1章 羽拾い 14-不安と不満
時間は昼前になっていた。
遠くに見えるメイン会場で、子供たちが踊っているのが見える。
客層は完全に保護者の皆様だ。
暖かな祝いの空気と、隣にいるデイジーの存在。商売も、少し変な噂をされてはいるが高評価で、家族が亡くなってから苦労続きだったテイラの心を緩ませる。
「食べ歩きをしているからそこまでお腹空かないわねぇ〜甘いもの食べちゃおうかな」
「良いですね。果物とクリームを挟んだパンがあっておすすめです」
「ん〜良い香りがすると思ったらそれか〜食べましょ食べましょ!」
年相応にはしゃぐテイラと、年齢は知らないがおそらくはしゃぎ過ぎなデイジーは楽しく、それらしく祭りを楽しんだ。
陽が傾いてくると人々はおもむろに会場方向へと足を向け始める。
花火の時間に合わせて広場へ向かうのだ。
テイラとデイジーもそれにならい、急ぐでもなく方向を変えていく。
歩調を同じくした人々の会話がよく聞こえてくる。
「今年は心配だったけれど無事こうやって祭りができてよかったね」
「ママ〜花火って明日もある?」
「帰ったら洗うわよー」
「あれー!久しぶり〜!」
十人十色の会話の中で、会場へ近づくほどに少し気になるものも出てくる。
「今年の祝辞とんでもなく強いらしいよ」
「酒場で練習を見た人がいるんだって」
「その魔法をかけられた人はこの冬飢えないらしいよ」
「気にしちゃダメ」
と、デイジーが顔を覗き込んできながら言う。
「…はい」
祭りが終われば程なくして落ち着くだろう。
私はデイジーの手をまた握らせてもらった。
「うぐぐ」
「ね、ねえいつもこんな感じなの?」
「そんなごとはないでず」
会場に着くとあまりの密度に圧迫される。
「花火、人気なのね」
「もしかしたら祝辞の話を聞いた人がいつもより集まってるのかもしれないですぅ」
ぎゅーぎゅーに揉まれながら待つと、やがて遠目にコーネが登壇するのが見えた。
豊作を祝う祝福の魔法だ。これが花火打ち上げの合図となる。
距離があるので上手く声は聞き取れないが、長々と語りをしている。
きっと例年通り、実りへの感謝と、今年あった大きな事件事故へのお悔やみだろう。最後に来年の豊作を願ってから、会場全体へ魔法をかける。
遠目でも、私の作った羽が掲げられたのがわかった。
コーネが呪文を唱えると、羽は金の粉となり、会場にいる民へ降り注ぐ。
それは立派な羽で、きちんとした魔法で、
いつもの祝福だった。
「ん?今のが噂になっていたやつ?」
「おい誰だよ適当なこと言ったやつ」
会場がざわつく。
そのうち1人の女性の声が響いた。
「大きな祝福がもらえるんじゃなかったの!?私はこの冬どうやって生きていけばいいの!?」
会場はシンと静まり返った。
少ししてから
「そうだよ。かなりの作物がダメになったんだぞ。飢えるに決まってる。」
「貴族さんが解決してくれるって言うから俺は信じたのに」
「嘘よね?助かるよね?」
「結局貴族は平民のことなんてどうだっていいんだ」
「落ち着いてください」
「お前らは貴族相手の仕事だろ!貴族と関わらない民は飢えてお前らは助かるんだろ!」
「そうだそうだ!お前も貴族側なんだろ!」
人々の感情が昂り、ついに衛兵の1人が民に掴み掛かられた。
一気に周辺で怒号が飛び交う。
止めようとする者も一緒に“貴族派”のように扱われ怒号の対象となり、波が広がっていく。
人が荒く動き、気づけばデイジーと逸れてしまっていた。
混乱する人々に流されるままでいると、そのうち声が飛んできた。
「お前羽売りじゃないか?あれはお前売った羽か?」
「まさか、貴族と結託して民に使う羽を粗悪品にしてるんじゃないか?」
「えっ」
「お前も貴族側だろ」
「昨日貴族と話してるのを見たぞ。打ち合わせたんだろう!」
次々に言葉が飛んでくる。
「わ、私は、そんな事!してないです!」
「信じられるか!」
言葉を真っ向から信じてもらえない場合、どうしたら疑いが晴れると言うのか。
あまりの理不尽と狂気に言葉を失う。
「い、いや!」
逃げようと後ずさるものの、人混みの中で逃げ場がない。
「おい!ふざけるな!逃げるな!」
逃げる道などない中
目の前に男の手が伸びて来ると
ーーーーーッシャァァン!




