エピローグ 01
「そんなことより、俺は少し落ち込みましたね」
「おや、何故ですか?」
神様なのにわからないのだろうか?
いや、本当にわかっているのか、試しているのか?
「俺は何も出来なかったじゃないですか」
「そんなことはないでしょう?」
「いえ、むしろ間違えましたよ」
「どんな間違えを?」
うっ、絶対、試しているな?
これは?
うかつなことは言えない。
そう思っていながら、口を簡単に開いてしまった。
「間違えて罰を与えてしまったじゃないですか」
「それは罰が暴走したからでしょう?」
神様は当然のようにそう答える。
俺は納得がいかず、問い返す。
「ですけど、罰を考えたのも俺だったじゃないですか。あんな罰にしなければ、もう少し違っていたんじゃないですか。というか、全てがわかっていなかった罰なんですから明らかに失敗じゃないですか」
「失敗でもいいではありませんか」
「えっ!?」
俺は神様のーーすべてを思い通りにできるであろう存在らしからぬ言葉に疑問の声をあげる。
「天典さん、過程はともかく結果は失敗だったと思いますか? 入れ替わりは戻り、世界は救われ、むしろ、夏目さんや美冬さん、天堂さんや裁園寺さんが結ばれた。こんな終わり方が失敗だったと思いますか?」
「……いいえ」
わかる。
それは結果論というやつなのだろう?
でも、俺は結果論で結論を出したくなかった。
「そうでしょう? こういう終わり方になったのは貴方が行動し、貴方がどうにかしようとしたからですよ」
「でも、神様なら……」
「私が動いて、ぽんぽんと罰を下しても、誰も納得できませんよ。ですから、裁判教会は今はまだこういう形をとっているのですから……」
「今は?」
「ええ、私が神様だと疑われているうちはダメでしょうけれど、信じてもらえたら変えるのもいいかなと思っています」
いいかなと神様は自分のやっていることに否定的な言葉ものせる。
けれど、否定されない状態になったらーー
「そうなんですか? そうなったら、俺はいりませんね」
「はあ~~、そんなに自分を卑下しないでください。貴方が行動しなければ、この事件は現象として、この世界に定着しなかった。貴方が動き、行動したことで事実は世界に定着し、言うなれば、世界が事実を知ったんですよ」
「世界が事実を知った?」
「ええ、そうです。世界が、人の行動を悪かどうか判断するには世界が、その行動を知らなければならないんです。貴方はそれをしたんです」
そうだろうか?
俺は役に立てたのだろうか?
俺がそう自問するのを待ってくれていたのか、少ししてから、神様は俺の役に立てたかもしれない行動を話す。
「それに貴方がいなければ、さまざまな人の行動の理由や想い――気持ちはわからなかったじゃないですか」
「いや、神様ならわかったでしょう?」
本当にそう思った。
実際、神様が事実を誤解していた部分はなかったと思う。
「いえ、私はね、他人の気持ちが完全にわかると思えるほど傲慢ではないんですよ」
「でも――」
「私が神様だというなら、だからですよ」
「だから? どういう?」
「生き物として違う種族の存在の気持ちが完全にわかるとは思えません」
「っ……」
「その点、天典さんは違うでしょう?」
俺は思い当たる。
そして口に出す。
「俺の異能」
「そうです、言葉に込められた想いだけでもわかる貴方を頼るのは自然なことでしょう? 人の気持ちがわからない神様が人の気持ちがわかる人に頼る。ただ、それだけのことですよ。そう考えると、いいコンビだと思いません?」
「ですけど、異能がなかったら――」
「それを言ったら本末転倒ですよ。貴方の異能も貴方が生きてきた結果、手に入れたモノです。私は貴方がそれを完全なモノにするのを手伝ったり、少しパワーアップさせただけですよ。まあ、せめて、貴方が目指すモノにたどり着けるまでは手伝ってくださると助かりますね」
「俺の目指すモノ」
永遠だ。
だが、俺の中で、それは揺らいでいる。
神様に聞いてみる。
「この願いは間違っていないんですかね?」
「世界渡りの覇王さんの言葉ですか?」
「ええ、そういえば、世界渡りの覇王に何か頼んでいましたね? 何を頼んだんですか?」
「ええ、先ほどの悩みですよ」
「悩み?」
「私に力を与えたモノが居ないか? 居たら、どんな存在か? 探してくれないかと……」
「受けてくれたんですか?」
「ええ」
「悩みを見抜いて、何か言ってきそうですけどね? 俺の時みたいに……。何も言ってこなかったんですか?」
「ええ、きっと自分でわかるか。天典さんがいれば大丈夫だと思ったんでしょうね? まあ、私もそんなに強く頼まず、気に止めておく程度でいいと言いましたからね? すぐに立ち直ると思ったんでしょう」
「俺も自分の願いを見直すべきなのかな? それより、世界の誕生の仕方。始めに循環があったっていうあれ、本当なんでしょうか?」
「さあ」
「神様ならわかるんじゃないんですか?」
「天典さん、私を買いかぶり過ぎですよ。私はあくまでこの世界の神様ですから、他の世界も巻き込んだらわかりませんよ」
他の世界か。
もし、本当だとして、循環が最初にあったなら、俺の目指す永遠――悠久はありえないのか?
いや、循環は世界の誕生に関して――だ。
生まれた後の世界には悠久が――。
だが根源たる循環から展開することで進み、生まれた理から離れた世界は終わらずにいられるのか?
「根源たる循環から離れた世界は終わらずにいられるんだろうか」
「終わりたくないんですか? 終わるいうことは変わることですからね? 終わる可能性があるということは今以上のいいことがある可能性もあるということなんですよ」
「……」
「天典さん? 天典さん?」
「……」
「はあ、聞いていませんね。永遠を目指す……ですか」
天典は気付いていないのだろうか?
根源から離れてなくなってしまうかもと思えるなら気付いてもいいだろうに……。
永遠を目指す理由も離れたらなくなってしまうかもしれないと――。
大切なのは永遠を目指し始めた想いだ。
だが、神様は強く言えない。
永遠を目指し始めた天典の想い。
親友との楽しい時間をずっと感じていたい。
それは自分が、天典を裁判教会の自分のところへ。
天典の親友が日本に居づらくなったから海外の活動へ。
そうやって振り分けた自分のせいでもあるのだから――。




