(21この素材で結界を作ったら大変なことになりませんか
遅くなりました
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「ほれ。届いたぞ」
そう言ってアルマルドがザックの家まで持ってきた魔物素材を見て、ザックは目を丸くした。
「エルダートレントの枝、サイクロプスの目、シルバーウルフの牙……。どれもAランク以上の魔物素材じゃないか!」
散々討伐に参加させられていたザックだから分かる。この素材を取るのがどれだけ大変なのか。どれも魔物が攻撃に使ってくる場所なので、討伐する時はまずそこを狙って壊すのだ。
そのため、この素材は宝石と同じくらいの価値を持つ。
ザックに褒められたことがわかったのか、アルマルドは胸を張る。
「わしの力があれば、これくらいすぐに集められるんじゃい」
頭の中で相棒の賞賛する声が響いた。
『素晴らしいですね。この素材で魔物よけを作ると、王宮防衛レベルの結界ができてしまいそうです。この結界を作動させれば察知され、王都から間違いなく調査が来るでしょう。』
それは困る。ザックは暖炉で燃えている火を見た。ザックが望むのは、冬の日に暖炉の前で居眠りしながら心地よく家で過ごすような、この村での平穏な生活なのだ。そんなザックの思いには全く気づかず、アルマルドは唾を飛ばして力説した。
「わしとしては、エルダートレントの枝を媒介にして結界を作り、村の中央にサイクロプスの目玉で作った魔物探知機を置いて、シルバーウルフの牙を使って近づいてきた魔物たちに威圧をかけるのがいいと思うんじゃがのう」
『……さすが、魔物素材研究家を名乗るだけのことはありますね。完璧な魔物よけ結界です』
相棒としても何も言うことはない結界のようだ。ただザックには心配があった。強すぎないか?この結界。ザックは窓の外を見た。村長たちがエンリヒ達と一緒に、集団で山へと入っていくのが見えた。魔物を捕まえるための罠を仕掛けにいくのだ。コカトリスの魔物よけを持たせてあるからおそらく危険はないはずである。そのままアルマルドに背を向けて、ザックは囁いた。
「なあ、この結界ができたら、ジャカバードの羽毛は取れるのか?」
『不可能でしょう。この結界から、魔物たちは可能な限り遠くへ逃げようとします。』
「何を独り言を言っておるのじゃ?」
相棒に話している声がアルマルドに聞こえたらしい。老人といっても耳は遠くないのかもしれない。ザックは振り向いて、説明した。
「いや、その方法だと、ジャカバードの羽毛が取れなくなって、工場が立ち行かなくなると思うんだが」
ザックの指摘に、アルマルドはうむむと腕を組んだ。
「た、確かに……。これを発動すればおそらくこちらにきた魔物は全てエビソニアへと戻っていくじゃろうな」
この結界はシルバーウルフの威圧で追い払うようにできている。そこを変えれば上手くいくのではないか、と思ったザックは自分の考えを提案してみることにした。
「シルバーウルフの牙をもう少し弱い魔物にするのはどうだろう。例えば、ワイルドボアとか。」
ワイルドボアは猪の魔物だ。縄張り意識は強く、自分の縄張りに入ってきた強い魔物に対しても向かっていく性質がある。互角の魔物にとっては、近づきたくない相手だろう。
『それは良い考えですね!ワイルドボアの縄張りに入らないよう、魔物たちも行動すると考えられます。さらに強い魔物が来た時だけ、シルバーウルフに変える方法も考えられますね!』
アルマルドもザックの提案が気に入ったようだった。
「ほうほう……魔物たちの生態まで考えた結界!さすがじゃのう。町の冒険者ギルドならワイルドボアの牙はすぐに手に入る。明日まで待て!」
アルマルドは大急ぎでザックの家から出ていった。少しでも早くこの魔物よけを完成させたいのだろう。窓の外を走っていく後ろ姿は老人ではなく少年のようにも見えた。
『村の人たちがせっかく作った罠が無駄になるところでしたね。』
「全くだ。しかし、これでこの村には魔物は来ない。成果としては十分だ。とりあえず、明日までにエルダートレントの枝を細く切っておかないとな」
『ワイルドボアの牙をエルダートレントの枝に一つずつつけておくと、群れがいるように見えて、さらに良いかも知れませんね』
「そうだな。とりあえず明日まで待とう。」
そして次の日。ワイルドボアの牙が到着した。アルマルドは狂喜しながらエルダートレントの枝にワイルドボアの牙をつけ、サイクロプスの目と繋ぐ作業を行なっていた。
ザックはその様子を暖炉の前に座りながら、のんびりと眺めていた。
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エビソニアの冬は、長く、厳しい。
そのため人々は、冬の間は王都や領都で過ごす。大きな町であれば、魔物を防ぐ結界が張られているし、食べ物にも事欠かない。遠くの村から出てきた人達は、それでも物価の高さに嘆き、爪に火を灯すような生活をしながらも、暖かな生活が送れることに感謝して過ごすのだ。
それはこの王宮でも同じだったが、王の間は冷え冷えとしていた。
「魔物の動きはどうだ。」
王の質問に諜報官は頭を下げた。
「それぞれの都市の結界は強固であり、魔物達も避けているようです。弱い魔物達は南下し、タイランへと向かっております。ただ……」
「ただ?」
「タイランにも魔物よけが設置されたようで、それ以上の南下が止まっております。なんでも魔物素材の専門家がいるようです。」
「ふん。小賢しい。」
王は忌々しげに吐き捨てた。
アイザックがいない。これはすでに国中に知られている。勇者のくせに逃げたのか、という声と、なぜ止められなかったのか、と王宮を責める声と恨みの声が溢れていた。議会もその話ばかりで話が進まない。
「春になれば、ある程度の魔物は北へと戻る。その前にタイランが魔物の数を減らしてくれれば言うことはないのだがな。……アイザックの行方は」
「未だつかめておりません。」
「まあ良い。冬の間に騎士団を鍛え、次の勇者を見つければ良いのだ。」
アイザックの代わりを見つけることは無理だろう。諜報官はそれが分かっていたが、無言を貫いた。
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