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第25話 自分

「やっぱり、これがいいかな?」

「どう思う?赤石くん」


 俺は今日、桃西さんと洋平への誕生日プレゼントを買いにショッピングモールへ来ていた。今はハンカチやコップを見るために、雑貨屋に来ている。


「確かにこのハンカチ、いいですね。コーヒーの絵がついてるし、洋平らしいです」


「そうだね。……じゃあこれにしようかな。……でも、うーん……」


「どうしたんですか?とてもいいプレゼントだと思いますけど」


「ごめんね。なんか、渡すかどうかも迷っちゃって」


「えっ?」


「付き合ってくれた赤石くんには申し訳ないけどさ……もちろん、今日のお礼はするよ。けどさ、なんか私なんかが送ったら驚くかなって思って……」


 少しだけ言葉を区切る。

「私はさ、喫茶店でバイトしてるけど、洋平くんに見せている自分が本当の自分じゃないよなって。みんなに見せてる姿も本当じゃない。そんな私が送っても……って」


「それに、送ったら洋平くんにも返さなきゃって思わせちゃうかもしれないし……」


「そんなことありませんよ。きっと喜びますし……」


「そうだよね。……なんかごめん。ちょっと過去のこと思い出しちゃって」


「過去のこと?」


「うん。今、私が喫茶店でバイトしてるのは知ってるでしょ?……あっ、本業は秘密ね」

 少しだけ笑う。

 ……ちょっとミステリアスで、可愛いと思ってしまった。


「でも実は、今の本業、転職して二つ目でさ。最初は違うことしてたんだ」


「で……最初の会社では素直でいようと思って、できるだけ素の自分を出してたら、ちょっと嫌なことがあって」


「そんな……」


「正直、今も迷ってるんだ。私にとって良いと思う自分を纏って日常を過ごすと楽なんだけどさ。その一方で、その面で評価されてる自分を客観的に見ると、本来の自分って必要ないんじゃないかって思ったり……」


 少しだけ視線を逸らす。

「ごめんね。赤石くんには関係ない話……」


「関係ないことないです!」

 思わず声が出る。


「桃西さんは俺のアパートの大事な住人さんです。管理人として、住人さんの悩みは解決したいです!」


「あっ……いや、その……」

 言ってから少し焦る。


「住人だからっていうのもありますけど……それだけじゃなくて、普通に桃西さんのことは助けたいですし……」


「ごめんなさい。気持ち悪いですよね」


「いやいや、そんなことないよ」

 少し柔らかく返される。


「とにかく!」

 ごまかすように言葉を続ける。


「本心でいる桃西さんも、そうじゃない桃西さんも、全部桃西さんです!」


「仮に素の自分じゃなくても、それは相手や想い、自分のためにやっていることですし……。そういう優しい考えを持ってる時点で、ちゃんとそれも全部桃西さんなんです」


「だから、プレゼントだってきっと喜んでもらえます!」


「……ありがとね、赤石くん」


「いえ。これぐらいは……」


「ふふ……やっぱり優しいね、赤石くん」

 少しだけ照れる。


「そうね。つべこべ言わず、プレゼント渡すことにする。どんな私でも、全部自分だもんね」


「そうです!」




 桃西さんは、コーヒーの絵が描かれたハンカチを選んだ。


「ありがとね。付き合ってもらっちゃって」


「いえ。俺も暇でしたし……それに、新鮮で楽しかったです」


「ふふ……ならよかった」


 少し歩き出してから、くるっと振り返る。

「ねぇ……何か食べて帰らない?今日のお礼に奢るわ」


「いいですね!でも……何食べようかな。迷います」


「まぁ、ゆっくり歩いて決めよっか。ショッピングモールはお店もたくさんあるし」


 桃西さんは、少し機嫌よさそうに歩き出す。

「あっ、そうだ!」

 前を向いたまま、ふと思い出したように言う。



「この前、喫茶店で言ってた虹川ソラさんのことなんだけど……」


「えっ?」


「私が勝手に言うのもあれだけど」

 少しだけ間を置く。


「あの事故は気にしなくていいと思うよ。赤石くんの優しさはきっと伝わってる。そんなに自分を責めないでね」

 軽く笑う。


 俺は、その言葉に少しだけ救われた気がした。


お読みいただき、誠にありがとうございます。

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