手紙は届いたのか
彼女曰く、4ヶ月前に病床で記憶を取り戻して以降、ドージャ王の初恋の相手が存命かどうかを調べようとしたが、分からなかったそうだ。
遠い異国の王様の初恋相手が誰かなど、そもそも調べようがない。
そこで、ドージャ王の命を受けて宝探しに出るはずの盗賊が、すでにその任に就いているかどうかを調べるため、盗賊の人相書きを依頼したそうだ。
「もちろん、そんなまどろっこしい事をするよりも、ドージャ王へ直接伺った方が早いとは思いました。だから手紙を書いて、冒険者へ頼みました。ドージャ国へ届けるように。4ヶ月前に」
マジか。彼女の行動力に目をみはった。
どこへ行きたいと聞けば殿下の行きたいところ、何を食べたいと聞けば殿下と同じものをと答えるのが、僕の知っている彼女だ。
「そろそろその手紙が着く頃です。が、本当にあの冒険者がドージャまで行ったのか、行ったとして手紙が王までちゃんと渡ったのか、確認しようがありません」
と彼女は急に弱気な顔を見せた。
報酬を払い外部の者に手紙を託したものの、信頼はできかねる。
我が国とドージャに国交はないため、長旅の末に無事入国を果たしたとしても、王へ手紙を届けることはそう容易ではないだろう。
「分かった。では僕が出向こう」
と僕はキリッとした顔で言った。
王子の力を発揮できる、かっこいいところの見せどころだ。
一国の王子たる僕が会いたいと言えば、見知らぬ王様にも会えるってね。
しかし彼女は惚れ直すどころか、厳しい目を向けてきた。
「それは絶っ対にやめてください。殿下が海に出れば、必ず遭難して、あの島へ漂着します。そしてカースティンと運命の出会いを果たし、真実の愛に目覚めて、わたくしを邪魔者扱いしますから。それが分かっていて、みすみす殿下を海に送り出せません」
「それは、祝賀パーティー前の航路巡りでの話だろ?」
「とは限りません。時期が1ヶ月ずれようが一年ずれようが、殿下が海に出ればあの島へ呼び寄せられる。そんな気がします」
「ええっ、じゃあ何か。僕はもう一生海へ出ては駄目だと?」
「ええ。わたくしに刺されたくないなら」
彼女の目を見る限り、本気だ。冗談ではない。
その真剣な表情を見ていると、ついにやけた。
「何ですか?」
「いや、そんなにその女に取られたくないんだなと思ったら……」
可愛いなと思ってしまったのだ。
つまり、僕が海へ出るとその「カースティン」とやらと恋に落ちてしまうから、それを阻止したいと。
奪われるくらいなら殺してしまいたいと思うほど、僕は彼女に愛されていたのだ。
知らなかった。
彼女は情熱を内側に秘めるタイプなのだ。
「……確かに王妃の座は奪われたくないですね。将来の王妃になるべくして、幼い頃より勉強漬けだったのですから。遊びも我慢して、ワガママも口にせず、この道しかないと思ってコツコツ歩いてきたのですから」
えっ、あ、そっち?
それはそうだ、彼女の言うことはもっともだけど。
「ねえあの、僕に対しての愛着というか……情みたいなのも少しはあるよね?」
また聞かなくてもいいのに聞いてしまった。
キッパリないと言い切られたら、膝から崩れ落ちそうだというのに。
彼女は少し考える素振りを見せ、「はい、まあ、少しは」と答えた。
僕の聞き方が悪かったのだろうが、少しかよとへこんだ。




