オーケー、想定内だ。
*
んー、勢いで歩き始めたはいいけど、結構時間かかりそうだなぁ。一旦家帰ってチャリに乗ったほうが早かったかも……。
などと思いながら、俺は家とは全く違う方向へ足を運んでいる。
モコと別れてすぐに荒井の携帯に電話をしてみたが、電源が切られているらしく繋がりもしなかった。仕方なく、俺は徒歩で荒井の家に向かうことにしたのだ。
あいつには、謝っておかないと。
それと、力にもなってほしい。なってくれなきゃ、自分一人でなんとかするしかねえ。
学校まで戻り、そこをさらに通り過ぎて十五分ほど歩くと駅前広場が見えてきた。学校帰りの高校生や暇そうな大学生、その他よく分からない人種が平日だというのにたくさん歩いていた。
皆楽しそうだ。
それか、これから楽しいことがあるのだろう。
俺も……俺も「これから」ってやつをこの手にしないと。
無意識のうちに俺はぎゅっと拳を作っていた。
駅前広場を通り抜けようと人ごみの中を歩いていると、不思議なことに前方の人込みが分断され道が開けていく。
一瞬、俺は自分が何かおかしな格好をしているのかと思って自分の体を点検してみるが、とくに異常はなかった。頭の上に鳥の糞の直撃を受けて気付かずそのままということも無ければ、今朝耳掃除した時の綿棒が耳に突き刺さったままということも無かった。大体、俺は今朝耳掃除などしていない。
とりあえず俺を避けて周りの人が離れているわけではないことが分かって、ほっと胸をなでおろした。
――が、直後、前方からやって来る迷彩服を着込んだ軍人を見て、俺は度肝を抜かれた。人々が避けていたのは俺ではなくその軍人だったらしい。
軍人は俺の姿を認めると、つかつかとその歩を早めて接近してきた。
俺はそいつに会うためにこうやって家とは全然違う方向へわざわざ歩いてきたわけなんだけど、そんな当初の目的も忘れて逃げ出したくなった。
……何考えてんだよ、あいつ。
軍人が俺と目と鼻の先でようやく止まった。
目の前で見ると、その重装備っぷりはただの軍人とは思えなかった。
肩にライフルを担ぎ、サブマシンガンを携え、腰につけているホルスターにはいつぞやのベレッタとそれとは別に回転式の銃が収まっている。
まるでマシンガンの弾薬のごとく胸の前で十字にクロスしている物は、よく見れば爆竹だった。手榴弾の代わりにでもするつもりなのか。
この特務仕様の重装備は何だよ。
つうか、第一声に物凄く困るんですけど……。
「えーと、荒井さん」
とりあえず軍人、のような女子高生、荒井歩に俺は声をかけた。
これで人々の注目は荒井だけじゃなく、その知り合いらしき男の俺にも集まってしまった。
……帰りてぇ。
「ツヅクはあたしが守る」
荒井はそう言うと、空に向かってマシンガンを乱射した。無数のBB弾が空に放たれ、数秒後に雨粒のように降ってきた。
「どんな敵が現れようと、蜂の巣にしてやるわ。言っとくけど、ツヅクが拒否してもあたしはあんたの護衛をするわよ」
カシャッという効果音が似合いそうな動作で、荒井は俺にサブマシンガンの銃口を向けた。
俺を護衛するんじゃねえのかよ。
……笑える。
「ぷっ」
「えっ、えっ、な、何よ、なんで笑ってんの!?」
「あははははは」
「もうっ、何なの!」
「ははははは、いやぁ馬鹿だなーと思ってさ」
「ひ、酷いよ! あたしはツヅクを守ろうと思って――」
「いや、そうじゃないって……」
いかんいかん、危うくまた泣きそうになってしまった。
俺はぐっと涙を瞳の奥に押しやる。
もう本当に参る。諦めていたのは俺だけじゃねえかよ。どいつもこいつも諦めが悪いったらないな。
「俺がさ、馬鹿だなーと思って」
「つ、ツヅク……」
「荒井、俺――あ、やべえ」
視界の右前方から警官が二人、こちらに近寄ってくるのが見えた。誰かが怪しい軍オタ女子がいるとでも通報したのか、単にこの人だかりを見つけただけなのかは知らないが、俺たちに用があることだけは間違いない。
面倒だな。うん。
「荒井、行くぞ」
「えっ――」
俺は荒井の手を引いてその場から走り出した。
人々の間を縫うように俺たちは駆け抜ける。一歩を踏み出すたびに、荒井は体からカシャカシャと音を立てている。
ちらりと背後を振り向いてみると、警官二人は今やっと俺たちの逃走に気がついたらしく、走り始めたばかりだった。これなら余裕で撒ける。
「サンキューな、荒井。俺、諦めねえよ」
俺は走りながら荒井に言った。
荒井はこれといって何も返答しなかった。
オーケー、想定内だ。




