2章 魔法 6-リプセンの街
「んう…いたたた…」
気づけば朝になっていた。テントの中の見覚えのない景色で目が醒める。
横ではデイジーがスヤスヤとまだ寝ている。
頭を起こすと頭痛がした。
「寝違えちゃったかな…いたあ…」
怪我のある後頭部には触らないように首を手に当て、ゆっくりと回してから伸びをした。
テントから出ると朝の爽やかな澄んだ空気が肺に入る。
空からは近く見えた街が、遠くに見えた。
「よし」
朝ごはんの準備だ。
野草をいくつか摘み取り、鍋に入れていく。
昨日の消し炭をかき、新しく木をくべて火の粉を降らす。湿気る朝は火が付きにくい。
悪戦苦闘しているとデイジーが起きてきた。
「おはよ〜」
「おはようございます。ごめんなさい。まだ朝食を作るための火が起こせていなくて」
「あら、私に頼ってちょうだいな。」
そう言うとデイジーは羽を構え手を伸ばした。
目を瞑って真剣な表情をすると
ゴォーーーと風と音がし始め
雑音の中で微かにデイジーが何か呪文を唱えているのがわかる。
何秒間かそれが続くと、ふわっと風が急に止まる。
「もうつくわよ」
「え、はい。」
カンカンと石を打つと、落ちた火の粉はあっという間に枝に燃え移っていった。
「湿気を飛ばしたの。よく乾燥させたから、これで燃えやすいはず。魔法で火を出すこともできるんだけど、つけた木が湿気っていたらまた消えちゃうのよね。火を出し続けると魔力を消費しちゃうし、湿気を飛ばすのが一番かな。」
「なるほど!…って、私には根気しかないんですけどね…」
「あっはっは テイラもちょっとくらい魔法使えるかしらねえ〜時間ある時に試してみようか。」
「試せるのですか?」
「初めてやると寝込む人が多いから、落ち着いている時にね。」
「な、なるほど。ちょっと怖いですね」
「そうね。ひどい筋肉痛みたいになると思っていいわ。」
続けてデイジーは悪巧みをするような顔で言う。
「しかも、魔法使いじゃない人が魔法使ってるのがバレると、下手すりゃ捕まるのよ。うふふ。だから場所は選んでね。」
「ひい」
ウインクして見せたデイジーだが、言ってることはだいぶ不穏だ。
朝食を終え片付けをする。
ついでにテントの畳み方を見せてもらい驚く。
外からは人一人分がやっとの小さなテントに見えるが、中身は大人3人でも寝れそうな空間に感じる。
「これも魔力を?」
「ええそうね。魔力はいつ必要になるかわからないから、温存する意味では昨日のように泊まれるところがあるほうがベストだけどね」
「便利だけど闇雲に使うわけにはいかないのですね」
「そうそう。よくわかってるわね。」
いいこいいこ と頭を撫でられる。
「さ、準備も整ったし、リプセンの街へ行くわよー!美味しいお酒あるかしらー!」
「えーお酒ですかぁ?」
----------------------
「旅の方ですね。宿泊先は決まっていますか?」
リプセンの街の門番が聞いてきた。
「いえ、偶然立ち寄っただけですのでこれから探す予定です。」
「そうでしたか。それなら街の中心は避けた方がいいでしょう。おそらくその辺りは3日後の祭りに合わせて宿が埋まっていると思いますので、少しずらした南のあたりがおすすめです。」
「ご丁寧にありがとうございます」
「いえ、それでは楽しんで。」
門をくぐると舗装された道が真っ直ぐに伸びていた。
両脇に並ぶ家々は看板に彫金が施され、鈍い輝きでその店が何たるかを示している。
真っ直ぐに進むと広場があった。
中央には台が設置され、建物の屋根から屋根へといくつもの紐が括られている。紐には色とりどりの布と、何かの道具を模った金属の飾りが付けられていた。
その広場を南に抜けると、だんだんと少し落ち着いた下町の風景が見えてくる。
宿の看板を見つけたデイジーが値段を聞きに店に入り、首を振りながら出てきた。
「まだ高いわ。もう少し歩いて中心部から離れましょう」
いくらか歩くうちに飾り付けられた街並みは質素なものに変わり、チラホラと工房の様な建物が増えてきた。
また、宿の文字を見つけデイジーは中へ値段を聞きに行く。
少しして扉を半開きにしたデイジーはこちらへ向かって手招きをした。
中へ入ると、そこは質素な宿屋だった。
鍵を受け取り案内された部屋は、ベッドが2つ並ぶだけの質素でわかりやすい部屋。
荷物を置き整理を始めようとする横で、デイジーは待ってましたとばかりに店主に酒場の場所を聞いていた。
「少しシャワーを浴びたら行きましょ!」
と嬉しそうに誘ってくる。
「わ、私は飲めないですし。」
「なーに!新しい街での情報収集は酒場が基本よ!!さぁー!」
旅の疲れなど無いかの様に、背中をぐいぐい押されてシャワールームへ押し込まれ
私は渋々服を脱いだ。
数日ぶりのシャワーはとても気持ちよかった。
「旅って疲れるんだな…」
まだ治らない体の傷たちを眺めながら思いふける。
私は整理しきれていない心のまま部屋へと戻った。
扉を開けるとデイジーは待ってましたとばかりにこちらを見て急かしてきた。
不思議とデイジーから石鹸の香りがする。
「デイジーさんいい香りですね?」
「あっわかった?これこれ〜シャワーした感じになれる香水型の魔法なのー!」
「それって洗えるのですか?」
「ん?ううん。雰囲気だけ。……え?ちょっえっやめて背中押さないでっ髪を乾かすのがめんどくさいのよっっあ〜〜〜〜ん」
私は問答無用でデイジーをシャワールームへ押し込んだ。




