未来の死因
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「あたし、思うんだけどLSX70で示された寿命って言うのは、一つの道に過ぎないんじゃないのかな。ほかにもきっと道はあるんだよ」
荒井はさっき自販機で買った缶コーヒーをぐいっと飲み干し、近くのゴミ箱に投げた。缶はゴミ箱の縁にぶつかり、カランという小気味良い音を立てて闇の中へ落下していく。
俺と荒井は駅前広場から離れ、今は荒井の家の近くの児童公園のベンチに座っている。
夕方とはいえ日が暮れるのも遅くなったからまだ子供が遊んでいるかと思いきや、この公園は砂場とベンチと電話ボックスという児童公園らしからぬ佇まいを呈していた。当然の帰結として、子供の姿は皆無だった。
俺にとっては好都合だけど。
なにせ一緒にいるのが重装備の軍人もどき。また警官に来られたんじゃ敵わない。
「英輔たちみたいにか?」
「そう」
「うーん」
それは俺もずっと考えていたことではある。
賀田川と英輔はLSX70で示された寿命を超えたんだ。俺も同じように自分の死を避けることだって不可能ではないと思う。
ただ問題なのは、俺がどういう死に方をするかが分からないことだ。
死ぬ原因が分からなければ対処の仕様が無い。はっきり言ってしまえば、賀田川と英輔を助けれられたのは奇跡だ。もし地震や火事であの二人が死ぬことになっていたら、俺たちにはどうすることもできなかっただろう。
死に方、か……。
俺はまだ十七歳だ。そんな若さで残りの寿命があと十日しかないなんて、事故か事件で死ぬとしか思えない。俺は何の病気も患っていないわけだし。
だが――
「何? もしかしてまた諦めちゃったとか?」
荒井が疑わしげな視線を向けてきた。
「ちげーよ。英輔たちの場合は連続通り魔に襲われて死にそうになってたけど、俺の場合はどうなのかなって思ってさ。もしかしたら事故かもしれないだろ。車にぶつかってとか、隕石がぶつかってとか。そう考えると、死ぬ原因なんてそれこそ無限大に考えられるんじゃねえのか」
「ううん、隕石はともかく、たしかにそうね。武装すればいいってもんでもないのか」
「てかその武装、全部エアガンとかだよな。まさかほんもんじゃねえよな……」
そのライフルとか、すんげえリアルなんだけど。熊とか一発で仕留められそう……。
「当たり前でしょ。殺傷能力は皆無よ。実弾じゃなくてBB弾だし。でもそこそこダメージはあるよ。中でもこのライフルは凄いよ。熊だって一発で気絶させられるわ」
「ははは……」
サバゲーはゴーグルつけてプレイするのが最低限のルールらしいけど、ルール全無視のライフルだった。そんな威力じゃゴーグルだって貫く。
「頼むから人に向けて撃つなよ……」
「分かっているわ。敵に向けて撃つ」
「はあ……」
とりあえず、話を戻そう。
「事故って死ぬかもしれない」
「事故って? 車の免許も無いのに?」
「あ、そうか。じゃあひき逃げされるかもしれねえぞ」
「じゃあツヅクをどこかに埋めておけばいいわ。それなら車にひかれることもないでしょ」
「生き埋めじゃねえか」
「あ」
……「あ」じゃねえよ。ついうっかりみたいな顔すんなよ。
「例えば死にそうな災害って何だろ」
俺は気を取り直して言った。
「地震」
「あとは?」
「雷」
「あとは?」
「火事」
「…………」
「あと一つ言わせなさいよ」
「真面目に考えろ」
「真面目に考えると、一つの可能性しか思い浮かばないんだけど」
「……やっぱそうか。そうなるよな」
「うん、そうとしかならないよ。他に思い当たらないわ」
そう、俺は分かっていた。
分かっていて、それでもほかの僅かな可能性にすがりつきたくて荒井にしょうもない質問を繰り返した。
でももう、あらかた可能性は潰されたと言っていいだろう。
災害でもなければ事故でもない。
事件だ。
それも――
「殺人、だよな」
「……そうね」
荒井は俯いてそっと呟くように言った。
ここ最近、俺が関わった事柄を考えてみると、どう前向きに考えても殺人しかないと思う。
通り魔――あの黒ロングコートの男が、また現れるんだ。タイミング的にそう考えるのが自然である。
俺は隣に座る荒井の顔色を窺う。
ずっと先を見据え、試合運びを考えるスポーツの監督みたいな表情を浮かべていた。荒井も言うまでもなく黒ロングコートの男のことを考えているはず。
あのナイフで、俺は殺されちまうのか……?
「あと十日か……」
「大丈夫、あんたを死なせたりしないから」
「なんでそんな自信満々なんだよ」
俺は苦笑した。
が、荒井は本当に自信があるらしく、不敵に微笑んでさえいた。
一年の頃の荒井が、また舞い戻りやがった。
なんとか、なるかもしれねえ。




