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第22話 イニシャル

 桃「さて、お酒とおつまみも揃ったことだし……乾杯しちゃう?」


 テーブルの中央に並べた缶や小皿を軽く整えながら、私はグラスを持ち上げる。


 黄「待ってました!」


 黄城ちゃんが勢いよく手を伸ばし、缶を掲げる。


 白「こぼさないでよ?」


 青「もう手遅れな気もしますけどね」


 紫「いいじゃない、楽しければ」


 全「かんぱーい!」

 カチン、と軽やかな音が重なり、部屋の空気が一気に緩む。


 それぞれの手には違う酒。 私はワイン、黄城ちゃんはストロング系のチューハイ。青菜ちゃんは甘めのチューハイで、紫藤さんは焼酎。白町ちゃんはビールをゆっくりと口に運んでいる。


 テーブルには、コンビニで買ってきたスルメ、枝豆、チーズ、ハム。 簡単なものばかりだけど、こういう時間にはちょうどいい。


 ーーしばらくして。


 空いた缶が一つ、また一つと増えていく。


 黄「ねぇ紫藤さん、その焼酎……美味しいですかぁ?」

 頬をほんのり赤くした黄城ちゃんが、体を乗り出してくる。


 紫「美味しいけど……飲みたいの?」 グラスを軽く揺らしながら、ちらりと視線を向ける。


 紫「あなたのより、度数だいぶ強いわよ?」


 黄「飲みたいです!」


 白「ちょっと、やめときなさいって」 すぐ横から白町ちゃんが呆れた声を出す。


 白「あなた、すぐ酔うくせに」


 黄「そんなことないでぇすよぉ〜」


 語尾が完全に崩れている。 どう見ても、もう回っている。


 青「説得力ゼロですね」


 桃「はいはい」

  私は苦笑しながら立ち上がる。


 桃「あ、そういえばポテサラ作るんだったね。少し遅いけど、今から作るね」

 キッチンへ向かい、冷蔵庫を開ける。


 黄「ありぃがとうございまぁすぅ〜!」

 背中越しに、間延びした声が飛んできた。


 じゃがいもを取り出し、皮を剥きながら包丁を動かす。


 そのときーー


 黄「あっ、そうだ!」

 リビングから声が飛ぶ。


 桃「んー?」 手を止めずに返事をする。


 黄「桃西さんって、グラタン作れますか?」


 桃「え?作れるけど……どうかしたの?」

 鍋に水を張りながら振り返る。


 黄「実はこの前……ちょっと事情があって、健介さんと一緒に肉じゃが食べたんです」


 桃「あぁ」 思わず小さく笑う。


 桃「その話、喫茶店で聞いたよ」


 黄「えっ、バレてる!」


 桃「バレてるっていうか、普通に嬉しそうに話してた」


 黄「うぅ……」

 一瞬しゅんとしたあと、すぐに顔を上げる。


 黄「それで!今度は私がグラタン作ってあげようと思って!」


 桃「なるほど」

 じゃがいもを鍋に入れ、火にかける。


 黄「でも、美味しくできるか不安で……桃西さんに教えてもらえたらなって」


 桃「いいけどーー」

 少しだけ手を止める。


 桃「本当に教えていいの?」


 黄「え?」


 桃「私の作り方教えたら、黄城ちゃんのグラタン……私の味になっちゃうよ?」


 黄「あっ」

 一瞬固まる。


 黄「……それは嫌です!」


 桃「ふふ」 思わず笑みがこぼれる。


 桃「でもね。レシピなんて、だいたい誰かの真似よ」


 黄「え?」


 桃「完全なオリジナルなんて、ほとんどないよ」 マッシャーでじゃがいもを潰しながら続ける。


 桃「だから、その人がどんな気持ちで作るかで、その人の料理になるの」


 黄「……なるほど」

 少しだけ真剣な声に戻っている。


 桃「だから自分のやり方でいいと思うよ」


 黄「はい!」

 元気な返事。


 桃「それとーー」

 軽く振り返る。


 桃「赤石くんに、正体バレないようにね」


 黄「はいっ!」


 ーーその後。

 ポテトサラダが完成し、テーブルに並ぶ頃には、さらに場は賑やかになっていた。


 そして、数時間後。

 定例会はお開きとなり、それぞれ自分の部屋へ戻っていく。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ???視点

「あれ……?」

 部屋のドアの前で、ふと立ち止まる。


「ハンカチ……ない」

 バッグの中を探る。 ポケットも確認する。


「どこで落とした……?」

 胸の奥がざわつく。


「あれ、前にリスナーさんから貰ったやつなのに……」

 ぎゅっと手を握る。


「……まずい」

 小さく、呟く。


「あれを見られたら……私の正体、バレる」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 赤石視点

「ふー……飲んだ飲んだ」


 今日は夕方から洋平と居酒屋で飲んだんだ。


 アパートの前に着き、大きく伸びをする。

 夜風が少し気持ちいい。


 その時ーー


 足元に、何かが落ちているのに気づく。


「ん?」

 しゃがみ込み、拾い上げる。


「ハンカチ?」


 街頭の下で広げる。

 ベージュ色の上品なデザイン。


「アパートの誰かのかな」


 端の方に、刺繍が入っているのか見えた。


「イニシャル?」

 目を凝らす。


 そこにはーー


 S. Nijikawa


 と書かれていた。

お読みいただき、誠にありがとうございます。

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