パシャリ。
豚の丸焼き。
いったい誰が最初に考えたのか知らないが、鉄棒の技としては最弱の難易度を誇っていることは間違いない。幼稚園、小学校低学年のお子ちゃま達にはお馴染みで、彼らが公園や学校の鉄棒からぶら下がっている光景はよく見られる。モコがやればさぞかし似合うことだろう。
だがこの姿勢は物事を考えるのにとてもしっくりくるのだ。
「ツヅク、またそんなことして」
パシャリ。
見下げた言葉とは裏腹に、面白そうにシャッターを切っているのは、写真部部長の荒井歩である。
豚の丸焼き中の俺の邪魔をするとは。ったく、大人しく部室にでも行っててくれよ。
「あんたさあ、頭を逆さにしたら血が逆流してかえって何も考えられなくなるよ」
「うるさい、俺には俺のやり方がある」
「ふうん。でもさあ、あんたのやり方だろうがあたしのやり方だろうが、考えても分かるようなことじゃないと思うけど」
まるで俺が何を考えているのか分かっているかのような口調だ。
いやまあ、そりゃ分かるか。
「『救世主』のことはもう超常現象だと思えばいいんじゃないの? あたしはそう思うようにしてるよ」
「そんな適当な結論、俺は好きじゃない」
荒井は「やれやれ」と大仰に肩をすくめた。「えいやっ」
「うお!」
荒井が俺の脇腹に飛び蹴りを放った。某ライダーを髣髴とさせる見事な必殺キックである。たまらず俺は横っ飛びに地面に落下した。
「いってえな!」
「ようし、じゃあ部室に行くわよ」
荒井はそう言うと、俺の腕を持って体ごとずるずると引きずり出した。
「わーったよっ! 部室行くから! 自分で歩けるから!」
部室に行くと、賀田川と英輔がプリンターで写真を印刷しているところだった。
「ちわっす、ツヅクさんにアユミさん」
「よほほーいっ、センパイにブチョー!」
今日も元気な賀田川&英輔カップル。そしてプリンターから吐き出されるのは中年マダム達と犬の排泄シーンを写したポートレートの数々。いやぁ今日も平和だなぁ、と俺は思った。
「あんたたち、またたくさん撮ったわねぇ。デジタルは数が半端ないわー」
荒井はプリンターから印刷された写真の一枚を手に取った。ゴールデンレトリバーが巨大な糞をしている真っ最中の瞬間が激写されていた。
「アユミさん、時代はデジカメっすよ。数気にしないでガンガン撮れます」
「あたしはフィルムだけど数気にしないでガンガン撮ってガンガン現像してるわよ」
「さすがっすねぇ」
うんうん、と英輔は感心したように頷いた。
「ブチョーッ、わたしが撮った写真も見てくださいよぉ」
賀田川が荒井に擦り寄って、自慢の写真の数々を押し付けた。
「今見てるってば」
荒井は苦笑しながらも、どこか楽しそうだ。
そんな荒井と後輩二人の様子を眺め、俺は微笑ましい気持ちになった。
生きててよかったぜ。うん。




