1章 羽拾い 11-噂
ベッドに入ってから、眠る前に少しだけ会話をする。
「デイジーさんはどうして旅をしてるんですか?」
「私は見聞を広げたくてね。一度就職したけれどしっくりこなかったの。もっと自分に嘘をつかずに、心から好きだと思えることを探しているのよ」
「旅は楽しいですか?」
「ええ、楽しいわ。知らなかった価値や文化に触れて、そのひとつひとつが私を形作るの。」
「それは、素敵ですね」
「ええ、世界は知らないことで溢れているわ。だから少しの違和感や不思議にも恐れずに目を向けて…あら、寝ちゃったわね」
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「さて!今日はこの街をご案内いたします。明日の祭りに向けて、知っておくとより楽しめるお話がたくさんあります!
私は買い出しもしたいのですが、お店が通常営業している今日のうちにデイジーさんも一緒に済ませておくのがおすすめです!」
「なるほど、明日はお店が空いてないのね。ありがとう。じゃあついていくわ」
朝のうちにこの街の文化的背景を喋りながら、伝統や言い伝えなど、観光客向けの説明をした。
その後、明日の会場となる広場へ。
そこでは、設営の最終調整とリハーサルが行われていた。
「お、昨日の嬢ちゃんだね。その方が旅人さんかい?」
ガタイのいい男性が声をかけてきた。
「はい、昨晩はお騒がせしました」
「なに、とんでもない。農家を気にかけてくれてありがとうな」
ニカっと笑った男性の顔はよく覚えていなかったが、きっと昨晩会場にいた人なのだろう。
その後商店街へ入り、お土産品をみたり、買い出しをしていく。
「へぇーこの辺は木細工が発展しているのねぇ」
「評判は良いと聞きますが、他では違いますか?」
「そうねぇ、海沿いは貝を使った工芸、山沿いは金属を使った工芸になりがちだから、中継地点で扱いの難しい木材工芸がこういう発展するのは面白いかも」
「魔法を使う方向けに宝石を埋め込んだものもあります」
「ふふ、それはどこも変わらないわね」
たわいのない話をしながら馴染みの店に入る。
「こんにちはー」
「おお、羽売りさんひさしぶり。良いの入ってるよ!そちらは?」
「お祭りを見にきた旅人さんです。今案内をしていまして」
「そうかいそうかい。その人が旅人さんかい。噂は聞いたよ!」
「噂?」
「ああ、昨晩害獣被害について貴族に相談したんだって聞いたよ?羽売りさんは貴族さん相手の仕事だからかねぇ。農家の人間じゃ貴族さんに話を聞いてもらうことも難しいから、そうやって直接掛け合う発想がなくてね。みんな感謝してたよ」
「それは…よかったです」
噂になっているのはびっくりだが、感謝されるのは悪い気はしない。
上機嫌であれこれ買い物をしていった。
「こんなのも入ったよ」
「これは?」
「海外産の革のリュックでね。軽くて大きくて丈夫で、雨や日光なんかにも強い。テイラさんみたいに荷物を沢山持つ仕事に良さそうだと思って。少し値は張るがどうだい?」
「背負ってみても良いでしょうか?」
「もちろんさ」
背負ってみると、いつものカゴよりも肩への食い込みが少ない。
容量は少し減るかもしれないが、先日古鳥を入れて帰った時にカゴを痛めてしまったので、新調するにはちょうど良い。
「これいただきます」
「まいど!」
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「最後に酒場に寄ります」
「酒を買うの?」
「そうとも言えます。羽を作る材料にアルコールが必要でして、高濃度のものを譲ってもらっているんです。」
「なるほど、それは私も買わせてもらおうかしら。」
「何かに混ぜないと飲めたものじゃないと思いますよ…?」
「あはは!怪我の消毒用さ」
「な、なるほど…」
酒屋で買い付けていると、またしても店主に話をされた。
「いつもご苦労さん。そういえば昨日広場で害獣被害について貴族さんに話していたってのは君かい?」
「あ、はい」
「みんなのために動いてくれてありがとうねぇ。数日前にも酒場で凄い羽を売る羽売りさんがいたって話題になってたよ。特徴を聞いたらテイラくんだったから、君だと思ったよ。」
「わ、私はいつも通りにしか…」
「はっはっは、君のお父さんもそうやって当たり前って言う職人だったよ。でもまぁそんなに良い羽を貴族さんに渡してきたのなら、明日の祝福の祈祷もきっとみんなの安心に繋がるだろうね。みんな不安がっているから、助かるよ」
「それは…よかったです…」
「少々不穏ね。」
宿までの道のりでデイジーが話しだす。
「あまりに噂が回りすぎているように思うわ。不自然なほどに。ここの人たちはそんなに貴族と会話するのが珍しいの?」
「うーんそんなこともないと思うのですが…」
「だとすると民衆が今回の件をかなり不安視しているのかもね。」
「もし周辺地域も農作物に不足があるのなら、一大事になるので…そうかもです。昨年の冬はあまり実りが良くなくて、苦労した人も多かったので。」
「…帰ったら荷物を整理するわ。明日、祭りを見たら疲れて帰るでしょうから、その後動かなくても宿から出れるように」
「?ええ、はい。」
少し難しい顔をしながらデイジーは歩いていた。
やがて宿につき、買ったものを整理していく。
新しい鞄に荷物を移し、しばらく先まで持つ量のいろんな買い出し品がすっぽりと収まった。
まだ入れられそうで、見た目以上の収納力に満足する。
さらにデイジーから便利な知識も貰えた。
「防菌効果のあるもの以外の包装は直ぐ捨てると嵩張らないのよ〜」
「本当だ!スッキリしました!」
「割れやすい物の緩衝材も捨てちゃって、柔らかい商品をそこに詰めると無駄がなくなるわ」
「すごいです!どんどんカサが減ります」
アドバイスに従って詰め直すとかなりの余裕ができ、デイジーの旅慣れた知識が頼もしく感じる。
「デイジーさんは結構軽装なんですね?もっとたくさん買ったように思ってました。」
「ええたくさん買ったわよ。今みたいなコツの他にも、魔法でさらに持ち運びやすく出来るの。旅をするのには必須な魔法よ。」
「へぇ〜知りませんでした!とても便利なんですねぇ」
「魔法学校に行かないとこういうのは知る機会がないものね。他にもこんなのがあるわよ」
そう言ってバッグからキラキラとした宝石のついた物をいくつか取り出して、私に説明してくれた。
いろんな物を温める奴、いつでも手紙を出せる奴、少し先の未来を占う奴、虫除け、動物避け、ハンモック。
言われてみればあったら便利そうなものがたくさんある。
「とても便利そうです。魔法はすごいですね。平民にもいつか手が届けば、凍えたり飢えたりする人も減りそうですね」
「そうね。この国はそもそも貴族しか魔法を習えないものね。」
「貴族さんは生まれ持った才能が違いますもんね」
「えっと…貴族も平民も、血統以外の要素は同じよ?魔力のある平民もいるわ。問題は使い方を習えないことにあるのよ」
「えっそうなのですか?」
「学校を出ないと魔法を使う仕事につけないの。危険だからと学校以外では教わることができないように規制されていて、学校に行くにはお金と紹介がいるから、結果的に貴族のみがいける場所になってしまっているのよ。金持ちの商人なんかは貴族と養子縁組したりするわ。まぁ魔力ありきだから、行きたくても行けないことがほとんどだけどね」
「ふ、複雑な事情があるのですね…」
「利権の絡む事だから、自分に不利益がないよう誰も口を出せないでいるのよね」
デイジーは諦めているような、困ったような顔で少し笑っていた。
今の話からすると、デイジーは貴族社会で生きてきた人なのだろう。
貴族で旅をする人は少ない。身分を捨てる事になり、貴族はそういった行動を強く非難するというのは想像に難くない。
デイジーには複雑な事情があるのだろう。
「さーて!祭りに向けて酒よ酒!旨い店教えてもらうわよー!」
性格の方は複雑じゃないのかもしれない。




