痛み分け
「ねえ、リチャード。今から僕の話をとりあえず黙って最後まで聞いてくれる?」
呼びつけたリチャードに勿体ぶって切り出すと、リチャードは神妙な顔をして、はいと答えた。
そこで僕はベラドナから聞いた話を漏れなく伝えた。ドージャ王へ使者を送ろうと思っていることも。
ベラドナには格好をつけて、すぐに使いを送ると言ったが、側近頭のリチャードを通さずに、勝手に臣下を動かすことはできないのだ。
最後まで黙って話を聞いてくれたリチャードに、どう思う?と訊いた。
「そうですね……。ドージャ王を説得する手紙をベラドナ様が書いて、使者が届けて、その返事を持ち帰るまでに、8ヶ月から10ヶ月かかるということですよね。その返事が『嫌っぷー』だったらどうするんですか? 向こうが説得に応じるとは限りません。むしろ、応じる可能性は低いのでは?」
確かに!
「ではどうする?」
「本気で、その『時の巻き戻しの魔法』とやらを阻止したいのであれば、その盗賊が持ち帰る魔法の素材とやらを強奪する……とかですかね」
「盗賊から物を奪うのか。なかなか物騒なやり方だな。しかし、その盗賊がいつドージャ国へ戻るのか分からんのだぞ」
「ですね。そもそも旅に出ているかどうかも……もし旅立っていないとなれば、ドージャ王は初恋の君をすでに救ったということ。もう時の巻き戻りは起こらないのですね」
「ベラドナの理屈ではな」
あまりにスムーズに話が通じることに、僕は疑問を持った。
「リチャードは信じるのか? この話を」
「殿下が信じると判断されたのでしょう? なら私は殿下のご判断に従うまでです。殿下の側近なのですから」
真っ直ぐな表情で返されて、胸にじんときた。
「リチャード……ありがとう。だが、もし僕が明らかに間違いを犯しているときには、ビシッと言ってくれ」
「明らかに間違いを犯しているとき、ですか」
「ああ。彼女の話では、前々回の人生で僕は彼女に酷い仕打ちをした。それを諌める者は一人もいなかったそうだ。僕の側近も全員グルで、彼女を罠に嵌めた。ああ、リチャード、お前のことではないぞ。お前は一度目も二度目も海で遭難し、国へは戻らず仕舞いだったそうだからな」
リチャードが視線を下げた。
「そうですか……ドージャ王の魔法によって一番救われたのは、実は私かもしれませんね。彼が時間の巻き戻しを行っていなければ、私は愛する妻を若き未亡人にしてしまっているわけですから」
「それを回避できたのなら、本当に良かった」
そう心から思った。
今現在、僕も彼女もリチャードも生きている。それはごく当たり前のことだと思っていた。
しかし未来のことは分からないのだ。
「時が巻き戻るタイミングは、回数毎に早まっていると彼女は言っていた。だから、使者を送ってどうこうする猶予は、もうないのかもしれない。今この瞬間にもドージャ王は魔法の素材を掛け合わせている最中かもしれないよな。そして僕たちは11年前に戻される。僕は4歳、ベラドナは3歳、リチャードは13か。13からやり直せるとしたら、今度はどうする?」
「13ですか。また騎士団学校でしごかれるのは嫌ですね。しかし、やり直しの人生だとは知らないのですから、きっとまたコツコツと同じ道を歩みますよ。きっとまた殿下の側近になります。何度でも。今の妻とも何度でも恋に落ちるでしょうね」
「そうか。迷いがなくて良いな」
「殿下は何に迷っておいでです?」
「ベラドナとの今後だ。彼女は一度目の人生での僕の仕打ちを恨んでいて、婚約を解消したいと言うんだ。僕には全く覚えがないというのに。僕だって彼女に一度刺されてるんだぞ。おあいこだよな。痛み分けってことで良くないか?」




