第8話 黄色の侵略 5〜7話の黄城(黄瀬ミレア)視点
18時30分。
本業が始まる。
そして今日は、先日練った作戦を実行する日。
……いや。
本当にやるの?これ。
私は一人、部屋の中で立ち尽くす。
だってこれ、普通に考えてーー
隣に住んでる男の人の部屋に、理由つけて上がり込もうとする作戦だよ?
……冷静に考えたら、結構やばいかも。
「……でも」
私は小さく息を吐いて、両手で頬を軽く叩いた。
ここでやらなきゃ、ずっと分からないまま。
赤石さん=アカケンさんなのか。
「……よしっ」
小さく気合いを入れる。
作戦はシンプル。
料理を作ってーー“作りすぎちゃったので”って理由で、部屋に中に入れてもらう。
そして中を確認する。
もし本当にアカケンさんなら、きっとーーあの人の部屋は、私たちのグッズでいっぱいのはずだから。
……うん。
完璧。
たぶん。
きっと。
「……大丈夫、大丈夫」
自分に言い聞かせながら、配信の準備に入る。
※※
今日は初めての料理配信。
普段とは違うキッチンでの実写だから、カメラ位置も慎重に調整する。
顔だけは絶対に映らないように。
ーーよし、準備OK。
私は配信を開始した。
黄:『やっほー! みんな元気してた? クロマリンクの黄色担当、黄瀬ミレアです!』
コメント欄が一気に流れる。
「やっほー!」
「今日は料理配信?」
「初めてだよね?」
「ミレアの料理楽しみ!」
みんなの反応に、少しだけ緊張がほぐれる。
黄:『今日はね、料理配信をしようと思う! 私も急に企画したことだから、みんなびっくりしたと思うけど、楽しんでね!』
黄:『それでね、今日の配信。料理企画の最初の料理は…肉じゃが!』
黄:『私自身あんまり料理する方ではないから、慣れないところもあると思うけど、なんとか頑張るね!』
コメント欄がさらに盛り上がる。
……よかった。
とりあえず、配信としても成立しそう。
……赤石さん、肉じゃが嫌いじゃないよね
包丁を握りながら、ふと考える。
嫌いじゃない、どころか。
できればーー
好きであってほしい。
「美味しい」って言ってほしいし、「また食べたい」って思ってほしいし…
……いや、流石にそれは良くないか。
「だめだめ」
私は小さく首を振る。
「応援してる!」
ーーアカケンさんからスーパーチャット。
思わず、少しだけ口元が緩む。
黄:『おっ! アカケンさん、スパチャありがとう! いつも応援してくれるよね。 頑張るね』
自然と声も少しだけ明るくなる。
……やっぱり、この人は特別だ。
※※
順調に料理は進んでいく。
ーーが!
……あ
手元が滑ってしまった。
ガッチャーン!
大きな音を立てながら、カメラが倒れる。
ーーまずい!
一瞬、部屋の景色が映る。
……やばいやばいやばい!
黄:『ごめーん! 料理中にカメラ落としちゃった!』
私は一回待機画面に戻した後、カメラを直した。
黄:『本当にごめんね。 変なもの映ってなかったよね?』
コメントが流れる。
「うん」
「映ってなかったよね」
「逆に見たかったww」
……よかった。
顔は映ってないだろうし、たぶん、大丈夫だろう。
……でも、赤石さんもこの配信見てるよね。
もし、部屋で気づかれたらーー
……うーん……いや。
きっと大丈夫だろう。
赤石さん、たぶん鈍感だし。
……でも。
そういうところ、ちょっと安心するというか。
『……変な人』
小さく笑ってしまった。
「えっ?なんか言った?」
「ごめん、聞こえなかった!」
私の声にリスナーが反応する
黄:『ごめんごめん。大丈夫だよ、こっちの独り言。全然気にしないで!』
……やば。聞こえてた。
気をつけなきゃ!
※※
配信終了。
時計を見ると、ちょうどいい時間。
……よし!
鍋を持つ。少し重い。
でも、それ以上にーー
……ドキドキする
玄関を出て、隣へ。
ピンポーン
……数秒。この時間がやけに長く感じる。
ーーガチャ!
ドアが開く。
「こんばんは黄城さん。どうされました?そんな大きな鍋を持って……」
「こんばんは」
……よし、落ち着いて。
「赤石さん、急にすみません。実は…肉じゃがを夕飯用に作ったのですが、多く作りすぎてしまって…」
「もしご飯まだでしたら、一緒に食べませんか?」
ーー言えた。
あとは、中に入れるかどうか。
部屋、見たい。
何か考えていた赤石さんだったが、その誘いを受けてくれた
やった!
これで部屋を確認できる!
赤石さんがチェーンロックを外し、ドアを完全に開ける。
ーー⁈
ーーが、突如!
赤石さんが私の行く手を阻む!
えぇ⁈
正直鍋重いし、早く入れて欲しいのに!
「えっ!どうしたんですか?一緒に食べてくれるんじゃ……」
「い…いや、じ…実はですね、家の中が散らかっているのを思い出しまして…少し外で待ってていただけますか?」
……この動揺の仕方。
きっと『クロマリンク』のグッズだろう。
私は作戦のためにも、強引に入ろうとする。
ごめんなさい赤石さん。
とっても迷惑だけど、本当に私気にしないから……
それに、私のグッズがあったら、逆に嬉しい。
「あっ…いや、でも大丈夫ですよ。1人暮らしですもんね。散らかっているのはお互い様ですし、私は本当に気にしないので、そのままで…」
私は進行を止めない。
ーーが、流石に赤石さんに止められてしまった。
「お…俺が耐えられないんです。1分で片付けますんで、ちょっと待っててください!」
ーードン!
玄関を閉め、赤石さんが部屋に戻ってしまった。
玄関先からも、慌ただしく動く赤石さんが想像できる。
ーー1分後、部屋に入れてもらえた。
「とっても綺麗じゃないですか!本当に部屋散らかってたんですか?」
私は綺麗な部屋を見渡す。おそらく、クローゼットだろう。
少し大きめなクローゼットだ。
私達のグッズはアクスタやポスター、タペストリーが出ている。
あれらのグッズなら、きっとあそこに隠せるだろう。
一応抱き枕も出ているが、流石に値段が高いし、アカケンさんであろうと買わなかっただろう。
「分かってますよ。赤石さんも男の人ですし、エッチな本でも隠したんですよね。例えば、ほらあのクローゼットとかに!」
私は狙いを定めたクローゼットを指差すし、軽くカマをかける。
私の行動に、明らかに動揺する赤石さん!
「いや…いや、そ…そんなわけないじゃないですか!それにクローゼットなんて、そんなありきたりな場所に隠すなんて…ねぇ……」
……よし、確定だ!
あそこに絶対隠してある!
「ふふ…赤石さんって面白いですね。とっても素直で」
私も思わず笑みが溢れる。
「黄城さんが強すぎるんですよ」
「へへ…」
私は少し照れくさそうに笑いながら、頭をかいた。
「ちなみに、何隠してたんですか?本当にエッチな物ですか?」
「いや、そういうものではないのですが…」
ーードシャーン!
……おぉ。
赤石さんはクローゼットを開けてくれた。
…のだが、結構パンパンに詰めていたらしく、中に入っていたグッズが溢れ出す。
思わず、息を呑む。
よく入っていたな。
ポスター、タペストリー、アクスタ
そしてーーあの時のTシャツ。
……やっぱり
胸の奥がじんわり熱くなる。
そしてーー
視線が止まる。
……え?
もしかして……これ。
……私の、抱き枕?
……うそ?
一気に、顔が熱くなる。
ちょっと待って。
これって。
これってつまりーー
私が、一番ってこと?
「……っ」
やばい。
絶対今、顔赤い。
「実は俺、Vtuberグループの『クロマリンク』の大ファンで、そのグッズを集めているんです」
正直に白状する赤石さん。
「黄城さんを含めた住人さんには、オタクって知られない方が管理人として接しやすいと思って、隠してて…」
赤石さんは私達のために、あえてオタクであることを隠してくれていた。
管理人として、私達のことを大切に思ってくれていて、とても嬉しい。
でも……私は今、そんなことより……
「そうだったんですね!とっても素敵な趣味だと思います!」
声が少し上ずる。でも止まらない。
嬉しい。
とっても嬉しい。
※※
それから、私は一緒に肉じゃがを食べた。
赤石さんは家にあった冷凍のご飯やインスタントの味噌汁を出してくれた。
食事も終わり、部屋を出る。
「今日はありがとうございました。赤石さんが一緒に食べてくれて助かりましたし、とっても楽しかったです!」
「こちらこそ、美味しいご飯ありがとうございました」
「喜んでもらえてよかったです。もし私でよければ、これかも機会あったら、また一緒に食べましょ。では、これで。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
ガチャン!
ドアが閉まる。
静かな廊下。
私はその場で小さく息を吐いた。
やった。
作戦成功。
赤石さん=アカケンさんだ。
それにーー私が、1番かもしれない
……ふふ。
「絶対、離さないから」
小さく呟いて、私は拳をぎゅっと握りしめた。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
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