2章 魔法 5-野営
小さな山をいくつか越えた頃、遠くに街が見えてきた。
沈みかけの太陽が長い影を作り、地面の凹凸を強調している。
キラキラと黄色く輝く秋の草原の真ん中にある雑木林の側に二人はそっと降り立った。
「もう近いから宿で休みたいと思うけれど、ごめんなさい。今日はまた野宿して明日街へ入りましょう。魔力の残りを考えると街の状況がわからない中で入るのは避けたいわ。」
「わかりました。ではお夕食の準備を致します。」
各々が野宿の準備を始める。
就寝環境はデイジーにお願いし、私は夕食のために乾いた焚き木を集めた。
両手いっぱいの枝を抱えながら顔に刺さらぬようのけぞり気味で歩き戻ると、デイジーはコンパクトなテントから伸びる紐を木に結んでいるところだった。
それを横目に今度は大きめの石を集めかまどをこしらえ、山の形に枝を盛る。
枯れ草をその中央へ詰め火花を散らすと、その小さな灯りを消さぬよう小さく息を吹きかける。
髪をたくし上げ次第に強く吹いてゆき、煙の量が増える頃 ぼう と音を立てて火が吹き上がった。
少し焦げた前髪を気にしつつ調理へ入る。
燻製肉は自分用に串を打ち、もう一つソーセージにも串を打つ。
鍋にいくらかの穀物と、木の実とハムを割り入れ水とともに火にかける。
そこに固形の調味料を削り入れるとようやく一息つく。
顔を上げるとデイジーはテントに上半身を突っ込み、下半身だけがこちらを向いてもぞもぞと動いている。
私は鞄から羽を詰めた袋を取り出し、整理を始めた。
通常と思わしき束、血の付いた束、形の崩れた粗悪品の束の3つにより分け、血の付いた束は固く結んで鞄の底に仕舞い込んだ。
通常の羽はデイジーに渡すとして、形の崩れたものは捨ててしまうべきか迷っていると、一通り準備を終えたデイジーがトコトコと歩いてきた。
「設営ありがとうございます。お夕飯もう少しだけかかります。
羽の整理をしましたので、こちらの羽お渡ししますね。」
そう言って、通常の商品として売れる程度に整った羽の束を渡す。
「ありがとう。もらっていたこっちの羽は返すわね。そっちの束は?」
「これは通常捨ててしまう物になります。このまま捨てようか迷っていたのですが、一応確認しようと思いまして。少し試してみますか?」
「ええそうね」
デイジーは1枚折れて欠けた羽を摘まむと
「ブルラ」
と唱えた。
羽はパチンと小さく音を立て、はじける様に散った。
「だめね、効果も小さいしちゃんと魔力が通らない。捨ててしまって問題ないと思うわ。」
「わかりました。」
私は粗悪品の束を持って立ち上がり高く掲げた。
羽はふわりと吹いた風に巻き上がり、輝き始めた星空へと溶けてゆく。
陽の最後の灯火が落ちる頃、鍋はぐつぐつと煮え立ち食べ頃となっていた。
二人分を器へよそい、
「「いただきます。」」
と声をそろえる。
ふうと吹きかけると湯気が舞い上がり食欲を誘う香りが鼻を抜けた。
「美味しいわ。お料理上手ね。」
「ありがとうございます。母の手伝いをしていた甲斐があって、一人暮らしになっても料理は苦労しませんでした。」
笑って見せたが、デイジーは少しだけ悲しそうな顔で見つめてきた。
居心地悪くポリポリと頭を掻きながらごまかし言葉を続ける。
「確かに生活は大変でしたが、街の人たちはとても良くしてくれていたんです。お得意様はまだ未熟者の私の羽を先代の頃と同じように買い付けてくださったし、生活に困っていないか見に来てくれる方もいて、無理に孤児として協会へ入れるのではなく面倒を見てくれていたんです。今回の様な事は本来みんなも望んでいなかったはずで、みんなが必死に守りたい物を守っただけです。誰も悪くなんてないです。」
デイジーは何も言わないまま頭を撫でてくれた。
私は話題を変えてみる。
「野営って初めてしました。テントを張るのは大変ですか?私にも覚えられますか?」
「そうね、今日のテントも魔法を使う物だから同じ物は難しいけれど、似たようなものはよく見かけるからそれなら出来ると思うわ。」
「よかった。今度は私にも手伝わせてください。」
「そうね。一つ一つ覚えて行きましょうね。」
やっとデイジーは優しい顔で笑ってくれた。
私は安心した気持ちでまた夕飯を食べ進めた。
片付けが終わり、冷たい地面に座りながら白湯を飲んで空を見上げると
満天の星空と煌々と輝く月が地表を照らす明るい夜であった。
「寒くない?」
「はい。平気です。」
デイジーを見ると羽を掲げている。そしてゆっくりと美しい声で歌った。
「光よ 灯火よ 願い届け 聞き届け」
歌とともに羽は先端からゆっくりと輝く粉となり空に溶けていく。
「故郷の子守歌なの。子どもの幸せを願う歌。」
「もうすぐ17になりますよ。子どもじゃありません。」
「うふふ、私より子どもなら良いのよ。そして17歳になるのね。お誕生日はいつ?」
「11月です。」
「覚えておくわ。どんなケーキが好き?それとも豪華なお肉?」
「……その…一緒に…一日一緒に遊んでほしいです。」
「…もちろんいいわ。沢山遊びましょ。」
そっと抱きしめて頭を撫でてくれる。
だんだんとデイジーの香りに安心を覚えて行くのがわかった。
少し目を瞑って心地よさを感じる。
少しだけこのまま…目を瞑ったまま…少し…だけ……………
「寝ちゃった?」




