(14) ジャカバードの羽毛が売れそうなんですが、どうしたらいいですか?
数日後、ザックは新しい布団の暖かさを寝台の中で噛み締めていた。
試しに羽毛を少量入れてみたところ、冷たくて重く感じられていた布団が軽く柔らかくなった。寒くて目が覚めることも増えてきた時期だったが、気づけば朝。しかもすっきりと目覚められる。
「すごいな、この布団」
勇者をやってきた時は、冷たい土の上で寝ることもあった。それと比べたら、ここは天国だ。
布団の暖かさから逃れられず、ザックがゴロゴロとしていると、扉が叩かれた。
「ザックさん、いらっしゃいますか?シルクです。」
どうやら報告をして戻ってきたようだ。ザックは後ろ髪を引かれるような気持ちになりながら、布団を出て扉を開けた。
そこに立っていたのは、シルク一人だった。急いできたのか、頬が紅潮している。
「シルク一人なのか?」
エンリヒたちは一緒に帰ってこなかったのだろうか。
「これを見せたくて私だけ先に戻ってきました。ザックさんにいただいた羽毛、すごいです!」
そういうと、シルクは皮の手袋を出した。
「試してみてください!」
言われるがままに、ザックはその手袋をはめた。しばらくすると、指の先が暖かくなってきた。この暖かさには覚えがある。さっきまで入っていた布団の温もりと一緒だ。
「まさか、手袋にジャカバードの羽毛を使ったのか?」
「はい!甲の部分に羽毛を入れ、魔道回路で繋いだら、こんなに暖かくなりました。冬でも手がかじかみません!」
これは売れる。ザックは確信した。冬の討伐では、手袋をしても指先が凍るように冷たくなることがあった。綿の入った手袋では剣を握る力の入れ具合が変わってしまう。指先を切り落とした手袋を使っている冒険者もいたが、一歩間違えれば凍傷で指が落ちるのだ。
「いい商品だ。よく思いついたな。」
ザックが褒めると、シルクは嬉しそうにはにかんだ。
「私が冒険者になったのは、魔物の素材について知りたかったからなんです。」
最近研究者が魔物素材の活用方法についての論文をだし、タイランの王都で評判になっているらしい。シルクはその研究者に弟子入りするため、魔物素材の道具を作ろうと冒険者になったそうだ。
「この手袋で認めていただけました!」
シルクが嬉しそうに笑った。
確かにエビソニアでも、ジャカバードの羽毛の使い道について聞いたことはなかった。コカトリス酒もそうだ。
「この手袋はどうするんだ?シルクが作って売るのか?」
「ザックさんに教えてもらってできた手袋です。なのでザックさんに許可をいただきにきました。」
シルクはそういうと頭を下げた。
「どうか、この手袋を売らせてください!あと、冒険者ギルドにジャカバードの捕まえ方を伝えさせてください。そしたらタイランの冒険者もジャカバードを捕まえてくれるようになるはずです。その代わり、面倒な手続きは私が代わりに全部しますので。」
エビソニアでは初級冒険者でも知っている捕獲方法だ。タイランで教えてはならないということはないはずだ。
「好きにするといい。」
そう言った途端、頭の中で相棒の言葉が響き渡った。
『魔物素材の商品化ができたのですね。おめでとうございます。ただ、これからのセカンドライフを平穏なものにするために、一つだけ条件をつけておきましょう。それは……』
最後まで聞くと、ザックは口を開いた。
「一つだけ条件がある。私の名前だけは絶対に出さないと誓ってくれ。」
「え?いいんですか?」
「ああ。私はここでの平穏な暮らしが気に入っているんだ。面倒な手続きは代わってくれるんだろう?」
シルクはしばらく考えた後、頷いた。
「わかりました。では、私が表に立って面倒事は引き受けるようにします。その代わり何かあったらご連絡します。」
「この冬はここで過ごすんだろう?」
「はい。一度ギルドで話をまとめてきます。その後でまたお話しさせてください。」
ザックの言葉に、シルクは何度も頭を下げ、戻っていった。
______________________
エビソニアの王宮の一室。赤毛の赤ん坊をエレナ王女が優しい顔であやしていた。その横には侍女が一人。全ての事情を知っているこの侍女以外、エレナ王女の周りからは排除されていた。
「どうしてお前のお父様は戻ってこないのかしらねえ。」
「…突然父になったと言われて、衝撃を受けない夫はいないかと。」
侍女の言葉にエレナ王女は優雅に首を傾げた。
「どうして?アイザックの子どもがいないと王族として認めるわけにはいかないと議会が決めたのでしょう?だから作ってあげたのに。ねえ?」
エレナ王女の部屋には大きなアイザックの肖像画が飾られていた。エレナ王女はそれをうっとりと眺めた。
「アイザック様のためでしたら、私はなんでもいたしますわ。この子もあなたの後を継げるよう、勇者として厳しく育てます。それがあなたへの愛ですもの。」
それを愛だと受け取れる人は、果たしてこの世界にいるのだろうか。侍女はそう思ったが沈黙を保った。それを言った途端、自分の命も危うくなることを知っているからだった。
読んでくださり、ありがとうございます。
「続きが気になる」「面白い」「早く読みたい」など思われましたら、下記にあるブックマーク登録・レビュー・評価(広告の下にある☆☆☆☆☆→★★★★★)、リアクションなどしていただけると嬉しいです。




