耳の痛い話
殿下、とリチャードが言った。
「覚えていない、ということが免罪符になっていませんか? 殿下は覚えていなくても、ベラドナ様は鮮明に思い出したのでしょう? やった方は忘れていて、やられた方は根に持っている。お二人には温度差があるのです。殿下のその態度では、歩み寄りは難しいでしょうね」
「その態度って?」
「開き直りです。思い出せないんだから仕方ないだろう。身に覚えのないことで責められても反省しようがない。そうお思いですね」
僕が間違っているときはビシッと言ってくれとは言ったが、さっそく耳が痛い。
「それはだって……そうだろ」
「では、もし今晩お眠りになったときに全てを思い出したとして、同じような態度でいらっしゃられますか? ベラドナ様に酷い仕打ちをしたことを、克明に思い出してしまったときの事をご想像ください。殿下が思い出そうと思い出さないままであろうと、ベラドナ様にとっては『確かにあった過去の出来事』なのですよ。心に受けた傷は大きいかと思いますが」
はっとした。彼女の言葉を彷彿としたからだ。
『殿下が信じようと信じまいが、わたくしにとっては真実ですから』
あれはこういう意味か。
「では僕はどうすればいいんだ。土下座して謝罪すれば良いのか?」
「それが『開き直り』というのです。ベラドナ様の話にもっと気持ちを寄り添われて、お聴きになってみてはいかがですか。殿下のことですから、さらっと流し聞きされたのでは? 土下座どころか、謝罪の言葉の一つも口にされていないのではありませんか? 身に覚えがないから仕方がないだろうと」
図星だった。
前々回の人生で、僕は彼女に随分酷い仕打ちをしたという話だが、前々回のことなど言われても知らぬと、何一つ反省の態度を示していない。
そもそも反省などしていないのだ。
覚えていないことで責められても困ると、リチャードの言う通り、完全に開き直っている。
しかしもし今晩眠りに就いて、前々回の人生や前回の人生を克明に夢に見てしまったら……慌てて反省するのだろうか。
僕が思い出そうが思い出さなかろうが、彼女にとっては真実であるのに。
「よく分かった……ありがとう、リチャード。よく言ってくれた。彼女の話をちゃんと心から聴いて、これからどうしたいか決めるよ」




