1章 羽拾い 2-古鳥
「ただいまぁ」
返事のない空間に、彼女の荷物を置く音だけが響いた。
草原の真ん中にポツンとある
一見納屋のようなレンガ造りのその家に、彼女は1人で住んでいた。
(食事は・・もういいや。疲れた。寝てしまおう)
髪を解き、手際よくシャワーを済ませると、さっさと毛布にくるまった。
そして夢を見る。
昔の夢。
彼女がまだ両親と弟みんなで羽根拾いをして生活していた、あの頃の夢。
目を覚ますと朝だった。
少し涙の跡を頬に感じる。
「この時期になると、毎回・・・ダメね」
自傷するように笑い
ベッドから降りた。
顔を洗い、髪を結い上げた彼女は、大きな籠を取り出し背負った。
貴族街に行った昨日の籠とは違い、薄汚れているが丈夫な造りの籠。
その中には袋が詰められており
袋の中には、歩くたびにモッチャモッチャと音を立てている生肉が入っていた。
こぼれないよう袋の口はしっかり結ばれて、二重になった袋は匂いすら漏らさない。
彼女はいつもの草原へ着くと、さらにそこを突っ切り
森の奥へと入っていく。
ギャーという甲高い鳥の声が、森に響いていた。
昼間でも薄暗くひんやりとした森の小道を
しばらく進むと小さな祠が見えてくる。
彼女は祠の前に持ってきた肉を袋のまま並べていく。
静かに手を合わせ
「いつもありがとうございます。これからも、よろしくお願いします。」
そう言うと、袋の口を緩めた。
彼女は袋の底をぐっと掴み、来た道を突然走りだす。
彼女の走った後ろにベチャリと肉の落ちる音がする。
血の滴る袋を乱暴に振り回しながら
振り返らず森を全力で走る。
ギャー!ギャー!
すぐ後ろで鳥の声と、暴れているようなバサバサという音がする
「はぁ はぁ はっ はぁ」
道の悪い森の小道を何度も足をもつれさせながら走り続ける。
持った袋からまだ少し残っていた肉片がボロボロとこぼれ落ち
道を汚す。
鳥の声が少し遠のきはじめ、
苦しくて息も持たなくなる頃、急に目の前が開け
草原へと出た。
「-----っ はぁ! はぁ はぁ」
彼女は草原に倒れ込む。
肺を大きく膨らませて呼吸を整え、落ち着いてから汗を拭う。
涼しい草原の風が彼女を癒す。
握りしめた袋の中身は無くなっていた。
休憩もほどほどに、疲労した体をグッと起こすと
彼女はまた歩き出した。
するとすぐ後ろ、森の中から
高い鳴き声が聞こえてきた。
振り返り森を見る彼女の目は怯えていた。
そこには森の上空で滑空する鮮やかな大型の鳥たちが
餌を取り合い暴れていた。
そうしてしばらく暴れる鳥からこぼれ落ちた羽根を
風が草原へと運んだ。




