1章 羽拾い 4-喰らう者
秋の日
だいぶ涼しくなった風が、頬をなでる。
遠くの木々が、少しずつ色を変え始めている。
そろそろ羽の数が良くなってきた。
街へ売りにいく頃合いだ。
順調に仕事が進み、収穫祭の前に沢山の羽ができた。
頼まれていた高品質の羽も確保でき、
3日後、いや、2日後には行ってしまおうかと心を弾ませながら、
カゴに肉を詰める。
お供えの日だ。
お供えの日は古鳥たちが暴れるので多くの羽が落ち、
必然的に品質の良いものがよく揃う。
今確保しているものよりも、もっと良い羽を得られるかもしれない。
祭りの前にもうひと仕入れしておこう。
私はささっと準備を終え、大量収穫を目指して
まだ薄暗い早朝の中、森を歩き出した。
父が言っていた。
「古鳥はどんな時も人を狙う。それが1番幸せな時でも、不幸な時でも関係ない。」
私はその言葉を深く理解する事になった。
森の中を歩く。
早朝の森はいっそう暗い。まだ夜かのようだ。
背中にはカゴ。
その中には袋があり
その口が少し空いていた。
ギャー!ギャー! と古鳥の声が聞こえる
「今日は活発な日なのかな。。繁殖期ど真ん中だものね。早く帰ろう。」
足早に祠へと足を進める。
「痛っ」
注意力が足りなかったのか、枝で腕を怪我してしまった。
大きくはない怪我から、血がにじむ。
ギャー!ギャー!
古鳥の声が大きく聞こえる。
一呼吸置いてから、ハッと表情を変える。
古鳥が妙に騒いでいるのは...血の匂い?
慌てて籠を下ろして袋をつかむと、血が滴り落ちてきた
「まずい!」
バッと顔を上げ木々の隙間から覗く上空を睨むと
古鳥が数匹旋回して飛んでいるのが見えた
いつ襲われてもおかしくない。
「逃げなきゃ!」
肉を囮にしようと、袋を完全に解き道にばら撒く。
ギャー!ギャー!
声が一層大きくなり背筋が凍る
躊躇している余裕はない。
古鳥にとっては私もこれと同じ肉なのだ。
すぐに道を引き返し走り出す。
ほんの数秒後
先ほどまで持っていた肉に古鳥が食らいついた。
生きた心地がしないまま走り続ける。
後ろから声がする。
後ろから声がする。
後ろから声がする。
消えない。遠ざからない。
付 い て き て い る。
走馬灯のように父の顔が浮かんだ。
父は、お供えにいった後、帰ってこなくなったのだ。
父は街に行った帰り、転倒して怪我をしていた。
怪我をしたまま翌日お供えにいったのだ。
いつもなら母が代わりをしたが、その日母は流行病にかかり床に伏していた。
母は「行かなくて良い、数日くらい遅くなってもいいじゃないか」
と止めたが
父は「古鳥が腹を空かせたら、ここまできて襲われるかもしれない。ならば行ってきた方がみんな安全だよ。なに、骨が折れているわけでもない。走ることには差し障りないさ」
そう言って帰ってこなかった。
泣きはらす私と弟に、母は生活を支えようと無理をした。
治りきっていない流行病を隠して仕事をし、そして倒れた。
同時期に弟も病にかかった。
私は無力だった。
誰もいなくなった家で一人で生きていくしかなかった。
父のノートを見て、父との記憶をたどり家業を継いだが
すべてを受け継ぐことはできていない。
古鳥がこんなにも血のにおいに敏感であることを
理解しきれていなかった。
「はあ、はあ、あっ!!」
小石につまずき転倒した。
「うぅっ」
痛みを考えている余裕はない。
すぐに立ち上がるが、足が思うように動かない。
辺りを見渡し身を隠せそうな場所を探すと
大きな岩の間に人一人が入れそうな隙間があった。
籠を手放し、足を引きずりながら身を隠す。
バサバサと古鳥が小道に降り立つのが見えた。
匂いを探るように地面を嗅いでいる。
せめて何か無いかと暗い地面を手探りで探す。
何か固いものがあたり、握って持ち上げると
見覚えのあるナイフだった。
「これ...お父さんの...」
いつも父が腰に下げていたナイフだった。
ギャー!
古鳥がこちらを向いた。
「お父さん...」
震える手で鞘から刃を抜く。
刃を向けしっかりと両手で握りしめる。
ゆっくりと近づいてくる古鳥は
いつも遠くで眺めていた時と違ってひどく大きく見えた。
やるしかない。
ぐっと奥歯を噛みしめ覚悟を決めた瞬間
目の前に何かが横切る
ギャー!ギャー!
ギャーー!
大きくて鮮やかな古鳥が、先ほどまでこちらを睨んでいた古鳥を襲っていた。
目の前で暴れる2羽の古鳥に圧倒されながら
いつこちらに敵意が向くかもわからない緊張に見舞われる。
暴れ回った後、大きく鮮やかな古鳥は
もう一方を足で押さえつけた。
地面に押さえつけられおとなしくなった古鳥と、
そいつに気を取られて背を向けている大きな古鳥。
今しかない。
私はナイフを振り上げ
大きな古鳥の背中を突き刺した。
ギャーー!と大きく一声鳴くと
刺し所が当たったのか
ぐったりと倒れ込んだ。
私はもう1羽を見下ろす。
するとバサバサと焦ったように飛び立ち
木々の間に消えていった




