2章 魔法 9-平和な日
私は工房を後にした。
その背中を見ながらミリアは兄の脇腹を小さく殴る。
「…やめろ。」
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私は2人分の昼食を買い、デイジーの様子を見に宿へと戻ることにした。
「ただいまー…」
起こさないようそっと扉を開けると、
デイジーは眠ってこそいないが、青い顔で横になっていた。
「お昼ご飯を買ってきましたが、食べれそうですか?名物の岩石焼きだそうです。」
「ん…お腹空いてない…」
消え入りそうな声だ。
「ではこちらだけでも飲んでください。野菜など色々入ってるスープです」
「ありがとう…なんだか慣れているわね」
「父もお酒は好きでしたから。まあ、デイジーさんほど豪快ではなかったですけれどね。」
2人で静かに食べていると、デイジーがふと顔を上げる。
「あら?ピアス、新しいの買ったの?」
「あ、いえ、これは頂いたんです。壊れちゃっていたようで、直してもらっています。」
特に驚きもせず、「ふーん」と軽く流された後、
午後の予定を確認するが
デイジーはもう少し寝たいとの事。
代わりに私に羽を買ってきて欲しいらしく、
「羽売りなら目利きも出来るし任せちゃう」
との事で、財布を預けられてしまった。
「いらっしゃい!いらっしゃい!」
商店街へ着くと活気にあふれていた。
流れる人混みに沿うように、気ままに歩いてみる。
こうやって忙しい目的もなく、ぶらぶらと街を歩くのは、仕事と生きることに追われて居た自分には久しい感覚だった。
自然と、いつもとは違うところに目がいく。
笑い合う親子。仕込みに追われる厨房。看板を拭いている店員。
お釣りを財布に仕舞うなんでもない人の姿さえ、
いつもとは違って見えた。
「よし」
と意気込み、見つけた小さな羽売り屋の扉を開く。
カランカランとドアベルが鳴る。
少し薄暗い店内。木材で統一された古風な内装。
壁一面に設置された棚には等間隔に羽根が飾られ、微細な光の反射で高級感を演出していた。
「いらっしゃいませ。どんなのをお探しで?」
一番奥のカウンターに、白髪混じりの初老が座ってる。
しゃんと背筋を張り、自分を気高く見せて言う。
「中級程度の品を見せていただきたいです。日常使いです。」
「はい。中級ですね。こちらのあたりになります。」
カウンターの上に3枚の羽が置かれた。
手に取ると、防腐液の色合いとしなりがそれぞれ違う。この3枚は作者が違うのだろう。
「…こちらはいくらですか?」
一つを手に取り、値段を聞いた。
「それならひと袋金5だ。」
「わかりました。ありがとうございました。」
礼をしドアへ向かう。アレにその値段の価値はない。
「ま!まて!いや待ってください!間違えました金4です!」
「ありがとうございました。」
「金3で!これ以上は厳しいです!」
「…」
再度羽を見つめる。
「…ひと袋12枚で金3ですね?」
「え?10枚…」
「失礼します。」
「ひと袋12枚入りです!」
「買います。」
店主が商品を取り出し、渡した金を数える。
「まったく…君は誰なんだい?魔法使いではなさそうだと思ったのに。」
「それは運が悪かったですね。制作側の人間です。」
「はあ…なるほどね。勝てないわけだ。」
「ふふ。まあ貴族に憧れる民間人なら、金5枚取れたかもですね。」
「本当だよ。ああ見誤った。はいこれ。」
「ありがとうございました。」
商品を受け取り扉から出るとドスっと人にぶつかり尻餅をついた。
「わっ ごめんなさい!」
「ごめんなさい!」
同時に謝る。
「いてて…あれ?ミリアさん?」
ぶつかったのはニケルの妹のミリアだった。
「あっテイラさん!?すみません大丈夫でしたか?」
「ええ。飛び出してしまってごめんなさい。」
ミリアは重たそうな袋を持っている。
「お買い物ですか?」
「ええ。お父ちゃんが全然回復してくれなくて…仕方ないので効きそうなものを集めていました。」
幼い頃の自分と父を重ねて少し笑う。
「何を買ったかみてもいいかしら?」
「は、はい。」
中を見てみると、フルーツと野菜が入っていた。
「うん悪くないと思う。塩と水分も大事だから、野菜とお肉でスープにするといいと思うわ。」
「!! ありがとうございます!そうしてみます! うーーんしょっと」
ミリアは小さな体で袋を抱え直したが、重た過ぎるようでよろけている。
「よければ運ぶのを手伝わせてくれるかしら。実は果物のお店がわからなくて困っていたの。ついでに教えてくれると嬉しいのだけれど。」
「はい!それならわかります!」
少しだけ嘘をつき、果物を買う予定だったことにした。
ミリアは荷物を渡すと、嬉しそうに小走りで案内してくれた。
(妹がいたらこんな感じだったのかしら)
なんて想像してみる。
果物をいくつか見繕ってもらい、そのまま鍛冶屋まで送った。
「荷物を持っていただきありがとうございました!よければ食べて行かれますか?」
「ありがとう。でも待っている人がいるから帰らせてもらうわ。お話しできて楽しかった。またね。」
そう言って別れ、宿へと戻る。
お呼ばれは嬉しかったが、実は道中少し頭痛がすることに気づいたのだ。
とても楽しい時間だったが、疲れがでて風邪になりかけているのかもしれない。
今日は早く寝て回復に努めよう。
その夜はデイジーと簡単に食事を済ませ、ズキズキとする頭を感じながら早々にベッドに潜った。




