2章 魔法 1-逃避
二人で宿に荷物を取りに行くことに。
幸い、高く飛び上がると自分たちが夜空に溶け込んだのがわかった。
すぐに追っ手が来ることもないだろう。
昨晩まとめておいたリュックを掴みすぐにまた、ここを立つ。
私はカバンにある残りの羽を、数えもせずににぎり、塊で渡しお願いした。
「あの、デイジーさん。私の家に寄れますか?家にある残りの羽や、羽を作る最低限の道具を持っていきたいです。」
「わかったわ。飛ばすわよ」
デイジーは頷くと惜しむことなく羽を使い、
私が数時間かけて歩いてきた家路を高速で移動し、草原にポツンと立つ我が家へと到着した。
ガチャン!
時間がない。追っ手がいつ来るかわからない状況で、集中して急ぎ荷物をまとめる。
加工液の原液、羽の在庫、捨てる予定だった粗悪品も詰め込んだ。幸い羽は軽いので持ち運ぶのに苦労はしない。
ふと干していた肉が目に入る。
一応確認すると、表面はそれなりに乾き、燻製もしっかり艶がでていていい感じだ。
超長期食にするつもりがなかったので水分の抜けが足りないが、この土壇場での食糧の足しくらいにはなるだろうと、父のナイフで吊るし紐を切り、これも詰めた。
使ったナイフを腰に収める。このナイフも持っていこう。
ボロボロだった服も着替えるために脱ぐと、体の傷がよく見えた。
それをみたデイジーが言う。
「旅をする上で怪我は甘く見てはいけないわ。上から外を見張っておくから、体を清潔にしてきなさい」
「でも時間が」
「清潔さは危険と天秤にかけれるくらいに価値あるものなのよ」
「わかりました。急ぎます。」
こんな状況でシャワーを浴びていることにソワソワしながらも、自宅にいる安心感と、リラックスできるシャワーの時間でだんだんと肩の力が抜けた。
すると、よりあちこちが痛いことに気づく。
自分では見えない後頭部まで痛みがあり、思っていたよりも酷いあり様に、不安に狩られた人間の無慈悲さを実感する。
デイジーが民の反応を見て、早めに荷造りをしておけと言った意図を、今更理解した。
部屋に戻り、外着で尚且つ動きやすく、かさばりにくい服を着た。
急いで窓からデイジーを呼び戻すと、
「大丈夫、まだ気配はないわ。」
と言われ一安心する。
「あの、私にうまくできるかわかりませんが、私も屋根から見張るのでデイジーさんも浴びてきてください。この後どうなるかもわからないので…」
「…うん、ありがとう。そうしようかしらね。」
私の頭にポンと手を置いてからシャワールームへと消えた。
ハシゴで屋根に登り、座って街の方向を見る。
夜風が気持ちいい。
いつもはぼんやりとした小さい光だけ見える街は、今日は祭りの灯りで明るく輝き、遠目にも賑やかなことがよくわかった。
「いいわよ。降りてきて。」
と、デイジーの声がする。
思っていたよりも何倍も早くデイジーはシャワーを終えた。
速度に驚きながら戻ると、デイジーはもう荷物整理が終わりそうな様子。
慌てて私も、最後とばかりにリュックの限界まで服のストックを押し込んだ。もうパンパンだ。
私は室内を眺める。
棚、ベッド、壁、柱、天井…
小さな傷ひとつ取っても、それは大切な思い出だった。
最後に棚の上に飾っていた家族の写真を、額縁から外して大切にしまった。
「できました。」
あふれそうになる涙を、デイジーは見ないようにしてくれた。
ガチャリ。
もう開けることなど無いであろう扉に鍵をかけ、その鍵をポケットにしまおうとしてやめた。
鍵の付いていない小窓を開け、腕を伸ばし中の棚に鍵を置く。
旅には不要だ。
デイジーと目を合わせる。
デイジーは頷き、私を抱きしめた。
「プルガーレ」
デイジーと共に夜空に飛び上がる。
私は小さくなる我が家に手を小さく振ってみた。
「もし行く先に目星がなければ、南西にあるリプセンという街へ向かいたいです。あそこは古鳥の森の先にあるので追っ手が来づらいですし、森を避けるためには山を越える必要があって、噂の伝わりも遅いと思うんです。さらに先は海の方向でもあるので、その後も身動きが取りやすいかなと思いまして。」
「あら?いいじゃない。あなた旅に向いているかもね」
そう言うとデイジーは満点の星空を背に飛び始めた。




