1章 羽拾い 1-羽売りの少女
少女というには少し大人びた顔立ちの、16歳の女が
羽拾いの仕事をしていた。
彼女は柔らかな風の吹く平原の中に立ち、母親譲りの美しい金の髪をなびかせ仕事をしていた。
地面へ手を伸ばす姿は、遠目では花を摘み取っているかのように見えるが
彼女の手にあるのは大きく鮮やかな鳥の羽根であった。
虹色に輝くその羽を、そっと拾い上げては、背中の籠へと入れていった。
地面に落ちているそれらは、状態の良いものから、汚れ、欠けてしまったものまで、さまざまな色カタチをしている。
彼女はその中から、比較的整った羽を拾い上げ、ひとつ、またひとつと背中の籠へと入れてゆく。
それが彼女の仕事だった。
日が沈む前に家へ戻ると
部屋で籠をおろし、羽を水の張った桶へそっと浸す。
付いていた泥や葉を取り除きながら、一枚一枚優しく洗い上げ、
天井から下がる紐へとくくり乾かした。
翌日それが乾くと、今度は特殊な液体へ浸し、防腐処理を行う。
これをすると傷みにくくなり、艶も出て
ある程度繊細な扱いをしなくても済むようになる。
それでも彼女はゆっくりとした手つきで
ひとつひとつの羽を浸しては干し、そして完成した羽を品質ごとに並べ括ると、袋へと詰めていった。
これらは、裕福な貴族の街へと売りに行く。
数日後、袋の数が持てる限り一杯になると
彼女は、自分の持つ1番良い服で身なりを整え
髪を結い上げて化粧をし
綺麗な籠に羽を束ねた袋をいっぱいに詰め
貴族の街へと出かけた。
郊外にある自分の家から町までは数時間歩く。
貴族街はさらにその町の中心まで歩く。
町並みが変わり、並ぶ店や家が豪華になると、門の上に虹色の宝石をつけた扉がちらほらと見られるようになる。
魔法貴族と呼ばれる貴族の家だ。
彼女はその扉一軒一軒を、ノックしていく。
「羽根はいりませんか?」
と高く優しい声。
「あら、羽根売りさんお久しぶり。ちょうど切らしてしまうところだったの。ありがとう、入ってちょうだい」
「ありがとうございますスライさん」
恰幅がよく品のある、スライと呼ばれた女性が羽根売りを家へ招き入れた。
案内され歩く応接間へ続く廊下は
さまざまな絵画や彫刻などの美術品に溢れていた。
目一杯に着飾った美しい彼女だが、貴族の豪華な屋敷では見劣りしてしまっていた。
部屋へ着くと、主人を呼んでくると言い残し、スライという女性は部屋を後にした。
その隙に彼女は袋から完成された羽を取り出すと、品質順に机に並べた。
間もなくすると、屋敷の主人である若い男性が部屋に入ってくる。
「やぁテイラ、いつもありがとうね」
「いいえ、こちらこそいつもありがとうございます。」
物腰の柔らかいその男性は、暖かい声と表情に反して装いは非常に煌びやかだった。
濃い青のシルクのベストに、宝石が散りばめられたアクセサリーを無数につけ
羽織ったマントが身体にあわせて揺らめき
その隙間からはまた、普段見られることのないアクセサリーたちが見える。
この宝石たちは魔法を使うために必要な道具たちらしい。
ふたりは机を挟み座る。
「こちらの袋は金15。次が金6、金2、1番左が銀30です。」
品質ごとに分けられたその羽を男性は手に取りゆっくりと眺めた。
「うん、いつもそうだが、あなたの作る羽根はとても良い。この金6の袋を3つ頂きたい。もしよければ銀30の羽も1枚だけ買えるかな。」
「はい!ありがとうございます!」
彼女は代金を受け取り、袋を3つと羽1枚を差し出した。
男が袋を侍女に渡している隙に、残りの袋を片付けて背負い直した。
「また次回もどうぞよろしくお願いいたします」
深々と頭をさげた彼女に男は話しかける。
「あぁ。そうだ、次に来るのは祭りの前になるだろう?
その時、挨拶を頼まれてしまってね。みんなの前で豊作の魔法を捧げることになった。
見劣りするわけにはいかないから、そこで使うとっておきの羽が欲しいんだ。
あなたの持っている中で一番のものを、持ってきてくれるかい?必要があれば、家まで護衛も送ろう。」
「かしこまりました。ご用意しておきます!」
門扉を出て再度深くお辞儀をしたところで
男は買ったばかりの1枚の羽を取り出した。
「今日はありがとう、気をつけて帰ってね。 ”羽よ、この者の守護幸福となれ”」
男性はそう言うと、羽を高く掲げた。
それはキラキラと金色の粉のように溶けて
テイラへと降り注ぐ。
「ありがとうございます」
嬉しそうにそうお礼を言い
彼女は屋敷を後にした。
その後も町中を周り仕事を終え、
必要品を買いそろえてから
陽が傾いた街並みを背に彼女は家へと向かった。




