表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/36

荒井は、俺の寿命を。

       *


「なんだって? まさかおめえ、この前みてえにエアガンぶっ放す気か? 言っとくけど、今日の俺はもう遊ぶつもりはねえんだぜ」

 黒ロングコートの男はへらへら笑いながら言った。目深に被る帽子からちらちらと左目のレンズが露出する。

「あたしだって遊ぶ気なんかないわよ」

「じゃあなんだぁ? その自信はよぅ」

「あたしは――あたしたちの寿命は今日終わることにはなっていない。つまり、あんたなんかに殺されたりはしないってこと!」

 荒井は黒コートを指差して、犯人を名指しする名探偵のように宣言した。

 …………。

 ……あ?

 今、なんつった?

 私、じゃない。私たち? 複数形?

 お、俺も入ってる……ってこと?

「な……き、貴様、他人ならまだしも自分もLSX70で――」

「で、あんたの寿命はあとどれぐらいなのかしら」

「や、やめ――」

 黒ロングコートが「やめろ」といい終わらない僅かの時間に、荒井はさっと繋ぎの胸ポケットからLSX70を取り出し、ファインダーを覗くことなくシャッターを切った。写っているかどうかは微妙なところだ。

「け……けけけ。脅かしやがって。そんな撮り方じゃ写ってねえぞ。知らないみたいだから言っておくけどな、被写体の顔がはっきりと写ってないと駄目なんだぜぇ。今の撮り方じゃあ、顔どころかピントも合ってねえな。けけけ」

「知らないみたいだから言っておくけど――」

 荒井はLSX70から吐き出された写真をぴらぴらと揺らしながら言った。「あたし、写真部の部長なの」

 さすがだ、と俺は思った。

 一か八かでシャッターを切ったように見えて、実は荒井はちゃんと計算していたんだ。黒ロングコート野郎の動きとシャッターを切るタイミングを。

 ファインダーだって見る必要はない。ファインダーは荒井の頭の中に写し出されているんだ。心配することと言ったら、明るさが足りないからブレている可能性が高いこと。

「へえ、これは驚きね。あまり長くないみたいね、あんたの寿命」

「な――」

 今にも窒息しそうな顔になる黒ロングコートの男。

 どうやらピントの心配も杞憂だったようだ。

「お、俺はいつ死ぬんだ!?」

「あんた知りたいの? そんなこと、本当に知りたいの?」

「ぐっ」

 荒井は悪魔的な笑みを浮かべた。

 どっちが悪者だか分からなくなってくるぜ……。俺は苦笑する。

「き、貴様……まさか幸福操師こうふくそうしか?」

「コウフクソウシ?」

「ちくしょう、冗談じゃねえ。素人だと思ってたのによぅ。まさか同業者とはな……」

「あ、あんた、さっきから何言ってんの?」

「撤退ってことさ!」

 次の瞬間、黒コート野郎の左目から閃光がはしった。

 カメラのフラッシュなんてもんじゃない。太陽を直視したような凄まじい眩しさに、視界の全てが真っ白になった。

 その白い世界の中で、俺は一年の頃のことを思い出していた。荒井がポラロイドカメラを持ってきた日のことを。


『ほらツヅク、こっち向きなよ。撮ってあげるから』

『なんでそんな上から目線なんだよ』

『部長だから』

『つうか撮って欲しいなんて思っちゃいねえし』

『あたしが撮ってあげるんだよ? もっと喜びなさい』

『なんでそんな尊大なんだよ』

『部長だから』

『……へいへい。もう好きに撮りやがれ』

『いっひっひ。じゃあ遠慮なく――』

 パシャッ。


 あの時使ってたカメラ、なんだったけな。覚えていない。だかポラロイドカメラであることはたしかだ。そしてもし、それがLSX70だとしたら。

 荒井は、俺の寿命を知ってるんだ。

 俺の残り時間を。

 目を開けると、黒コートの男はいなくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ