第10話 私も観て 青菜(青凪レイン)視点
12時30分。
ついに今日、私は赤石さんの部屋に突撃する。
実はあまり、部屋に入ったことはない。
それに、アポ無しでの訪問。
緊張する。
手には紙袋。
中身は私のキャラクター、『クロマリンク』の青色担当、青凪レインの完全受注生産のTシャツだ。
この前のコンビニに来た赤石さんは、黄瀬ミレアの服を着てた。
『クロマリンク』のファンなんだろう。でも、黄瀬ミレアのファンなのかもしれない。
黄城さん…羨ましいなぁ。
それに、少し悔しい…!
ちょっと、いや…大分卑怯だと思うが、Tシャツをプレゼントして、私も観てもらうんだ!
事務所のマネージャーさんに無理を言って、事務所に保管していた服を貰ったんだ。
失敗は許されない。
玄関の前に来る。
チャイムを押す。
ピーンポーン!
少ししてから赤石さんが出てくる。
「こんにちは、お昼時間にすみません」
食い気味で挨拶をする私。
チェーンロックのせいで、家に入ることはできない。
「こんにちは。大丈夫だよ。それより何かあったの?」
「あ……あの、これ」
私は手に持っていた紙袋を差し出した。
赤石さんはチェーンロックを外し、玄関を開け、紙部袋を貰う。
ーーその隙に、赤石さんの部屋を覗く。
良いことではないと思うが、少し気になってしまったのだ。
部屋にはアクスタやポスター、タペストリーなど、『クロマリンク』のキャラクターのグッズがたくさんある。
ただ、やはり1つだけ目立つものが…
黄瀬ミレアの抱き枕!
……やっぱり、赤石さんは黄瀬さんが最推しなのかもしれない…。
紙袋を開け、中身を開封する赤石さん。
「えっ?青菜さん、これって?」
驚く赤石さん。
「はい。『クロマリンク』の青凪レインの完全受注生産で出た服です」
「そ…そうだね。確かに。あ……でも、聞きたいのはそこではなくて、どうして青菜さんがこれを?それに、どうして俺に?」
ーーしまった!
服をあげて、アピールすることしか考えてなかった。私が青凪レインだとバラすのは流石にマズい。
私は慌てて言い訳を作る。
「あ!…えっと、その……友達が『クロマリンク』のファンで、多く買ってしまったらしく、私に」
「で、先日…コンビニに来た赤石さんが同じグループの黄瀬さんのTシャツを着ていたのを見て、お好きかと思って…」
「そうなんだ。実は俺、『クロマリンク』のファンで…このTシャツも嬉しいよ」
……良かった。
とりあえず誤魔化せた。
「それは良かったです。あと、ちなみになんですけど、私達にオタクなことって隠してます?」
私はどうしても気になって、聞いてしまった。
部屋には黄瀬ミレアの抱き枕もあった。きっと大ファンだろう。
でも、今まではそんなファンだったなんて気づかなかった。
赤石さんは慌てて、玄関を閉めようとする!
私はそれを慌てて止める。
「隠さなくていいです!」
「私はもちろん、このアパートに住む住人さん達はむしろ赤石さんが自分を出してくれた方が喜ぶと思います!」
ーーそう!
もっとオタクを見せて。
そしてもっと私を好きになって!
「そ…そう。じゃあ…そうしようかな」
「は…はい!徐々にでいいので。それとあと1つだけお願いが…」
……これだけはお願いしたい。
最推しを私にするために…!
「うん?いいよ。なんでもやるよ。何か部屋に問題が?」
「いえ、彼女のことです」
「その、青凪さん?っていうキャラクターの配信、観てあげてほしいです。友達からその服を他の人にあげることを相談した時、『クロマリンク』のファンなら良いよと言われまして…」
「それはもちろん!観るよ!俺は『クロマリンク』のファンだからね。それに確か…彼女は今日配信するらしい。もちろん今夜の配信から楽しむよ!」
「それに実は俺、アカケンって名前でスーパーチャットも送っちゃったりしているから…。だから、大丈夫だよ!しっかりファンです!」
赤石さんは、意気揚々と答えてくれた。
ーー!!
胸の奥がじんわり熱くなる。
…よし、赤石さんは私も観てくれる。
絶対に私を最推しにする!
「そ…そうですか。や…約束ですよ!絶対に“魅せます”から!」
「で…では。これで失礼します!」
ーー私は急いで、玄関を後にしてしまった。
やってしまった。
このタイミングで別れたら、赤石さんからしたら困惑だろう。
でもーー
我慢できなかった。
多分顔も真っ赤だろう。
ーー恥ずかしくなって、今にも立ち去らないとボロを出しそうだった。
「絶対、私を1番にする!」
震える指を袖の中で握りしめた。
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