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(22)虫の魔物が肥料にいいって聞いたんですけど本当ですか

 ザクリ、と鍬の先が地面に突き刺さった。跳ね返すほどの凍りつきはすでになく、小さな雑草が土の上を支配し始めている。ザックは黙々と家の前の畑を耕し続けた。冬の間に鈍ってしまった身体をあたためるには、ちょうど良い労働だ。


「おはようございます、ザックさん」


 声をかけられ、ザックは鍬を振り上げる手を止めた。書類を抱えたシルクが立っていた。職人達に指示を出すことに慣れてきたせいか、頼りなげな表情はなくなっている。


「ああ、シルクおはよう。そろそろ工場も稼働できるのか?」


 冬の間に建てていた工場がつい最近出来上がったのだ。


「外はできたんですけど、中は空っぽで。今日行商人の方が荷物を届けてくれることになっています。」

「そうか。頑張れよ」

「はい!」


 シルクは弾むような足取りで工場へと向かっていった。


 アルマルドと作った村の結界は、よく効いた。

 一度だけワイルドボアの一群が、ボス争いを仕掛けようと村に突撃してきたが、村の周りに掘ってあった落とし穴とエンリヒたち冒険者の奮闘で、難なく倒すことができた。ザックは自分の家に向かってきたワイルドボアの足元に木を投げて転ばせる以外、何もしていない。ワイルドボアの肉が大量に出回り、冬の最中に祭りができたのもいい思い出だ。


『結界を恐れ、逃げていった魔物が約二千。罠に落ち、あるいは冒険者の手によって命を落とした魔物が約五百。山に潜んでいる魔物が残り五百というところでしょうか』


 夜陰に紛れて山の様子を偵察しにいった相棒が報告してくれた。自由に動けるようになってから、行動範囲が広くなっている。この様子なら、平穏な生活を続けられそうだ。ザックは暖かくなってきた陽の光に目を細めた。



 行商人が今日来るなら、野菜の種と肥料を買おう。そして、今年こそ大量の野菜を手に入れてみせる。ザックは鍬を持つ手に力を込めた。



 ザックが行商人のところに行くと、エンリヒたちが先に来ていた。冬の間に討伐した魔物素材を積み上げ、行商人の目を丸くさせていた。罠にかかった魔物の息の根を止め、片付けるのは、エンリヒ達の冬の仕事だった。素材の取り方については、アルマルドから厳しい教えがあったらしい。素材を売った金額は村と半分ずつにすることになっている。


「こ、こんなにあるんですか?」


 一角兎の角、フェネックの毛皮、フレイムウルフの牙と毛皮。低ランクの魔物ではあるが、どれも素材が良質だった。


「今回はこれだけお願いしたい。」


 エンリヒの話し方が大人びてきた。ザックは後ろから三人をじっと見た。

 三人とも体は筋肉質になり、顔つきも引き締まった。冒険者ランクもDまで上がったと聞く。


 行商人の男はしばらくウロウロと視線を彷徨わせ、考えている様子だったが、そのうちエンリヒを正面から見た。


「まずは査定させてもらってもよろしいですか。お時間はなるべくかからないようにいたしますので。」


「俺たちはこの村にいるから、終わったら声をかけてくれればいいっすよ。」


 ビクトルの軽さは相変わらずだ。


「ビクトルさん、午前中は罠を見にいくと決めてたじゃないですか。」


 ディーの言葉に、ビクトルはちらりと舌をだした。


「あれ?そうだったっけか。じゃあ、お昼過ぎにってことで。」


 三人は後ろにいたザックを見ると、一礼して歩き去っていった。


 行商人はザックを見て笑いかけた。以前コカトリス酒を買ってくれた行商人だ。


「ザックさんも買い取りですか?」

「いや。畑に撒く種と肥料があれば買いたいんだが。去年は初めてだったんでうまく育てられなくてな。」


「種と肥料はこちらに揃えてありますよ。育てやすい野菜としては、カブやキャベツですかね。連作が気になるなら、豆もおすすめです。」


「じゃあ、豆ももらうかな。」


 おすすめを聞きながらザックが種と肥料を買い求めると、行商人はぐるりと村を見回した。


「それにしても、冬の間に随分様変わりしましたね。魔物素材も多いですし、私もここに店を構えたいくらいですよ。」


「工場が稼働し始めたら、さらに人が増えるだろうな。店を作るなら早目に村長に話をしたほうがいいと思うぞ」


「前向きに検討させてもらいますよ。ああ、そうそう。虫の魔物は肥料に良いらしいですよ。一度試して見てください。」


 村のことを教えてくれたお礼なのか、行商人は知らない情報を教えてくれた。



 行商人と別れ、ザックは一旦家に戻った。


「なあ、相棒。虫の魔物は肥料にいいらしいと聞いたんだが」


 黒い箱は青く光った。


『結論から言うと本当です。虫の魔物には微細ながら魔力があり、それが土を活性化させる元となります。魔甲虫の外殻には豊富な栄養分があり、すりつぶして畑に撒くだけで野菜の成長が促進されます。』


「それはすごいな。」


 冬、虫の魔物の姿はほとんど見られなくなる。しかし春になると、どこからともなく湧いてくる。これを放置するとものすごい大群になって畑の作物に襲いかかってくることがあるのだ。


『ちなみに虫の魔物にはワイルドボアの威圧が効きませんので、結界は全く役に立ちません。』


 実際今日も何匹か虫の魔物は見ていたから、ザックも驚かなかった。


「問題はどうやって虫の魔物を集めるかだな」


読んでくださり、ありがとうございます。

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