(17)崖の上に戻る道はありますか?
ビクトルが上を見上げた。崖の上にはエンリヒとディーが残っている。
「どうやって合流するんですか?」
「できればロープを使って降りてきて欲しいところだが、今のままでは危険だからな。ビクトル、ジャカ酔い草を出してくれ。」
ザックの言葉にビクトルはハッとして、背中の荷物からジャカ酔い草を取り出した。ジャカバードの声がまた頭上でうるさくなってきていた。どうやら戻ってきたらしい。
「ここで焚き火をするので、薪を近くで拾ってきてくれないか。」
「分かりました!」
ビクトルが離れて、ザックが一人になったのがわかったのか、黒い箱が戻ってきた。
「帰ってきて早々だが、崖の上へ行く道があるか教えて欲しいんだが。」
箱は青白く光った。
『うまく救出できたようで何よりです。崖の上に行く道は見当たりませんでした。下流へ向かうのが一番良いと思われます。ジャカバードを討伐した後、ロープを使って上まで登る方法もありますが、どちらの方法を採用しますか?』
ザックは壁を見上げた。自分一人なら登れる自信はあるが、ビクトルの面倒を見ながらだとすると、厳しいかもしれない。
「ジャカバードの討伐後、下流に向かう。」
ロープに気づいて上の二人が降りてきてくれると助かるのだが。
「ザックさん。薪を拾ってきました。」
ビクトルが両手に薪を抱えて戻ってきた。それをもらうと、ザックは手早く薪に火をつけて、ジャカ酔い草をその上に被せる。独特のツンとした匂いが、崖の上へと昇っていく。
「ビクトル。麻袋があったら、羽毛だけむしっておいてくれ。どこの羽毛が必要なのか、知っているな?」
「もちろんです。」
ザックとビクトルはその後、落ちてくるジャカバードを次々処理していった。ついでに何羽かを血抜きして火にかけておいた。昨日から何も食べていないビクトルたちのためだ。
「ビクトルー、ザックさーん!」
上から声が聞こえてくる。崖の上から、エンリヒとディーが崖下を覗き込んでいた。ザックが手を振ると、手を振り返してきた。向こうも無事なようだ。
「降りられるか?」
ザックが叫びながらロープを軽く揺すると、二人はロープの存在に気づいた。相談しながら、こちらに背中を向け、ロープにしがみつき始めた。
「ビクトル。ロープで降りる練習はしたことがあるのか?」
「一度だけギルドで練習しました。」
「そうか。」
やっていないよりはマシだが、下まで安全に降りられるだろうか。
念のため、ロープの真下に行って様子を見届ける。先に降りてきたのはエンリヒだった。途中でロープが動いてしまい動揺していたが、そのまま下まで降りてきた。ディーはロープの揺れで思わず手を離してしまう。そのまま空中へと放り出された。
「ディー!」
ビクトルの悲鳴が聞こえた。ザックはビクトルの立っている場所を素早く確認した。ディーがおそらくあそこから3歩ほど前に落ちる。ザックはビクトルを素早くドンと押した。
「え?え?」
押されて3歩分動いたビクトルが、何が起きたかわからないという顔をしている。
「ディーを受け止めろ!」
ザックの声で、慌ててビクトルは足を踏ん張り手を伸ばした。ディーは一番小柄だ。勢いがついていたので、ビクトルは支えきれず尻餅をついたが、ディーは無事だ。ザックはほっと胸を撫で下ろした。
「ディー、大丈夫か?」
先に降りていたエンリヒが駆け寄る。
「だ、大丈夫です。ビクトルさんは?」
「俺もなんとか大丈夫だ。」
三人は顔を見合わせてへにゃっと笑い、抱き合った。
「良かった……。もうだめかと思ったよ。」
「ごめん、俺がうっかり崖下を覗き込んだから」
「三人とも助かったんだから、いいってことにしよう?」
ザックはそれを見ながら、ジャカバードの焼き鳥を火から下ろした。そろそろ食べごろだ。
「そろそろ食事にしないか?」
ザックが声をかけると、三人の腹の虫が、一斉に鳴き出した。顔を赤くした三人が声を揃える。
「いただきます!」
「……ザックさんは俺たちを探しにきてくれたんですか?」
エンリヒが焼き鳥にかぶりつきながら、尋ねてくる。
「いや、木を切りに来たら、たまたまディーに会っただけだよ。まあ、今日はやめておくが。」
麻袋いっぱいになった羽毛もある。シルクに売り払うにしろ、多少は自分が貰っても問題ないはずだ。
「食べ終わったら、村に戻るぞ。川沿いに歩いていけば、森に戻れるはずだからな。」
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麻袋を両手で抱えて、ザックが前を歩いていく。その後ろをエンリヒたちは歩いていた。
「やっぱりザックさんってすごい人だね。」
ディーがつぶやく。
「ああ。魔物が怖くて引退したなんて、嘘にしか思えない。おそらく何かあったんだろうな。」
ディーを助けるためにビクトルを押すザックの姿をエンリヒは見ていた。あの身のこなしはただの村人ではない。今まで見てきた冒険者とも違う。
「今回のことは、ギルドに報告しないことにしよう。いいな?」
エンリヒがビクトルを睨みつける。この前のコカトリスもビクトルがうっかり喋ってしまったのだ。ビクトルはオドオドしながら頷いた。
「わ、分かったよ。内緒にする。」
そんな会話が後ろでされていることにザックは気づいていなかった。
(この羽毛をさらに布団に入れたらどうなるだろうか)
そんな妄想で頭がいっぱいだったのだ。
ザックたちが村にたどり着くと、鼻息荒く寄ってくる一人の老人がいた。
ザックの持っている麻袋に目を止めると、ギラギラとした目を向けてきた。
「それはジャカバードの羽毛じゃな?」
「はあ。」
ザックが頷くと、老人は両手を広げてみせた。
「わしにくれ!」
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