(24)キラービーの巣を見つけたので、退治したいんだが
数日後、ザックは家の近くの木に、虫寄せ液を塗った。普通の虫寄せと少し違うところは、魔物素材の廃材を少しだけ混ぜてあるところだ。これはシルクにお願いして分けてもらった。
次の日見に行くと、液を塗った場所には魔甲虫がひしめき合っていた。
「どうやらうまくいきそうだ。」
ザックは虫を持ってきた壺に入れた。ついでに弱い風魔法を発動する魔石を中に入れ、蓋をする。ザザザザっという音がしばらく聞こえていたが、やがて止んだ。ザックは壺の蓋を開ける。
虫達はキラキラと輝く黒い砂のように変化していた。ただ、思ったより量が少ない。畑に行き渡るには少なすぎる。
「もう少し塗る木の量を増やすか。」
ザックは虫よせ液を持って、森に入っていった。
遠くまで行けば、通うのが面倒になる。ザックは近くの木の幹に、次々と液を塗っていった。十本以上塗り、そろそろ戻るか、と思った時だった。後ろから殺気のようなものを感じ、ザックは咄嗟に身を交わした。ぶおん、という音を発しながらザックのいた場所に飛んできたのは、大きめの黒と黄色の縞のある虫だ。尻には尖った針が黒光りしている。
「キラービーか!」
液の匂いに釣られて飛んできたのか。周りを見たが、一匹だけのようだ。キラービーはザックよりも、木の幹に塗られた液を選んだようだった。液の場所に止まると、その場で尻を振るような、奇妙なダンスを始めた。そんなキラービーは見たことがない。
「なあ、相棒。キラービーが木の幹に止まったままダンスを始めたんだが、あれはなんだ?」
『おそらく餌があったと仲間を呼び寄せているのです。一匹ならともかく、集団で来られては危険です。一刻も早くその場から退避しましょう』
黒い箱の警告を聞いて戻りかけたザックだったが、ふと足が止まった。
キラービーの集団がいると言うことは、どこかに蜂の巣があるということだ。
「うまくすれば、蜂蜜が取れるんじゃないか……?」
甘いものは高級品だ。行商人に売ってもいいし、自分で使ってもいい。ザックは滅多に食べられない甘いものが好きだった。
そのためには蜂の巣の場所を探すことが先決だ。
先ほどのキラービーは、まだ幹の上でダンスを踊っていた。ザックは自分の髪の毛を二、三本抜くと、こよりのように撚り合わせ、素早くキラービーに巻きつけた。ついでに上から虫寄せ液をかけておけば、液のベタベタで髪の毛は取れなくなる。液を体にかけられたキラービーは、木から離れ、フラフラと飛び始めた。羽に液体がかかってしまい、うまく飛べなくなってしまったらしい。
ザックは十分に距離をとりながら、自分の髪の毛が巻き付いているキラービーを追いかけていった。
山頂に近い場所まで、キラービーは飛び続けた。ザックが思っていたより、巣の場所は遠かった。これほど山奥までは、今までザックもきた事がなかった。遠目でも巣は分かった。ザックが抱きついても手が回りきらないほど大きい。
「デカいな……」
あの中にはキラービーの幼虫がたくさん入っていて、それが増えていくのだ。それを考えると、ザックはゾッとした。危険すぎる。
『なあ、相棒。巨大なキラービーの蜂の巣を見つけたので退治したいんだが。』
黒い箱は青く光って飛び出した。
『逃げ出すのではなく、キラービーを退治することにしたのですね。キラービーの蜂蜜で作る蜂蜜酒は天の味がするとアルマルドの著書にも書いてありました。是非とも作ってみたいものです。
まずは、麻痺草を混ぜた薪を燃やし、煙を巣に送り込んでください。これでキラービーたちは、体が痺れ、落ちてくるはずです。
次に、蜂の巣の上部を素早く切り取って持ち去ります。断面から蜂蜜が垂れてくるので、すぐに逆さにして容器などに溜めましょう。
なお、蜂の子や、蜜蝋もおそらく高額で買い取ってもらえます』
どうやらキラービーの巣は、良い資金源になりそうだ。ザックは一度村に戻り、巣を攻略するための準備をすることにした。
夜。ザックは一人でキラービーの巣の近くまで戻ってきていた。暗くなる前に、キラービーの警戒範囲から少し離れた場所で、焚き火を起こしておいた。暗闇の中、ぱちぱちとはぜる音を聞きながら、ザックは焚き火の明るさに目を細めた。風魔法の魔石も持ってきたが、タイミングよく巣の方向へと風が吹いている。
ザックは自分の口元を布で覆った後、麻痺草を焚き火に投げ入れた。麻痺草は一瞬緑色に輝いた後、消えていく。焚き火の煙がぼんやりと白く、巣の方へたなびいていくのが見えた。しばらくそのまま様子を見るが、特に変化はない。巣に届く前に、煙が分散してしまったのかもしれない。
「少し遠すぎたか?」
ザックは焚き火から一本、火のついた薪を拾うと、それを目の前に構えながら、ゆっくりと巣の方へ向かった。
ザッと何かが落ちてきた音が近くで聞こえた。ザックがそちらに火を向けると、そこにはキラービーが落ちていた。念のため毒針の部分を切り落とす。針がなくなったキラービーは弱体化し、魔虫たちの格好の餌になる。
夜のせいか、それほど巣の外に出ているキラービーはいなかったようだ。ザックは目についたキラービーの毒針を切り落としつつ、巣の前まで来た。地面に火のついた木を突き立て、さらにその上に麻痺草を撒いた。焚き火の場所まで戻ってさらに一本。そしてもう一本。ザックはそこまでやった後、後ろに下がり、様子を伺った。
煙の勢いが強くなると、巣からキラービーが飛び出してくる。しかし、長くは飛べずに落下した。地面が黒と黄色の縞模様で覆われていく。
やがて、巣からは何も出てこなくなった。
ザックは短剣を抜き払うと、跳躍し、巣の上部をスパッと切り落とした。着地と同時にその蜂の巣をキャッチする。
「ほほう。キラービーの巣じゃな!素晴らしい」
暗闇から急に嬉しそうな声がかかった。この声には聞き覚えがある。闇から現れたその老人を、ザックは忌々しく睨みつけた。
「アルマルド……」
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