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取り返しがつかないこと

ショックをぐっと飲み込み、僕は再びキリッとした顔を作った。


「分かった。では信頼できる側近を遣わせる。王家の使者と分かれば、相応の対応がなされるはずだ」


「その側近とは、リチャードですか? 念のため、前回船で遭難したメンバーは外して頂けますか」


「ずいぶんリチャードのことを気にかけるんだな」


言って、はっとした。


「奴は妻子持ちだぞ。奥さんの誕生日以外にも、交際記念日と結婚記念日にサプライズプレゼントをするほどの愛妻家だぞ」


「そうなんですか。なら尚更、死なせられませんね」


「ああ」


なんだ、違ったか。リチャードに恋心を抱いてるのかと疑ったじゃないか。

船が難破して岩にぶつかったとき、身を挺して彼女を守ったのがリチャードだったからな。

しかし言っておくが、あれは僕の命令だ。

僕が彼女を守れと言ったから、リチャードは忠実に従ったまでだ。

すなわち、君を守ったのはこの僕だぞ!


と声を大にして言いたいところだが、どうやら僕にその資格はないようだ。

前々回の人生で、彼女に冷たい仕打ちをした挙げ句、罪をおっかぶせて死刑にしたらしいからな。

彼女は僕を恨んでいる。

しかし「少し」の情は持ち合わせている。


「では早速、あの夢に出てこなかったメンバーから使者を選んで、ドージャへ送る。持たせる手紙は、君が用意するかい?」


「ええ。すぐに書いて、明日の朝にはお城へお持ちします。しかし、ドージャまでは往復で8ヶ月はかかります」


「片道4ヶ月か? リチャードの話では5ヶ月かかるとか」


「8ヶ月から10ヶ月ということですね……」


彼女は思案顔をした。


「前回は今から1年後、わたくしが十五になったばかりのときに時間が巻き戻りました。その前のときは、2年後。わたくしが16で亡くなった後です。回を重ねる毎に巻き戻りのタイミングが早まっているのかもしれません」


「ということは、今から1年も猶予がないと?」


「分かりませんが、その可能性はあります。使者が行って、戻ってくるのに間に合うかどうか……」


「分からないというわけか。だが、何もしないよりはいいだろう。とりあえず使者はすぐに出そう」


「はい……」


彼女はまだ何か言い足りなそうな顔で僕を見ているので、何?と聞いてみた。


「いえ、あの……よく信じてくださったなと思って。時間の巻き戻りだの、三度目の人生などと急に言われて、よく鵜呑みにできますね。使者も本当に送ってくれるんですか? 私の虚言かもしれないのに。王子の名で、他国の王へ遣いを?」


「ああ、それか……うん、鵜呑みにっていうか……信じがたい話ではあるけど、君が嘘をついてるとは思わない。そこは何ていうか、僕の勘だよ。僕は自分の勘をめちゃくちゃ信じてるからね」


胸を張って答えたが、少し考えた。

彼女の話を信じて、使者まで送った挙げ句、作り話だったら?

彼女の妄想だったら?

色々と取り返しがつかない気がする。


それでもここで彼女の言葉を全否定することの方が、取り返しがつかない気がするのだ。

僕の勘だけど。


「君を信じるよ」


精一杯のキメ顔で言ったが、彼女はぎこちなく頷いて、ではまた明日とクールに去って行った。



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