(18)綿と羽毛の完璧な配分はわかりますか
ザックは目の前にいる、手を差し出している老人をじっと見た。白髪を長く垂らし、ローブを着たこの老人は、一体何者なのだろう。
「アルマルド先生!」
ザックが対応に困っていると、シルクが飛んできた。老人は素早く手を引っ込め、何もなかった風を装った。
「アルマルド先生、ザックさんにご迷惑をおかけしていませんよね?」
シルクが目を細めて言った。
「わしは、ジャカバードの羽毛を持っているのかと聞いただけじゃ。」
「くれって言ってたよな……?」
エンリヒが思わず呟いた。その言葉を拾ったシルクの目が釣り上がった。
「この村でザックさんに迷惑をかけるなら、今すぐ帰ってもらいます!」
アルマルドと呼ばれた老人は悲しげな顔をして、項垂れる。
「ジャカバードの羽毛の使い道を研究したかっただけなのに。老い先短いわしの楽しみすら、お主は取り上げるのか……」
「泣き真似しても無駄です。」
シルクがキッパリと言うと、ザックの方を見た。
「申し訳ありません。この方は、魔物素材研究家のアルマルド先生です。研究の内容は素晴らしいんですけど、研究にかける情熱のあまり、暴走することが多いんです。ご迷惑であれば、町に戻しますので!」
むしろ今すぐ戻したいと思っているのはシルクなのではないだろうか。
「師匠に向かってひどい口の聞き方じゃ。」
悲しげに言うアルマルドの言葉に、シルクはキッパリ言い切った。
「こんな方だと知っていたら弟子入りは考え直していましたよ。」
「シルク、苦労してそうだな……」
「ああ……」
エンリヒとビクトルがコソコソと後ろで話
している声がする。
ザックは咳払いをした。性格はともかく、ジャカバードの羽毛の使い道を考えてもらえるのはありがたい。
「研究素材として欲しいのであれば……」
無料で差し上げます。そう言おうと思ったザックより早く、シルクが叫んだ。
「買い取りますから!」
とりあえず自分が使う羽毛だけは確保して、ザックは家に戻ることにした。羽毛の代金はエンリヒたちとも分けるつもりだから、とりあえずシルクが確認するまで保留にすることにした。
「ほほう。ここがお主の家かの。」
扉を開けた途端、後ろから声がかかった。アルマルドだ。ザックは驚いて振り向いた。一切気配を感じなかった。この老人、実は手練れの冒険者なのか?
「一体どうやって……」
ザックの言葉にアルマルドは胸をそらした。
「ふふん。縮地の術じゃ。どれどれ」
縮地の術、と言うのは距離を縮め、一瞬で離れた場所に行く魔法だ。
「魔法が使えるのですね」
「少しだけな」
アルマルドはそのままザックの家へと入っていった。そのままキョロキョロと辺りを見回す。
「魔物素材を使ったものを持って折るだろう?見せてくれんか?」
ザックは黙ったまま、持っていた羽毛を机の上に置いた。ザックの中の本能が、この男は危険だと告げていた。
『この男は危険です。なるべく早く追い出しましょう』
黒い箱も警戒を促している。
ザックに答える気がないとわかったアルマルドは自分で考えることにしたらしい。
「羽毛を持ち帰ったということは……布団じゃな!」
アルマルドは部屋の片隅にある布団に、一瞬で移動した。なるほどあれが縮地の術か。不覚にもザックは感心してしまった。
「おお!ジャカバードの羽毛を入れると布団がこんなに暖かく、そして軽くなるのか!」
ザックの布団に勝手に入り込んで、アルマルドはゴロゴロと転げ回っている。
「人の布団に勝手に入らないでいただけますか。」
つまみだそう。そう思ったザックがアルマルドを持ち上げようとすると、アルマルドはぎゅうっと布団にしがみついた。
「嫌じゃ嫌じゃ!わしもこの布団が欲しいんじゃ!」
「……素材研究家なのですから、ご自身で作ればよろしいでしょう。シルクに羽毛はたくさん渡しましたから。」
「おお、確かに。あれだけあれば、綿と羽毛の完璧な配分を研究することができるかもしれん。」
全部の羽毛をシルクが使わせることはないだろうが、わざわざそれを伝える必要もないので、ザックは黙っていた。アルマルドを持ち上げ、家の外にぽいと放り出す。
「それが客人に対する態度なのか?老人なんだから、もう少し労りの気持ちを持って接してくれても良かろうに。」
上目遣いでザックを見てくるが、この老人をこれ以上この家に置いておきたくない。
「私が迷惑だと言ったら、あなたは町に戻らなければならないのですよね?」
最後の切り札だ。そう告げるとアルマルドは押し黙り、すごすごと戻っていった。
せっかくなので、持ち帰った羽毛を使って、布団を改良しようとザックは思った。
「なあ、相棒。綿と羽毛の完璧な配分は分かるか?」
念のためザックは黒い箱に聞いてみる。
『これでようやく、極上布団を作る準備ができましたね。完璧な配分はズバリ、羽毛80、綿20です。現在の比率は羽毛10、綿90。羽毛がゴワゴワしないように、綿でまわりを包むようにするのがコツです。早速試してみましょう。』
さすが相棒。なんでも知っている。が、
「いやいやいや、無理だ!そんなにジャカバードの羽毛はない」
『ないのですか。残念です。先ほど回収した全ての羽毛があれば作れると思ったのですが。では少しずつ集め、この冬の間に出来上がるのを楽しみに待ちましょう。』
「それは無理じゃないかと思うんだが。」
ザックの独り言に、相棒は答えなかった。
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