1章 羽拾い 7-好きな物
翌朝起きると、まだデイジーは寝ていた。
起こさぬよう、そっと起きて身支度を済ませる。
金の髪を結いあげ、化粧と貴族対面用の一張羅へ着替える。
持ち物を確認し、最後に置き手紙で帰りは夕方になると伝え、忍足で部屋を出た。
朝の空気は好きだ。
冷たさの中に草木の香りが混ざっている。
朝露の残る時間はまだ商売をするには早過ぎるので、こんな時間から開けている粋興な店で朝食と飲み物を買い
ぶらぶらと祭りの装飾を眺めながらゆっくりと歩く。
「まだ飾り付けが終わってないのね。」
いつもは準備期間に来ることがないため、祭りが出来上がっていく途中の街並みは新鮮に感じる。
「少し多すぎたかしら」
いつもよりも背中のカゴが重たい。
よく売れる時期に、良く仕入れができたので
目一杯に持ってきてしまった。
歩くのが遅い原因は、怪我だけでは無かったのかもしれない。
「頑張って売らなくっちゃ」
グッと背筋を伸ばし
貴族街へ向かった。
町並みが変わり、並ぶ店や家が豪華になると、門の上に虹色の宝石をつけた扉が見られるようになる。
その扉をいくつか素通りし、
見覚えのあるコーネと書かれた扉の前で止まる。
コンコン
「羽はいりませんか?」
と高く優しい声。
「あら、羽売りさんお久しぶり。そろそろくる頃だと思ったわ。待っていたの。入ってちょうだい」
「ありがとうございますスライさん」
スライはにこやかに羽売りを家へ招き入れた。
案内され応接間への廊下を歩いていると
スライはふと気づいたように振り返る。
「あっ ごめんなさい足を怪我していたのね!ええと、ちょっとここまで待っていて」
そう言って慌てて小走りで近くの扉へ入ると
数十秒バタバタと中から音が聞こえた後
また扉から出てきた。
「今日は近いこちらの部屋でお願いいたします。ごめんなさい気づくのが遅れてしまって」
「いいえ、とんでもないです!お気遣いいただきありがとうございます。」
そう言って入った部屋は過度なほどに装飾品で溢れていた。
埋もれんばかりの装飾品の量が、おそらく何かの法則通りに並べられ、これでもかと輝きを放っている。
その部屋の中央に、大きな机と椅子、そして屋敷の主人が座っていた。
「やあテイラ、おはよう。」
「おはようございますコーネさま。今年も祭典が開かれることをお喜び申し上げます。」
「ありがとう。貴殿の益々の豊穣を願う。さて、すまないね仕事部屋で。」
「お仕事の部屋だったのですね。とても…すごいですね」
「はっはっは!これは全部魔道具だよ。知っての通り僕は魔法貴族だからね。
最新の魔法技術の研究こそがメインの仕事だよ。」
「こんなに凄いとは知りませんでした」
「世界中の珍しい魔法を集めているが、こんなにあってもほんの一部さ。
世界には僕の知らないもので溢れている。
きっと、まだ皆んなの役にたつ魔法が眠っているはずさ。
それを僕は見つけたいんだ。」
そう語るコーネの目は輝いていた。
心から好きな物を語る人の目だ。
「素敵ですね」
「ありがとう。君の仕事も、代え難い尊い物だ。いつもありがとう」
私はそう話しながら、いつもの販売用に取りまとめた羽束を並べ
最後に出来の良かった美しい羽を取り出した。
「ご注文くださった特注品をお持ちいたしました。」
「おお、これは見事だ。大きさと鮮やかさが段違いだね。」
「幸運でございました」
「ああ、満足だ。これと、この袋を8ついただこう。」
「8つも!?ありがとうございます。」
「ああ。今年の冬は…そうか君は農家じゃないから知らないんだね。」
屋敷の主人は少し曇らせた表情で、私に語り始めた。




