味見をしていませんよね?」


「そ、そんなことはしておらんぞ」


 アルマルドはシルクから目を逸らしてそううそぶいた。シルクはサリーを見た。


「そういえばこの前やたら機嫌よく帰ってきた時がありましたね。ご飯もそこそこに寝てしまいました。」


 シルクとサリーに見つめられてアルマルドは足を踏み鳴らした。


「半分はワシのもんじゃ!だから飲んでも問題なかろう?研究者としても当然の行動じゃ!」


 シルクはため息をつき、サリーはアルマルドを睨んだ。


「採ってきてくれたのはザックさんですから、先にザックさんに味見をしてもらいましょうと言いましたよね?」


「おじいちゃん。しばらくお酒は禁止ですからね」


「そ、そんな……」


 アルマルドは呆然としている。サリーから言われると大分堪えるらしい。ザックは笑いをこらえるために咳払いをした。


「とりあえず、味見をさせてもらってもいいだろうか」


「もちろんです」


 シルクが黄金色の液体をコップに移し替えるとザックに渡す。


蜂蜜のあまい香りが鼻をついた。口にいれるとピリピリとアルコールの味が伝わってきた。かなり強い。それも蜂蜜の甘さでほどけてしまい、またつい飲みたくなる。


「これは……すごいな」


 ザックはため息をついた。これが熟成されたらどこまで美味くなるのか。シルクがザックの様子を見て嬉しそうに笑った。


「ちゃんとできていたようで良かったです。私はまだ飲めませんから確認ができなくて。発酵もほとんど終わっているようですので、地下の冷暗所に明日移します。鍵も発注しておきますね」


「それがいいと思います。」


 シルクとサリーは頷きあった。良いコンビが出来たようだ。


 シルクは少しだけ蜂蜜酒を分けてくれた。夜の楽しみが増えてありがたい。



 研究所をでると既に空は満天の星だった。


「……なあ、シルクが女だって気づいていたか?」


『女性と男性の身体には有意差があり、私はそれを演算することができます。ただ、児童の身体については有意差がありません。シルクさんが成長期に入ったため、差が分かるようになったと推察します。』


「だからどっちだよ」


 ザックとしては気づかなかった仲間が切実に欲しかった。


『冬にはまだ児童の身体でしたので、気づきませんでしたが、最近は女性としての性質を獲得していました』


 つまり気づいていたと言うことか。ザックはため息をついた。


「次からはどっちかわからない時は聞くことにするよ。ところでワーカーアントは仕事を終わらせたのかな」


 家に帰って蟻だらけという状況は見たくない。


『ザックさんが蜂蜜酒を飲んでいる間に終わっています。何があるのか楽しみですね。場合によっては鑑定いたします。』


「頼むよ。」


 ほろ酔いの体に春風が心地良かった。


読んでくださり、ありがとうございます。

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