1章 羽拾い 13-親しみ
酒場を後にし、前夜祭の出し物を見に広場へ向かった。
途中増えてきた人波に流されたりもしたが、デイジーがうまいこと私を見つけてくれた。
自分の非力さを嘆きながら、だんだんとデイジーの姉御肌気質なところに甘えはじめた自分を感じる。
お別れの時を名残惜しく思いながら、離れないようにと自分に言い訳をして
私はデイジーの手をぎゅっと握った。
デイジーのひんやりとした細い手も、見た目よりずっと強い力でぎゅっと握り返してくれた。
2人で広場で踊り騒ぐ人を眺めてから、宿へと戻った。
明日が過ぎればさようならだ。
最後まで笑顔で居られるようにと、ベッドで目を閉じた。
テイラが寝息を立て始めた少し後、デイジーは静かに体を起こす。
そっとテイラの足に手を当て、小さく言葉を吐くと
花の形の魔法石はぼんやりと輝き出す。
昨晩と、一昨晩と同じように、デイジーはテイラに追跡の魔法をかけた。
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「おはようございます!デイジーさんの益々の豊穣を願います。」
「えっと」
「お祭りの挨拶です。農家ではなくても、その人の生活を支える行動がうまくいきますようにと声をかけるんです。祝福は自分ではなく他人に渡すもので、たくさんの人に祝福されることで幸せになれると信じられています。なので今日は出会う人にたくさんお祝いを言って、言われて、一年分の祝福を貯めるんですよ」
「なるほど、そうなのね。じゃあ、テイラにも益々の豊穣が訪れますように。」
そう言って軽くデイジーはウインクしてみせた。
「祭りは、夜の打ち上げ花火をフィナーレとしています。
朝には開催の儀、午前中に子供達の発表の場が設けられて、昼には出し物、それが終わり次第、みんなで踊りながら花火の時間を待ちます。」
「だいたいわかったわ」
「とりあえず食べ歩きをしながら露店を見てみましょう。この日にあわせて珍しい品が集まってますよ!」
そう言って街を歩き出す。
露店では流行りに乗ったものが多く、目新しい道具や装飾品、食べ物や衣服など数多くの商品が、威勢よく叫ぶ店主のもとに並べられていた。
デイジーはいくつかを手に取り、店主と冗談混じりの会話をしながら、さらりと値切りをして買って行く。
隣で見ているとその鮮やかな値切りに空いた口が塞がらない。
「デイジーさん…薄々感じていましたが…口がうますぎますね…」
「うふふ、これも旅の必需品よ?」
「それがないと旅ができないなら、きっと結構な数の旅人が消えると思います」
「あはは。テイラちゃんも欲しいものがあったらお姉さんに任せなさい」
えっへんと構えてみせたデイジーに、思いつきで言ってみる。
「じゃあデイジーさんのことを忘れないように、お揃いの何かが欲しいです」
「あら、いいわねぇ〜うーーんとーーーぉ」
デイジーはキョロキョロと露店を見渡し、
「あっこれなんてどう?」
と、ひとつのピアスを指差した。
それは羽の形の彫金でできていて、小さな黄色の宝石が埋め込まれていた。
「イヤリングタイプもあるから…色違いでお揃いにできるわよ」
「いえ、同じ色がいいです」
「黄色の奴はピアスしかないみたいなのよ」
「空けます」
「え」
「空けます」
「ほ、本当に?痛いわよ?」
「はい、大丈夫です。」
「そ、そう」
自分でもこの発言にびっくりする。
ピアスと一緒に穴あけも付けてもらい、人の少ない路地裏のベンチに座る。
「……こ…こわ…やり方がわからないので教えてください」
「鏡がないと自分じゃ難しいわ。私がやってもいい?」
「お願いします」
デイジーを信頼して、少し顔を見てからギュッと目を瞑り、不動を意識する。
顔の近くにデイジーの香りと体温が近づく。
息を感じるほどの距離で、デイジーが耳に触れる。
ピクリと一瞬身体が跳ねたが、唇を噛み締めて待つ。
「いくわよ」
低く小さな声で耳元で囁かれる。
ザグッ という音と熱い感覚。
次いで冷たい消毒液の匂いがした後、感覚が戻ってきて痛みを強く感じ、表情が歪む。
もう一度痛みを覚えてから
「できたわよ」
と言われ、触って確かめようとする手を止められた。
「消毒をしたからしばらく触らないでね。安定のさせ方を教えるわ」
今後の手当の仕方を教えてもらった。
熱くて痛い耳。
怪我をして痛いのに違いないのに、ウキウキした気持ちが勝る。
「あっと忘れるところだった。ちょっと動かないでね」
そう言うとデイジーは、つけたばかりの私のピアスと自分のピアスを近づけてから
「プロテゲレ」
と唱えた。
顔の横から光を感じる。
「お守りの魔法をかけておいたわ。あなたに敵意のある者から守ってくれる魔法よ。石が小さいからあまり回数はないと思うけれど、いつか役に立つかも」
そう言ってから、デイジーは自分のピアスをひとつ抜き取り、お揃いのものに付け替えた。




